個性
「おかしいだろ?!」
今のやりとりはなんだ?!
『お疲れ様です』までは理解できるが、いきなり『美しい』ってなんだ?!
それに、お嬢の『簡潔に』ってのもなんだ?!
意味不明にもほどがある!
「そうだよ! そこはおかえりなさいでしょ!」
「違う! 今はそこじゃない!」
確かにおかえりなさいと言うのが普通だけど、今そこはどうでもいい!
もっと気になることがあったはずだ!
「今の『美しい』の方が気になるだろ!」
「それもね!」
どう考えても、普通の会話じゃない。俺たちは異常ななにかを見せつけられたんだ。
説明してもらわないと困る。
「自分で説明して……」
「はい」
お嬢はどこかうんざりした様子でお仲間さんに説明するように促した。
するとお仲間さんは待ってましたと言わんばかりの勢いでこちらを向いた。
「まず、僕はベクトルと言います。はじめまして」
「は、はじめまして。俺はポルター・ガイストだ」
「はじめまして、私はフィオ・ガイスト」
「ポルターさんとフィオさんですね」
勝手に名字を足してるな?
ということは、あの骨を合わせて俺たちは三兄弟か三姉妹になってるのか。
まぁ、今は放置だ。後で問い詰める。
「確か、なぜ僕が突然ディジーさんに『美しい』と言ったかでしたね?」
「そうだ」
そこからの会話が全ておかしいからな。
「それは僕がディジーさんと三日間も離れて過ごしていたからです。僕がこの見張り町で廃都市の話を聞き回っている間に、ディジーさんはおそらく廃都市で気の向くままに調査をしていたはずです。もちろん、それは構いません。僕がディジーさんを束縛することなどできませんから。しかし、この三日間は僕にとって、とても辛いものでした。ディジーさんのそばにいることができないということは、僕の生きる意味の大半がなくなるわけですから。当然ディジーさんにとって、僕はいなくてはならない存在ではありません。そこまで自惚れてはいません。それはともかく、ディジーさんと離れて三日もの時間が経ち、僕も廃都市の話を大方聞き終えた頃に直感のようなものがありました。ディジーさんが帰って来られると。そして、ここで僕がディジーさんを待っているとその時が来ました。貴方たちを連れて、ディジーさんが帰って来られたのです。僕はディジーさんを見て感動に打ち震えました。無事に帰って来るどころか、貴方たちを引き連れていたのですから。なにがあったがまではわかりませんが、きっと素晴らしい偉業を成し遂げたんだろうと理解しました。しかし、僕も無様な姿は見せられません。ディジーさんに相応しい男となるには、感極まって膝をついている暇はないのです。とはいえ、この気持ちをいつまでも仕舞っておくことも難しい。どうにかして、ディジーさんに伝えたいと思った時に、ディジーさんは『簡潔に』と仰りました。そこで、僕はこの三日間の耐え難い思いと感極まる思いを『美しい』という一言にまとめたのです。そういう経緯で僕はディジーさんに思いを伝えたのです」
「……強烈だな」
「……そうだね」
頭がボーッとしてくるな。
正直なにを言っていたか、よくわかっていない。
リアクションからして、フィオもそうなんだろう。
話の主役であるお嬢はどうなのか見てみると、初めて見る顔をしていた。
虚無の顔をしていた。
いや、虚無の顔なんて俺も見たことはないが、そうとしか表現できない顔だった。
「理解できましたか?」
そう言ったベクトルの笑顔だけが、この場で輝いていた。
◆◆◆
「……改めて、仲間のベクトルよ」
「改めまして、未来の夫のベクトルです」
「そういうのはもうちょっと小出しにしてくれよ!」
「理解が追いつかないよ!」
ベクトルは未来の夫って言った。
おそらくボケてはいない。真剣に言っている。
そこが怖くて仕方ない。
別になにかされるとは思わないが、ベクトルの空気感が恐ろしくてしょうがない。
独自の世界が今俺たちを包み込んでいる。
これは愛が重いとかそういう次元の話じゃない。
「整理するために聞くが、そういう関係なのか?」
「……一応ね」
一応ってなんだ?
今の質問にイエスかノー以外の答えってあったか?
いや、そりゃ愛の形はいろいろあるんだろうげとさ。
あんな暗い顔で言うことか?
「僕は第一印象が良くないみたいで……」
「自覚があるなら、抑えろよ」
「精進します」
これは無理だな。
なんとなく精進しても抑えきれるとは思えない。
お嬢もベクトルには手を焼いたんだろうと思う。
あの『簡潔に』には諦めの気持ちが、これでもかと詰まっていたんだろうな。
「もういい?」
「よくないよ!」
「……慣れて」
「「えーー」」
キッツいなぁ。
直近の課題は人間社会に溶け込むことかと思ってたけど、ベクトルに慣れることかぁ。
これはなかなか難しいぞ。
「というか、俺たちに抵抗感とかないのか?」
「全くありません」
「どうして?」
ここで一旦俺たちのペースに落とし込みたい。
そして、なにより落ち着きたい。
「ディジーさんの判断に間違いはありません」
「いやいやいや」
そういうのは良くないぞ。
思考停止はお嬢のためにもならない。
それに怖い。
「そして、ディジーさんがお二人を引き連れていることから、従魔だとすぐにわかったので」
「……考えてはいるんだね」
「……賢い変態か」
これは先が思いやられるな。
今のところ上手くやっていける自信が全くない……。
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