見張り町
「もういいわね?」
「ああ、もうお腹いっぱいだ」
「頑張って慣れるね」
「お願いします」
そう言って頭を下げるベクトルは、ただの真面目そうな好青年に見える。
けど、俺たちはもうこいつの正体を知っている。
色眼鏡なしで見ることは難しい。
もちろん、仲間なんだから仲良くしたいとは思う。しかし、あの愛の重さに慣れることができるかどうか……。
「ところで、お二人とはどのようにして出会ったんですか?」
「廃都市で拾ったの」
「なるほど、廃館で出会ったんですね」
「なんでわかるんだよ……」
ベクトルは頭もキレッキレなのか。
俺の中のベクトルのイメージが定まらない。
賢くてイケメンでおそらく戦闘もできて、愛が重い青年。
なんだ、こいつ。
「廃都市のことを調べていると、皆さんなにもないと言っていました。しかし、皆さん口を揃えて『よくわからない廃館がある』と付け加えるんですよ」
「へー」
「僕も実際に見たわけではないので、なにがよくわからないのかわかりませんでした。しかし、ディジーさんがお二人を拾ったということは、その廃館しか思い浮かびませんでした。なにしろ他になにもないわけですから」
「そうだね」
「それにお二人は普通の魔物とはあきらかに別格なので、廃都市のなにもないところから突然現れることはあり得ません。となると、やはり廃館でディジーさんと出会ったんだろうと考えたんです」
「賢いな」
「ありがとうございます」
あのお嬢の一言からよく思いつくもんだ。
実際、ベクトルの予想はほとんど合っている。
ついでにただの魔物じゃなくて、ゴーレムだと説明すると満足そうに頷いていた。合点がいったらしい。
これだけなら、賢くて格好良いやつなんだけどなぁ。
「行くわよ」
「はい」
ベクトルに圧倒されて忘れていたが、まだ見張り町とやらに入ってもいなかった。
流石にいつまでも立ち話してるのもな。
「流石は異世界。見事なまでに荒れてるな」
「あんまり関係ないと思うけど」
そうは言うが、こんな光景はなかなか見れるもんじゃない。
見張り町に入ってまだ少ししかたってないが、もう異世界って感じだ。
木造の新しい家やボロい家も気になるが、一番気になるのはたまに捨てられてる武器だ。捨てられてるだけあってもう使えそうもないが、その武器はどこからどう見ても剣だ。剣を道端に捨ててある土地なんて生前にはなかった。少なくとも、俺は知らない。
これだけで異世界って感じが十分している。
「町の奥に入ったら、今までよりも大人しくして」
「「はーい」」
別に今までも暴れたりしてないけどな。
今は他の人間が見当たらないが、もう少ししたら見かけるようになるんだろう。
そうなると、この町は騒がしくなるのか静かになるのか。
俺たちは魔物ってやつだから、殺そうと武器を向けてくるやつが現れるかもしれない。はたまた、警戒してあたりは静まり返るのか。
今から楽しみではある。
とはいえだ。
「俺たちはここに入ってよかったのか?」
「ここは私たちみたいなのが勝手に作った町だから別にいい」
「この先のサンドに入る場合は、手続きが必要ですがね」
「「へー」」
警備が緩いのか?
まぁ、この雰囲気から治安が良いとは最初から思ってなかったけどな。
スラムって言われた方がまだ納得できる。
「私たちみたいなのってことはお嬢たちの同業者か?」
「大体はね」
「なるほど」
てことは、この見張り町は冒険者が作った町になるのか。
冒険者に町が作れるイメージはないが実際に町にはなっている。
もちろん、区画整備とかできている感じはしない。建物も壊れたはしから建て直しているんだろう。だから、新しい家とボロい家がごちゃごちゃしているんだと思う。
流石は戦闘職って感じだ。
「変な町だね」
「正確に言うと、ここは町ではないんです」
「どういうことだ?」
一応見張り町って名前がついてるなら町なんじゃないのか?
人間もそれなりに住んでるなら、それはもう立派な町だと思ってたんだけどな。
「この見張り町は先程ディジーさんが仰った通り冒険者が作りました」
「ああ」
「しかし、それは領主の命令でも依頼でもなんでもなく、勝手に冒険者が作っただけなんです。なので、町とは認められません」
「そっか」
「本来は町の中央に見えるあの塔だけだったそうです。またあの塔も廃都市の監視のためだけに建てられたものだそうです。しかし、昔塔の下に商人が訪れたみたいで、そこから他の商人も集まりだし他の人間も集まりだしました。その中で一番多かったのが廃都市を目当てに集まった冒険者でした」
「そして、そのうちに冒険者が住み着くようになったと」
「その通りです」
そういうことなら、この雰囲気も納得できる。
警備も治安も気にする必要がない。荒れて当然だな。
誰もここを守る必要がないわけだからな。だって、ここは人間が勝手に集まって勝手に住み着いた町に見えるだけの場所だからな。
「だから、俺たちみたいな魔物が入っても、取り締まるやつがいないと」
「ええ」
「でも、暴れたりすると他の冒険者が黙ってない」
「その通りよ」
なるほどな。
ここに魔物がいても外と同じだから、お偉いさんも感知しないってことか。
それが良いことなのか悪いことなのか俺にはわからない。
それに俺たちみたいな魔物でこれなんだから、きっと冒険者に紛れて犯罪者もいるんだろうな。
そう考えるとな。
「やっぱりここは十分異世界だよ」
「そっか」
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