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趣味です。

 組合長は俺たちの不満を無視して話を続ける。


「ポルター・ガイスト。君は別の世界からこの世界に来たそうだね?」

「正確には連れて来られたって感じだけどな」


 おそらく異世界の話はお嬢から聞いたんだろう。


 組合長も確認するように聞いているから誤魔化しても意味はなさそうだ。


 組合長のいう通りで、俺はこの世界に見覚えはない。


 となると、俺に起こった現象は世界を超えた誘拐または拉致だ。しかも、肉体を失うというスペシャルなオプション付きの。


 笑っちゃうね。


「そうだね、その認識の方が正しいか。まさしく君は私たちの世界に無理矢理連れて来られた」

「まぁ、そうだな」


 やけに言い切るな。


 無理矢理連れて来られたかどうかなんて、本人にしかわからないはずだ。いや、本人でもそこまではっきり自覚はできない。俺も最初はなにがなんだかわからなかった。


 なのに、組合長は知っているかのように話す。


 どういうつもりだ?


「その現象を私は知っている。いや、私だけじゃない。この国に生きるほとんどの人は知っている」

「どうしてだ?」

「昔この国、ヒリングサッツ教国は異界から強靭な人間を召喚する魔術を開発し使用した」

「……」

「目的は悪の討伐と言われているが、実際はそんなお伽噺のようなものではなかったそうだ。具体的な内容を話し出すと長くなるから過程は省かせてもらうが、沢山の苦難を乗り越えて召喚された人間は国から言われた通りに悪とやらの討伐に成功したんだ。そして、その人物は英雄と呼ばれるようになった。しかし、そこから悲劇は始まった。英雄は悪の討伐からしばらくして、故郷へ帰らせてくれと言った。国もそれに応えようと動いたが、情けないことになにもできなかった。そうなると当然英雄は絶望した。それはもう嘆き悲しんだそうだ。自分はもう家族に会うことすら許されないのかと。そして、全てを諦めた英雄は遺品を残して自害したんだ」

「……最悪だな」

「全くだ。そして、このお伽噺と共に伝えられた最悪の魔術がある。その魔術の名は『未還の魔術』と言う。君をこちらに連れて来た魔術の名だよ」


 よくもまあそんな酷いことをしたもんだ。


 ここまで酷い話は聞いたことがない。


 なんだ悪の討伐って。


 自力で解決しろよ。


 馬鹿馬鹿しいにも程がある。


「ねえ」

「なんだい?」

「……自害って本当なの?」

「確かにそう伝わっている。なにぶん私も当時は子供だったからね。伝え聞いたことしか知らない」

「そっか」


 うん?


 いつの話なんだ?


 組合長が子供の時で、フィオがその人間を知ってる風に聞いたってことは……。


 今の話は三百年前の話で、組合長は三百ちょいってことか!


 なんか凄いな。


 なんかな。


「その様子だと君は当時のことを知ってるのか?」

「……うん」

「未還の魔術については?」

「それは知らない。私が知っているのは彼がとても尊敬できる人だってことだけ」

「……そうか。君にはその確認をしたかったからね」


 フィオは召喚された人間のことを知っているんだな。


 だから、自害って聞いて確認せずにはいられなかったんだろう。


 尊敬できる人って言うからには、それなりに親しかったはずだ。だとしたらショックも大きいだろう。


「大丈夫か?」

「うん」


 それに俺も無関係ってわけじゃない。


 同じ未還の魔術の被害者だ。


 まぁ、状況は少し違うがされたことは同じだ。


 それになんというか……。


「とにかく、不死身の君が未還の魔術を知らなくて良かったよ」

「どういうことだよ?」


 そりゃまあ、そんな魔術は知らないに越したことはないだろうが、不死身となにか関係あるのか?


「未還の魔術を見た者は死罪だからね」

「…………はぁ?」


 どういうことだ?


 しかも見ただけで死罪って……。


「かなり話はそれてしまったが、本題はそこだ。君たちの主人たる二級冒険者ディジーは製造法を詳しく理解していた場合、死罪になる」

「それは、いくらなんでもやりすぎだろ」

「言いたいことはわかる。しかし、この国にとってはそれほど過去を重く受け止めているということなんだよ」


 だとしても、お嬢が殺される理由にはならない。


 せっかくここまで連れて来てもらったのに、死罪なんてあり得ない。絶対にさせない。


「製造法は詳しく見ましたし、完璧に理解しました」

「……自分がなにを言っているのか理解しているのかね?」

「もちろんです」


 ……変だぞ。


 お嬢はどうしてああも堂々としているんだ?


 自分が死罪になるかもしれないんだぞ?


「しかし、あの法には但し書きがあります。そうですね、一言でまとめると『被害者の判断に任せる』といったものです」

「本当なのか?」

「はい。首都で調べた確かな情報です。とはいえ、未還の魔術についての法は今まで一度も適用されたことはありませんから、組合長が知らなくても無理ないかと。私たちが調べた時もどちらかというと運用させるため、というよりは自戒というか教訓の印象が強かったので」

「僕も一緒に確認したので間違いありません」


 知ってたのかよ。


 それにしても、凄い詳しいな。


 お嬢のことだから嘘はついてないと思うが、なんでそんなマニアックな法律まで知っているだ?


「なぜそこまで詳しいことを?」

「趣味です」

「はぁ?」

「その土地の文化を調べることが私の趣味なので」

「……わかった」


 確かに言ってたな。


 人の営みを調べるのが好きだって。


 でも、そんな一度も使われたことのない法律まで調べるかね。


 しかも、ネットもなにもないのに。ネットがあったって俺は調べないな。


 流石はお嬢だな。


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