それぞれの考え
それからはあっという間だった。
俺たちはすぐに廃館から出て、寄り道することなく廃都市を突き進んだ。道中の魔物はお嬢が全て爆破したので足を止めることもなかった。
そうして、廃都市から出ると朝と変わりなく馬と馬車が待っていた。どうやらお嬢の言う通りで馬と馬車は盗まれることはなかったみたいだ。なので、俺たちは来た時と同じように軽口を叩きながら都市サンドへ帰った。
しかし、なぜかダインのおっさんとマリアさんは来た時よりもあきらかにテンションが低かった。なにか考え込んでいるような顔で辛気臭かったな。
とはいえ、別に俺たちが二人を励ます理由はないので、そっとしておくことにした。いい大人なんだから勝手に元気になるだろう。
それに帰りは行きと違って、少しだけ早く帰ってくることができた。空が赤く染まりきる前にサンドに着いたのだ。なので、尚の事二人のことはどうでもよかった。なぜなら、そこで二人とはお別れだから。ダインのおっさんとマリアさんは組合の前に着くと、お疲れと言ってから馬車を降りた。呆気ないもんだ。
それから、組合に馬と馬車を返したあと俺とフィオは組合の厩舎にまた預けられた。
お嬢が言うには今日はこれから組合長に帰還の報告をして終わりらしい。詳しいことは明日だそうだ。
なので、俺たちは組合の厩舎で朝を待つことにした。
◆◆◆
「どうした?」
「これからについての話をしに来たの」
俺とフィオが時間を潰すために朝型か夜型かの話をしていると、お嬢とベクトルがやって来た。
「二人に合わせるよ?」
「せっかくなので、話し合って決めようと思ったんです」
相当暇だったのかもな。
わざわざ夜更けに厩舎に来る理由が他に思いつかない。
それにしても、これからと言われても困るな。
別に俺たちは二人について行くだけで満足だ。
「話を聞いてもらえるのはありがたいけど、俺は土地とかわからないからなぁ」
「確かにそうですね……」
この世界の歩き方的なガイドブックがあるなら話は別だが、おそらくないだろう。
だから、俺はとくに行きたいところもしたいこともない。
もちろん、これから見つかるかもしれないが。
「じゃあ、フィオはどこか行きたいところとかある?」
「うーん、時間が流れすぎてるからよくわからないかなぁ」
まぁ、そうなるよな。
フィオは浦島太郎状態だもんな。
行きたいところがあっても、地名が変わっていたらややこしい。
お互いにまずは地理の勉強をした方がよさそうだ。
「……どこでも良いってこと?」
「そうなるな」
せっかくここまで来てもらったのに申し訳ないな。
しかし、わからないものはわからない。
もう少し落ち着いてから、もう一回聞いてくれ。
「二人ともなにか言いなさい」
「いや、だから」
「なんでもいいが一番困るの」
「夕飯じゃあるまいし」
俺たちは夕飯のリクエストを聞かれたのか?
違うよな?
ていうか、そんな顔するなよ。
明かりはベクトルが持つランタンだけだから、お嬢の不機嫌そうな顔がいつもより怖い。
「例えば、見てみたいものとかでもいいんですよ?」
ナイスフォローだ。
しかし、見てみたいものか。
せっかく異世界とやらに来たからなぁ。
前世で見たことないものを見たいなぁ。
「じゃあ、俺はどデカい城とかかな」
「どデカい城ですか?」
ファンタジックなテーマパークにあるような城が見てみたい。
そりゃ天空にある城とかがあるなら見てみたいが、自分でも想像できないから取り敢えずどデカい城にしておく。
「どうせなにか見るなら見応えあるのがいいしな」
「城ね」
俺の希望を聞いてお嬢は腹の虫がおさまったのか、不機嫌そうな顔をやめてくれた。
脅しかよ。
「フィオさんはどうですか?」
「強いて言うなら……お祭りかな」
「いいですね」
なるほど。
確かに祭りはいいかもな。
前世でもよくテレビで海外の祭りを見た。
あんなのがこっちにもあるなら楽しそうだな。
「城と祭りね」
「ああ」
「どっちもありきたりね」
「酷い言いぐさ」
率直な感想すぎるだろ。
俺たちは無理矢理絞り出して答えたんですけどね。
「それに目的地までの道中で、腐るほど見ることになるわ」
「まあまあ」
うん? 目的地なんてあるのか。
いやまあ、普通はあるか。
「目的地ってどこ?」
「スターテアよ」
「この大陸の最南端にある国のことです」
へー。
よくわからないが最南端って言われると遠そうだな。
まぁ、ついて行くけど。
「なにしに行くんだ?」
「貴方たちの本登録よ」
「本登録?」
俺たちのってことは従魔登録のことを言ってるんだよな。
けど、登録なら組合長に許可をもらったはずだ。
どういうことだ?
「冒険者組合の従魔の登録はあくまで仮なの」
「へー」
「でも、スターテアで本登録すれば正真正銘の従魔ってことになる」
「そうなのか」
従魔というシステムを創り出した国がスターテアというらしい。そして、従魔関連の取り決めはスターテアが独占しており、他は全て仮という扱いになるそうだ。なので、スターテアで従魔登録されると国家公認の従魔として扱われるってことらしい。
「因みに正真正銘の従魔になったらどうなるの?」
「扱いが良くなるそうよ」
「そうよって」
そんなふわっとした情報でいいのか?
「僕たちも初めてのことなので」
「私たちもまだスターテアへ行ったことがないの。それに従魔なんてそうそう従えられるものじゃないんだから、そんなに詳しいわけないじゃない」
「へい」
ベクトルだけは申し訳なさそうな顔をしてるが、お嬢には逆ギレされた。
怖い怖い。
「それに、少なくとも私たちが死んだ後も国の保護下に入るから安心よ。スターテアは魔物を信仰する変な国らしいから、貴方たちが気にしていたようなことも起きないでしょうし」
「変な国って言うなよ」
これから連れて行かれる国のことを変って言うな。不安になるだろ。
まぁ、殺人兵器として使われることがないなら、冒険者組合だろうがスターテアだろうがどこでもいいけどさ。
「何十年も先の話だろうけどな」
「そうだね」
「ええ」
「その通りです」
お嬢たちが死んだ後の話をされてもな。
先のことすぎてピンとこない。
もちろん、この先なにが起こるかわからないが、都市の一つや二つ更地にする覚悟で守るつもりだ。お嬢も邪魔するやつは潰すと言ってたしな。
これくらいの心構えの方が丁度いいだろう。
「じゃあ、大体決まったか?」
「そうね」
「じゃあ、また明日ね」
「はい」
それぞれの希望も言ったし目的地も聞いた。
打ち合わせとしては十分だな。
「しっかり寝ろよ」
「ええ、お休み」
「お二人とも、お休みなさい」
「ああ、お休み」
「うん、お休み」
そう言って、二人は厩舎から出て寝床へ戻って行った。
するとあたりは暗くなり静かな時間が流れる。
「なんだかんだ優しい二人だよな」
「そうだね」
本当のところはわからないが、今のはあの二人なりの気遣いだったのかもしれない。
先のことに目を向けろと言わんばかりの露骨な話題だったし。
これは働き甲斐があるな。
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