旅の始まり
俺たちは組合長の部屋から出て、お嬢たちが使っていた部屋へ荷物を取りに行った。
お嬢たちの部屋はベッドが二つあるだけで、それ以外はとくになにもない部屋だった。しかし、一つだけ目につくものがあった。
それは、人が持つにはあきらかに大きすぎる鞄だ。
お嬢曰く、『フィオがいるから荷物を増やすことにしたの。今までは必要最低限にしていたけど、その必要もなくなったしね。これくらい持てるでしょう?』とのこと。
まぁ、実際フィオは難なく鞄を持つことができた。
さながらバックパッカーのようだが、動きは軽やかだ。本人的にも気になるところはないらしいので、俺たちはそのまま組合から出ることにした。
「それで、推薦ってなんなんだ?」
そして、俺はその道中で気になったことを聞いてみることにした。
人もいないし、なにより暇だったから。
「組合の支部長一人と国の代表からそれぞれ推薦を貰えると、一級になる条件が揃うの。簡単に言えば昇進ね」
「へー」
なんと言うか規模が凄いな。
組合の支部長ってのにはあんまりピンとこないが、国の代表からも貰うとなるとかなり凄いことのように聞こえる。
それだけ一級の冒険者ってやつは凄いことなのか。
「嬉しいことに聞こえるけど、そんな雰囲気じゃなかったね」
そうなんだよ。
だから、気になっているんだ。
お嬢は推薦された時あきらかに嫌がっていた。どちらかというと面倒臭そうな顔だった。
「五級から一級まで冒険者の階級はあるのですが、一級への昇進だけは喜ばしいことだけではなんです」
「というと?」
「一級冒険者は権力者からは特別扱いしてもらえるけど、一般人からはそうじゃないの」
「一般的に一級冒険者は人の形をした化け物という扱いになるんです」
「そうなのか」
それは確かに嬉しいことではないな。
人の形をした化け物とはなんとも嫌な表現だ。
推薦なんて言ってるが、やってることは仕分けと一緒だ。
人間という括りから排除して別のものとして扱うってことになる。
しかも、国がそれをするってことは、特別なものとして囲い込む意図もあるんだろう。一つの国家に一つの一級冒険者のような感じで。
まさに人の形をした化け物だな。
「例えば、一般の宿に泊まろうとすれば遠回しに断られるし、なにより怖がられるの」
「大変そうだな」
そこまでいくと、今までの生活が立ち行かなくなるはずだ。
とてもじゃないが、喜ばしいことではない。
できることなら避けたいことだ。
「まぁ、バレなきゃ問題ないけど」
「なら」
「でも、私たちには無理」
うん?
バレなきゃいいんだよな?
それなら変装なりなんなりすればいい。芸能人みたいに。
俺たちも……。
俺たち?
「まさか……」
「私たちが一級に推薦された原因は貴方たちよ。その貴方たちがこれ以上ないってくらい目立つからすぐにバレる」
「そっか」
「亡霊と白すぎる女を連れた二人組の冒険者だもんな……」
もう単語が目立ってる。
亡霊と白すぎる女は単語の響きから主張が凄まじい。
お化け屋敷の方がまだしっくりくる。
「なんだか申し訳ないね」
「最初からわかってたことだから大丈夫よ」
「それに一級には特権も与えられますから、悪いことだけではありません。それに同業者からは憧れの存在でもあるので、そう酷い扱いを受けることもないでしょう」
「そうか」
「なら、いいんけど」
それなら、まだ気が楽だ。
二人の人生が俺たちのせいで滅茶苦茶になるのは避けたい。後悔した時に申し訳ないでは済まないからな。
一級にも良いことがあってもらわないと困る。
「というか、かなり先の話よ。私たちは推薦を一つ貰っただけ。まだ二級なことに変わりないわ」
「その通りです」
「確かに」
「そうだね」
ごもっともな指摘だな。
気分はすっかり一級冒険者御一行だった。
流石に気が早すぎたか。
それにスターテアって国に着いたからと言って、すぐに推薦を貰えるとは思えない。着いたら着いたで複雑な手続きとかがあるかもしれない。
あと忘れてはいけない。俺たちの本登録もある。
やることは山積みだから、完全に余計な心配だったな。
「それより目の前の問題の方が大変よ」
「目の前?」
「なにかあるのか?」
目の前の問題と言われても、なにも見当たらない。
今俺たちは組合の建物から出て都市サンドの大通りにいる。
天気は晴れ。人通りも結構ある。相変わらず、チラチラこちらを見てくる視線を感じるが、別に気にするほどのことでもない。
これから出発することを考えると、なかなかの好条件だと思うんだけどな。
「貴方たちが目立つから馬車に乗せてもらえないの」
はい?
「でも、この前は……」
「この前は冒険者しかいませんでしたし、そもそもあれは組合長が用意した馬車でしたから……」
「……つまり、一般の馬車には怖がられて乗せてもらえない?」
「そうよ」
そうなると必然的に……。
「それじゃあ……」
「しばらくは徒歩ね」
マジか。
次の都市までどれくらいあるか知らないけど、相当キツいんじゃないか?
「俺たちはいいけど、二人は大丈夫か?」
「大丈夫じゃないから、さっさと出発して距離を稼ぐわよ」
「仕方ないことです」
確かにこれは大変な問題だな。
先の心配なんてしてる場合じゃなかった。
俺とフィオは疲れなんて感じないが、二人はそうじゃない。
徒歩旅は相当疲れるだろう。
なんとかしてやりたいが、どうしようもなさそうだ。
どうにかできるならお嬢は最初からどうにかしてるだろう。
「借りられないのか?」
「ここへ戻って来ないから組合からも借りられないわ。因みに、ここは馬を売ってないから馬車も手に入らない」
「そっか……」
完全に詰んでるな。
「……行くか」
「ええ」
「はい」
「うん」
そうして、俺たちの旅が始まった。
徒歩で。
青々とした草原を馬車で駆け抜けることもなく。
徒歩で始まった。
「なんか、気分下がるな」
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