冒険者組合
冒険者組合の建物はかなり威圧感のある建物だった。
外観をわかりやすく表現するなら、黒くて四角い建物だ。
とはいえ、全てが真っ黒というわけではなく壁面の素材が暗い色の石なので、全体的な印象がそうなっている感じだ。
まさに質実剛健って言葉がぴったりな建物だと思う。
唯一ある飾りつけは入り口の扉の彫刻だけで、物凄く入り口がわかりやすい。
そんなわかりやすい扉にお嬢は真っ直ぐ突き進んて行った。
お嬢は扉を押し開けて組合に入り、ベクトルはその扉を押さえて俺たちを向かい入れてくれた。
扉の向こう側は武器や鎧を装備した人間ばかりというわけではなく、私服の人間や組合の制服らしきものを身に纏った人間が多く見えた。
俺はもっとガチャガチャした雰囲気を思い浮かべていたんだけどな。
床も壁も天井も外壁の素材と同じらしく、比較的しっかりした造りになっている。窓は少ないものの灯りは十分確保されていて、思っていたよりも室内は明るい。
しかし、ここは冒険者組合。イメージ通りの格好をした人間もちらほら見かける。
そういう人間は揃いも揃って俺たちを睨みつけるように観察してきた。ある者は立ち止まって俺たちを睨みつけ、ある者は目を見開いて驚愕の表情を浮かべていた。そして、余裕があるものはテーブルで軽食を取りながら、こちらを興味深そうに観察している。
そこで俺はお嬢からの指示を思い出した。
おそらく、こういう剣呑な雰囲気を見越しての指示だったんだろう。なら、名一杯愛想よくしてやろうじゃないか。
俺たちらしくな。
「やあやあ、諸君しっかり働いてるかね?」
「私たちに見惚れて駄目っぽいね」
「それは全くもってよくないな」
「だね」
静まり返る室内で俺とフィオが声を張り上げると、辺りにいた人間は一斉にこちらを向いた。
喋ったことに驚いてるんだろう。
俺はこのリアクションを実は気に入っている。
ドッキリが成功したみたいで、結構楽しい。
「まずはそこで俺たちを睨みつけてる君!」
「君!」
「……」
「普通に邪魔だろ! 立ち止まってないでさっさと歩きたまえ!」
「通行を妨げてるよ!」
今は全員立ち止まっているが、さっきまであいつを避けてみんな動いてたからな。
それに気づいたのか指摘されたやつは舌打ちをしてから立ち去った。感じ悪いな。
「次は今にも腰を抜かしそうなくらい驚いている君!」
「君!」
「ひっ!?」
「まぁ、一回落ち着きたまえ。別になにもしやしない」
「私たちは安全だから。ね?」
「え?! ぁ、え? はい……」
普通にビビりすぎだ。
この見た目だから気持ちはわからなくもないが、流石にがくがく震えられると見てるこっちが心配になる。
それでもまだ俺たちが怖いのかチラチラこちらを見てくるが、なんとか奥の受付の方へ向かって行った。あの調子だと受付の人は大変そうだ。
「あとそこで軽食を食べてる君!」
「君!」
「俺か?」
「そうだ、君だ。流石にこっちを見るなとは言わないが、にやにやしながらこちらを観察するのはよくないぞ」
「失礼だよ」
「確かにそうだな。悪かった」
「以後、気をつけたまえ」
「たまえ」
「ああ」
まだにやにやしているから、話をちゃんと聞いていたのかはわからないな。
しかしまあ、比較的まともな反応だった。なかなか肝が座っている。
そういう人間は嫌いじゃない。
「そして、最後にそこの赤毛のおっさん。働きたまえ」
「昨日も会ったね」
赤毛のおっさんは昨日と違い、かなり厳つい格好をしていた。
なんとおっさんは身の丈程もある赤い大剣を背負っていたのだ。さらに服装も昨日のボロい私服とは違い、胴回りと足だけの赤い鎧を装備していた。おそらく、これがおっさんの仕事着なんだろう。
「俺はおっさんじゃねえ!」
「良い返事だ! そう思わないかね、フィオ君?」
「そうだね、ポルター」
おっさんはさっきのへらへら野郎とは反対側にある階段の近くに立っていた。
ここまで少し距離はあるが、そこからでも俺たちのところまで声はよく届いていた。
というか、おっさん呼ばわりにそこまで反応するのは思わなかった。
お嬢も昨日会ったおっさんだと気づいたのか、おっさんの方に近づいていく。
すると組合内はざわざわと騒がしくなった。
それは俺たちがようやく動き出したことに対する動揺なのか、それとも既に組合内に知り合いがいたことに驚いているのか。
どちらかはわからない。
「ね、ねえ、なんなの貴方たち」
「私の従魔たちです」
俺たちがおっさんのもとに到着すると、隣りにいた短髪の美人さんがお嬢にそう尋ねた。
聞かれたお嬢ははっきり答えたんだが、美人さんは答えが信じられないのか訝しげな顔をした。
まぁ、別に他人にどう思われようと関係ない。
これから上の人に会ってちゃんと登録してもらえれば、俺とフィオは立派な従魔だからな。
なにかしらの組織の庇護下に入ってしまえば、最低限の権利は保証されるだろう。
そうなれば信じようが信じまいが関係ない。
「あ、あの……」
「なにか?」
おっさんたちと軽い挨拶をしていると、組合の職員らしき少女がおっかなびっくり話しかけてきた。
こっちの成人年齢はまだ知らないが、その少女は十代半ばに見える。
そんな少女が勇気を出して、よくわからない魔物を連れた目つきの悪い魔術師に話しかけたと思うと褒めてやりたくなるな。
さぞ怖かっただろう。お嬢は。
「組合長がすぐに来るようにと……」
「わかりました」
「では、またな諸君」
「またね」
俺たちは職員の指示に従って石造りの階段を上がって行った。
階段を上がる前に別れの挨拶をしたら、また騒がしくなったが気にしない気にしない。
「完璧かと」
「なら、良かった」
職員の案内に従い歩いているとベクトルがそう言ってくれた。
どうやら組合の中に入る前の指示はこなせたらしい。
無理して明るく振る舞っていたわけじゃないが、お嬢もなにも言わないのであれで良かったんだろう。
「こ、こちらにどうぞ」
すると職員は一つの扉の前に立ち止まってそう言った。
ここが組合長の部屋らしい。
「「失礼します」」
「失礼しま〜す」
「ま〜す」
お嬢とベクトルは昨日も来たからなのか、挨拶をしてから躊躇なく中に入って行く。
そうなると俺たちも入らないわけにはいかないので、適当に挨拶をしてお嬢たちの後に続いた。
「……なんだ、それは」
すると初対面の組合長は頬をひくつかせながらそう言ったのだった。
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