出会い
「…………」
「とりあえず、初めまして?」
棺から起き上がった女性は少し戸惑いつつも確かにこちらを見てそう言った。
声に恐怖や怯えは一切感じられない。むしろ、感じるのは純粋な疑問。
というか、豪快に蓋を蹴り開けたわりに礼儀正しいな……。
でも、挨拶はやはり大事か。
「ど、どうも」
まずい。久しぶりすぎて、どう話したらいいかわからない。
別に人と話すのが苦手ということではないが、短くないブランクがあったからな。
「えっと」
「あなたはゾンビ的ななにかですか?」
これは違うか? 流石に違うな。
初めに聞くことがゾンビかどうかはない。
しかし、いくら初対面でも安全確認は必要だと思う。そう思うことにした
「え、そうなの?」
「いや、俺も知らない」
「えーー」
起きていきなり変な質問されたら、聞き返したくもなるよな。わかるよ。
でもな、質問に質問で返すのは良くないぞ。俺も聞きたいことだらけなんだ。
それから、そんな残念そうな顔をしてくれるな。
「いやいや、そっちが棺みたいなのに入ってるから、俺もあなたはゾンビなのかなって思っただけでな?」
「はぁ……」
「こっちに聞かれてもわかんないって」
しつこいようだが、逆にこっちがいろいろと聞きたいくらいなんだ。
その一つめが『あなたはゾンビですか?』は改めて考えると意味不明だが……。
「そうなの?」
「そうなんですよ」
しかし、この短いやり取りでこの要領を得ない会話となると、わかったことは一つ。
それは、お互いにこの状況がよくわかっていないということだ。
「それに俺が棺を開けてみたのも、誰でもいいから話し相手がほしかったからであって」
「うん」
「よく考えた結果ってわけじゃない」
完全な思いつきだ。
普通の人はよく考えていたら、あからさまに怪しい棺をまず開けたりしないしな。
けどまぁ、俺は人じゃないうえに、とにかく誰かと話したかった。
「寂しかったの?」
「そりゃ、こんな辛気臭いところに一人でいたら寂しくもなるだろ?」
俺はお化け屋敷を一人で楽しむ趣味はない。
例え俺が今一番お化けらしい見た目をしていたとしてもだ。
「確かに、あんまりいい部屋じゃないね」
だいぶ言葉を選んでるな。俺はついさっきお化け屋敷みたいだと頭の中で例えたのに。
百歩譲ってお化け屋敷じゃないとしても、俺は控えめにいって最悪に近い部屋だと思う。
「まぁ、俺もこの部屋と隣の部屋しか見たことないから、あんまり知ったようなことは言えないけど」
ただひたすらに印象がよくない。
「そうなんだね」
「そうなんだよ」
やっと認識が共有できた。
ここからはより建設的な話ができるかもしれない。
「ちょっと聞きたいんだけどね」
「どうした?」
まぁ、いろいろ聞きたいことは沢山あるだろうな。
ほとんど答えられないだろうが、さっきよりは会話の感覚を思い出してきたから努力はしよう。
「私の靴がどこにあるか知らない?」
「……確かめてはないけど、あのクローゼットの中かも」
「そっか、ありがと」
そう言って、女性は棺から出て靴を探しに行った。
そうだよな。別に棺に入ったまま話さなくていいよな。
なら、靴が必要だよな。うん。
この人、結構余裕あるな……。
「うわっ」
「今度はなんだ?」
クローゼットを開けたまま固まっているので、様子を見に行ってみると。
そこには古びた荷物と馬鹿の一つ覚えのように白い靴がクローゼットに入っていた。
というか、よく考えてみるとクローゼットに靴を入れるかね? ここに靴を入れる感性がわからん。
「私の荷物はなんだかボロボロだし、靴は凄く白い……」
「気づいてると思うけど、全身真っ白だからな」
「……なんて言ったらいいかわかんない」
「汚れが目立ちそうだな」
「追加で嫌なところができちゃった」
冗談にならなかったか……。
「……なんか、悪いな」
「……いいよ、別に」
とりあえず、靴を履いてから俺たちは最初の位置に戻ることになった。
椅子があればよかったんだが、この部屋に椅子はない。机はあるんだけどな。
なので、仕方なく棺を椅子の代わりにすることにした。棺は女性にとって高さ的にも丁度いい高さだったんだ。
もちろん、俺は座れないので浮いたままだ。その方が話しやすいからな。
「この際だからついでに聞いちゃうけど、この棺ってなにか知ってる?」
「いや、さっぱりわからんな。ただ見た目は水晶っぽいよな」
「確かに」
それ以外に見た目からはわからない。
削った感覚はとくになにも感じなかったし、扉に穴を開けた時と大きな違いもなかった。
もしかしたら、刻まれていた模様がなにかヒントがあったかもな。
もうなにもないが。
「開ける前は蓋になにか丸い模様があったが、穴を開けたら消えたよ」
「丸いってことは魔術陣かな?」
「たぶんそれ」
あの模様は魔術陣っいうのか。
一つ勉強になった。ファンタジーだ。
「冷たかったりしないのか?」
「うーん、石みたいな感じだから冷たくはないね」
「氷じゃないんだな」
俺がそう確認すると女性は棺をぺたぺた触りながら頷く。
「結局なにもわからないね」
「そうだな」
「まぁ、いっか」
「俺もこれだけ人と話したのは久しぶりだから結果としては満足だ。面白みにかける話題だったが、やっぱり人と話すのはいい」
なに一つとして問題は解決していないが、すっきりした気がする。
「それならよかったけど、君は本当によく喋るね」
「まぁな」
飢えてたからな。
感想か高評価お願いします!