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 俺たちは若い門兵さんに連れられて城壁の中に入っていった。


 城壁の中は石レンガの壁に必要最低限の灯りがついているだけで、とくに変わったものはない。たまに個室のようなものを見かけるが、机と椅子が置いてあるだけだった。


 そうやってあたりを観察しながら若い門兵さんについて行くと、目的地の地下の牢に着いた。


 地下の牢は俺が思っていたよりも、小汚いものだった。


 しかし、ただ小汚いというよりは単純に使われてないから埃っぽいというだけで、入ることにそこまでの抵抗は感じなかった。


「入れ」


 そう言った若い門兵さんは牢の鍵を開けて俺たちと少し距離をとった。


 自分で入れってことなのか、それとも俺たちにビビってるいるのか。


 まぁ、別にどっちでもいいけど俺はフィオに開けてもらわないと入れない。


 牢に入るために牢を破るわけにはいかないからな。


 するとフィオが先に入ってくれたので俺はあとに続いた。


「初牢屋だ」

「そっか」


 前世では警察のお世話になることもなかった。


 なので、俺にとって初めての牢はここだ。


 アニバーサリーだな。


「フィオは牢に入ったことはあるのか?」

「うーん、昔にお説教で入れられたかな」


 お説教で牢に入れられる感覚はわからない。


 そんな子供を押し入れに閉じ込めて反省させる感覚で牢って使われるのか?


「なにかしたのか?」

「昔なんでもないことで喧嘩しちゃってね。それで、衛兵に捕まって牢の中で頭を冷ませって言われたの」

「どんだけ暴れたんだよ」


 捕まるほどの喧嘩って結構なもんだろ。


 もちろん、こっちの世界の喧嘩事情は知らないが、若い門兵さんの表情はあきらかに引いている。普通じゃないんだろうな。


 それとも、時代的な問題なのか?


 フィオは三百年前に生きていたわけだから、当時はそれが普通だったのかも。


「別に大暴れしたんじゃないよ? 当時はそこまで強くなかったし。けど、やっぱり才能はあったんだろうね。喧嘩相手の男三人を殴り倒しちゃったんだ。それで騒ぎになってね」

「十分大暴れしてるじゃねぇか」


 なにが『殴り倒しちゃったんだ』だよ。


 うっかりやっちゃったみたいな感じで言われても正直ついていけない。


 しかも、さり気なく己の才能を自慢してるし。


 話してる途中で楽しくなるんじゃありません。しっかり反省なさい。


「そういうポルターだって喧嘩くらいしたことあるでしょう?」

「ないよ。喧嘩なんて」

「本当に?」

「口喧嘩がせいぜいだよ」


 フィオのいう喧嘩はあきらかに殴り合いの喧嘩だ。そうなると、俺には縁遠い話だ。


 俺みたいなヘラヘラしたやつは、のらりくらりとそういう荒事からは距離を取るからな。


 喧嘩の経験なんてない。ましてや、殴り合いなんて尚更だ。


「ポルターはいい子ちゃんだっんだね」

「そりゃもう、巷では有名ないい子ちゃんだったよ! 品行方正と言えば俺のことだったな」

「よくわかんないけど、たぶん嘘だよね?」

「まあな」


 当然全くの嘘だ。


 俺は良くも悪くも一般人だった。


 まぁ、今は魔物でゴーレムで従魔だけどな。


「う、うるさいぞ!」

「はあ?」

「な、なんだ!」


 いや、なんだはこっちの台詞だよ。


「今まで俺たちの話に聞き入っていたやつがなに言ってんだよ」

「そうだよ」

「それはっ」

「いやいや、今更取り返そうたって無理があるだろ」

「しっかり最後まで聞いてたもんね」


 フィオの話にきちんとリアクションまでしておいて、なにを今更。


 途中で仕事ってことを思い出したんだろうけど、流石に遅い。


 というか、さっさと牢の鍵をかけろ。


 そこが一番の問題だろうよ。


 なんで入れられる側の俺たちが牢の中で待っているんだ。


「それに舐めるなよ?」

「……」


 そうだ。舐めてもらっちゃ困る。


 俺たちの本気具合が伝わったのか若い門兵も固まってる。


 身の程をわきまえてもらわないとな。


「俺たちが本気を出せばこの調子で一日中騒げるからな?」

「見張りの人を寝かさないからね!」

「だ、黙れ!」

「……やめとけ」


 やっとしっかりした方の門兵さんが来た。


 もう登場の仕方から貫禄を感じさせる。


 後輩が俺たちに手間取ってるのを見越して、仕方なく様子を見に来たって感じがしてる。


 いわゆる頼れる先輩ってポジションなんだろう。


「でも!」

「さっきの飼い主からの伝言で『下手に絡むと頭が痛くなる』だとさ」

「流石お嬢だな」

「もうわかってくれてるね」


 結構な言い方だけど、間違ってはいないな。


 さっきからずっと喋りっぱなしだから、あながち否定できない。


 というか、ここに来るまでの道中もずっと喋りっぱなしだったな。


 頭が痛くなるかは知らないが。


「わかったなら、戻るぞ」

「……はい」

「お前らも雑談ぐらいはまだいいが、程々にしておけよ」

「「はーい」」


 もちろん、わかってる。


 こんなところで馬鹿騒ぎするつもりはない。


 できてもアカペラ大会が限界だろう。


 絶対しないけど。


「それはそうと、見張りとかいないのか?」

「従魔用の牢にはいない。そもそも実際に使われるのも初めてだ。それに、お前たちには必要ないだろ」

「まあな」


 脱走するつもりは微塵もないからな。


 俺たちはただお嬢が登録とやらを終えるまで待っていればいいんだ。


 登録だけなら、そんなに時間もかからないだろう。たぶん。


「……」

「……」

「……」

「さっさと閉めろ」

「えっ? あ、はい!!」


 先輩に言われてやっと鍵を閉めたよ。


 さっきからずっと開けっ放しだったもんな。


 そりゃ、俺たちに見張りは必要ないって判断するはずだ。大人しく待ってたんだから。


 それにしても、ここの警備は大丈夫なのか?


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