異世界
お嬢は何気なくゾンビを爆破して先に進んでいくが、俺は気になることができた。
「お嬢、こっちの人間はあんなのをホイホイ撃てるのか?」
「ホイホイは無理ね」
今さっき気軽に撃った人間の言葉だから、どこまで信用していいか。
フィオも驚いていたから、聞いてもわからないだろうし。
「もちろん、理屈を知っていればどんな魔術師でも再現は不可能じゃない。けど、発動するまで時間がかかったり、一発でバテたりするのが普通ね」
「つまり、お嬢は普通じゃないってことか?」
「こんな生活を八年も続けていれば、それなりにはなるものよ」
ならないと思うけどな。
そりゃ、継続は力なりっていうから言いたいことはわかる。
しかし、八年で人間を爆発させるようになるとは思えない。というか、思いたくない。
恐ろしいにも程がある。
「けど、良い師匠と出会えたということも、理由として付け加えておく必要があるわね」
「どんな師匠だったの?」
それは気になるな。
こんなことを教える師匠は絶対にヤバい。
生きていく上で必要だとしても、もっと穏やかな対処法を教えてもいいだろうに。
「一言で言えば、過激な人だったわ」
「それはまあ、さっきのでわかったな」
「私を弟子にとった理由も、自分の知識と知恵をどこまで他人が受け継げるのか試すためだったわ。当時はかなり過酷な教えられ方を経験したわ」
「それは良い師匠なのか?」
聞いた感じからして優しそうではない。
スパルタを遥かに超えてそうな雰囲気だ。
過酷な教えられ方と言って言葉を濁してるあたりがヤバい。
こっちの世界だから許されてるだけで前世ならアウトだと思うね。
「良い師匠よ。師匠の魔術書をよく読ませてくれたし、質問にも絶対に答えてくれた。その代わり、一冊の魔術書を三日で覚えるように言われたけど」
「無理だろ」
「ええ、無理よ。その度に怒鳴られたりしたわ。そうして、何度も読んで覚えたの」
「大変だったんだね」
その師匠はどうかしてるな。
三日で一冊を丸暗記は無理だろ。もし、できたとしても理解できてないはずだ。
まぁ、結果としてお嬢が納得してるなら、なにも言うことはないけども。
「師匠も詰め込みの限界を感じてからは比較的に穏やかになったし、私に必要だと思うことは全て教えてくれた。こうして、今の私があるのも師匠のおかげだから、私にとっては良い師匠だったわ」
「そっか」
「なら、いいが」
本人がそう言うなら良い師匠だっただろう。
しかし、お嬢が普通じゃないというのはよくわかった。
その師匠にこの弟子ありって感じだ。
普通の八年はきっともう少しマイルドだと俺は思う。
こっちの世界のことをまだよくわかってない俺だが、自信を持ってお嬢は普通じゃないと言える気がする。
たぶん過酷エピソードはまだあるんだろうけど、聞くのが怖くなる。
「こっちの世界はかなり過酷な気風なんだな」
「さっきのは極端な話だけどね」
フィオが極端って言うなら、きっとそうなんだろうな。
こっちの人間が二人いて本当に良かった。
俺だけだと比較ができずにお嬢の話が普通だと思ってた可能性もある。恐ろしい可能性だ。
それに周りの環境もそう思わせる一因になっただろう。
この廃墟の世界で生きていくには、それくらいはしていかないとすぐに死ぬかもしれない。そう思うことはたぶん簡単だ。
なにせ魔物までいる世界なんだ。俺が生きていたところとは全く違う。安全は確保されていないのが当たり前。自力でどうにかするしかないはずだ。
だからこそ、お嬢の師匠も厳しく教えたのかもしれない。
お嬢が死なないように。
そう考えると、理解できてないまでも納得はできる。
周りを見渡してみると、かなり離れたところにゾンビが見える。
俺にとっては普通じゃない光景だが、こっちではそう驚くことじゃないんだ。
このダンジョンと呼ばれる廃都市も存在して当然のものなんだ。
俺がいた世界と似ている部分が多かったとしても全く別の世界。
「どうしたの?」
「改めて異世界だなと思ってな」
人間の姿も建物の形も似ている。こっちの時代的なものはわからないが、俺の元いた世界にもここと似た時代があったはずだ。
そう考えると、まるでお伽話のようだ。
「気になるものでもあった?」
「いや、なにもかも全部変わったなと」
これがお伽話のような荒唐無稽な世界だったとしても、俺はそこに存在してしまっている。
それを望んでいようがいまいが関係ない。
ただ受け入れるしかない。
一人で嘆いていた時のことを思い出す。
急にこんなことを考え始めた理由は、外に出て改めてここが別の世界だと実感したのが原因だとすぐにわかった。
「……そうだね」
駄目だな。
無駄に感傷的な気分になっていた。
これからって時に辛気臭い雰囲気を出してるようじゃ先が思いやられる。
それにフィオまで暗い気持ちにさせてしまったら、この場の空気が死ぬ。こっちが勝手に決めたことだが、ポジティブ担当だからな。
今みたいな顔は似合わない。
どういうわけか、お嬢も気を遣ってこちらを見ないし。
まぁ、お嬢はただ興味がないだけかもしれないが。
「せめて楽しもうと思う」
「うん」
落ち込むのはもう十分だ。
無理に明るく振る舞うつもりはないが、冗談を言えるくらいには余裕を持とう。
辛気臭い化け物ほど恐ろしいものないしな。
なら、騒がしいくらいが丁度いいだろう。
これからは注意されるくらいおしゃべりしてやる。
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