創造主
暗い地下室の中央に横たわるドラゴンは淡く光る魔術陣に照らされて神々しさを感じさせた。しかし、実態は失敗だらけの犯罪者だ。
そんないいもんじゃない。正真正銘のクズだ。
「本当に間抜けね」
「本当にその通りで返す言葉もない」
お嬢がピクリとも動かない創造主に遠慮ない評価を下すと、創造主は腹を立てることもなく素直に認めた。
その声はどこか会話を楽しんでいるようで、とても不愉快だった。
「さっさと死ねば良かったのに」
「僕もそう思うよ」
「……」
今度はフィオが創造主に声をかけたが、声色は変わらない。
腹の立つほど楽しげで優しい声のままだ。
「でも、本当に人生はなにが起こるかわからないね。まさか自分で作ったゴーレムに殺される日が来るなんて」
「……」
「……」
「おや? 違ったかな? てっきりそうだと思ったのに。ずっとここで一人だったから、勝手に話を進めてしまう癖でもついたかもしれない。申し訳ないね」
勝手にペラペラと話し出すその様はとても気持ちが悪い。
相手のことなど気にもせず、自分が満足するためだけに話していることがすぐにわかる。
「……私はそれの殺し方を調べるから、貴方たちはそれと話でもしてて」
「……いいのか?」
「ええ、それはもうなにもできないわ」
「そっか」
お嬢の言う通りで創造主は先程から全く動かない。
それは話す時も同じで、口も動いている様子はない。おそらく俺が声を出す仕組みと同じなんだろう。流石は創造主といったところか。
しかし、他はなにもかも上手くいっていないのか、魔術陣の光に照らされるだけで動く様子は全くない。それどころか、ドラゴンの角や鱗には埃が積もっている。
「できるだけ早くするから」
「わかった」
そう言って、お嬢たちは創造主の処分方法を調べるために俺たちから離れて行った。
「随分仲がいいね」
「お前と違って運が良かったんだよ」
「それは羨ましい」
「だろうな」
失敗続きでこんな地下に閉じ籠もることになったお前からするとさぞ羨ましいだろう。
こっちは出会う相手に恵まれた。
「それで確か……あなたは武神だっかな?」
「そうだけど、覚えてないの?」
「申し訳ないがずっとここで一人だったから、記憶も朧気でね」
なら、なにを考えて過ごしていたんだ。
こんなところでずっとお前は。
「人をこんな体にしておいて酷い」
「全くだな」
「申し訳ないね。本当に」
「思ってもないくせに」
それに嘘までついてくる。
俺たちを怒らせたいのか?
中身の伴っていない謝罪ほど腹の立つものはない。
「いやいや、本当に思っているよ」
「なら、初めからこんなことするな」
「それは無理な話だ」
「どうして?」
「憎かったからね、世界が」
世界が憎い。
どうでもいいことに巻き込まれたんだな。俺たちは。
こいつの憂さ晴らしのために俺たちは……。
「どうして世界が憎かったの?」
「妻と娘が殺されたんだよ。しかも、同じ王に仕える仲間に。理由は嫉妬だそうだ。自分より優秀で幸せな人間が許せなかったと言っていたね。それを聞いた僕は彼と彼が生きていた世界そのものが憎くなってね。あとは、まぁ君たちが知っているような流れだと思うよ」
「……」
「あっそ」
別に同情するつもりはない。
こいつの勝手な事情だ。
こいつの復讐に俺が、俺たちが付き合う理由はやはりない。やるなら一人でやればよかったんだ。
一人で勝手に復讐して失敗していれば、こいつ以外不幸になることはなかった。
「しかし、言っちゃなんだがこっちだとよくある話だろ」
「こっち? あぁ、そうか。そうだね。君の言う通りで、本当によくある話だと自分でも思うよ」
そりゃ、そうだ。
魔物がいて人間が普通に武装している世界なら、人殺しなんて珍しくもなんともない。
偏見だろうがなんだろうが関係ない。
実際に人間が殺されることに変わりないはずだからな。
「でも、許せることでもない」
とても穏やかで凍りつくような冷たい声だった。
そして、その声は俺の考えを強制的に無意味にするものでもあった。
よくあることだったとしても関係ない、と。
「君がいた世界はどうだったんだい?」
「…………一緒だ」
一緒だと思う。
魔物がいなくても人は死ぬ。
わかりやすい武器を持っていなくても人は死ぬ。
他人が気に入らないというだけで人は人を殺す。
同じだ。
「それは良かった」
「なにがだ?」
「いや、なにと聞かれてもね。なんとなくだよ」
「……ふざけてるのか?」
「そうじゃないけど、なんと言えばいいのかな。安心したと言えばいいのかな? ほっとしたんだ。だから、ふざけてるわけじゃない。それに今更お互いの死生観についてお説教なんて御免だろう?」
「……そうだな」
本当にその通りだよ。
お前の狂った死生観なんて聞きたくもない。
「開き直ってるの?」
「そうなのかな? 反省はしているけど、後悔はしていない。だから、まだ開き直ってもないと思うよ」
「そう」
「今でもできることなら、上に出て暴れ回りたいくらいだしね」
「そっか」
「まぁ、無理なんだけど」
本当に腹の立つことにこいつは楽しそうに話す。
俺たちが不愉快だとしても、気にする様子もなく静かに楽しんでいる。
「お待たせ」
どうやらお嬢はこいつの殺し方を見つけてくれたらしい。
ようやくこのポンコツとおさらばできる。
思い残すことを沢山思い浮かべて死んでくれ。
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