相性
そうして、ちょっとした身元調査を終えた俺たちは庭の跡地を突き進む。
しかし、お嬢の目つきがより鋭い。
「どうした?」
「なにが?」
「目つきが変だなと」
言葉を選んで言ったが、はっきり言うと怖い。
初対面時の目つきの鋭さを超えている。
「眩しいだけよ」
「ああ、暗視を使ってたんだね?」
「ええ」
暗視ってことは意味合い的に魔術か。
効果もそのままの意味だろうな。
暗いところでも視力を確保する魔術だと思う。
だから、サングラスを取った直後みたいな目になってるのか。
「なんとなく理解したけど、大変そうだな」
「いつもならこうはならないわ。あの館が暗すぎたのよ」
「そうなのか」
俺とフィオは問題なく見えていたけど、生きてる人間には相当暗かったらしい。それで、暗視とやらの効果を上げたと。
「目は大丈夫なのか?」
「ええ、外に出る前に効果は消したわ。けど、強くした分まだ少し効果が残ってるの」
「暗視って目に直接魔術をかけるから、消しても効果が少し残るんだっけ?」
「ええ」
目に直接は怖いな。
あくまでイメージだけど自分でレーシックするみたいに聞こえる。
俺はちょっと無理かな。
「その点、貴方たちは問題なさそうね」
「ばっちり見えてるね」
「俺に関しては目すらないからな」
たぶん眩しいとか暗くて見えないとかないんだろうな。
思うところはあるが便利といえば便利だ。
「もうそろそろで着くけど大丈夫か?」
「もう大丈夫よ」
お嬢はしっかり前を見てそう言った。
そう言われると、心配するのも野暮ってもんだ。
俺たちは鉄格子の穴から外に出た。
「久しぶりの外はいいな!」
「確かにね」
正直に言うと、そこまでの感動はない。
ここに来たのは二回目だし、空を見たのも二回目だ。
とはいえ、館の敷地からようやく出ることができたんだ。そこに関しては感慨深いものがある。
解放感が心地いい。
「でも、ポルターは異世界出身だから本当の意味での外は初めてだよね?」
「細かいことはいいんだよ」
人間がいて建物があって空の色が一緒なら、それはもう前世の世界とほとんど一緒だ。少なくとも俺はそう思っている。
だから、久しぶりと思う感覚も間違ってはいない。
例え、魔術とか魔物とかが存在していたとしてもな。
フィオも別に意地悪で聞いたわけじゃないだろうし、細かいことは気にしない方がいい。
「こっちよ」
「ああ」
「うん」
そんな会話を無視して、今度はお嬢が先行して進んでいく。
館の敷地の外は廃都市と呼ばれているだけあって、どの建物もボロボロだ。
「それにしても、さびれてるね」
「というか、ただの廃墟って感じだな」
俺たちがいた館とは違って廃都市は見るも無残な様だ。
どの建物も人間が住めそうなものはなく、瓦礫の山が多い。
辛うじて残っているのは石レンガで補強されていたであろう建物だけだ。
しかし、それも多くはなく視界に映るのは、剝き出しの土の色と瓦礫の灰色ばかり。
「人間がいないから仕方ないわ」
「まぁ、住みたいとは思わないわな」
「ダンジョンっぽいしね」
出た。ファンタジーには必ずあると言っていいダンジョン。
それがここなのか。
「国や土地によって呼び方は違うけど、まぁダンジョンでも間違ってはいないわね」
「ダンジョンってことは、いろんな魔物が出てくるのか?」
「いや、ここはほとんどゾンビ系統だけね」
「そうなのか」
ゲームっぽいかと思ったが、そうでもないのか?
同じ魔物ばかりってのは変な感じがする。
「ポルターの世界にもダンジョンってあったの?」
「知ってるだけだな」
実在はしないが、空想上では存在していた。
そんな説明しても伝わらないから、言えないけどな。
そういうのはもっと落ち着いて話したい。
少なくとも、ダンジョンで話すようなことじゃない。
「というか、お嬢はよくダンジョンを一人で周るのか?」
「まさか。一人で周ったのはここが初めてよ」
「危ないんじゃないの?」
フィオの言う通りだ。
実際にどれくらい危ないのかはわからないが、一人でうろうろするのは危険だろう。素人の俺でもそれくらいはわかる。
「ここは相性が良いから大丈夫なの」
「相性が良い?」
なんだ? 聖なる力でゾンビ系を浄化したりできるのか?
お嬢がこう見えて聖職者的ななにかなら納得できるが、そうは見えない。
魔術師って言ってたしな。
「私は水分を操るのが得意なの。だから、人間の死体のゾンビとは相性が良いの」
「そうなのか?」
「いまいちピンとこないね」
まぁ、人間はほとんど水分って聞くけどさ。
それがどう関係してくるかまではよくわからない。
「じゃあ、あのゾンビで試すわよ」
「あ、ああ」
「よく見つけたね」
お嬢が杖で指した方を見ると、丁度ゾンビが瓦礫の裏からふらふらと近づいて来ていた。
あきらかにお嬢の死角にいたはずだ。しかし、お嬢は初めからそこにいることがわかっていたかのように指し示した。
俺とフィオが状況を理解しかねているのをよそにことは進んでいく。
なんとゾンビが突然破裂したのだ。
「水の塊みたいなゾンビはこうやって破裂させれば一発。死んでるから抵抗する素振りもない。それに水分を含んでいれば、どこになにがいるか概ね認識できるってわけ。理解できた?」
「無茶苦茶なのは理解できた」
「なんか、私たちが霞むね」
相性が良いってレベルじゃないだろ。
割と真剣に汚え花火だったよ。
「ここは楽で良いわ」
そう言ってお嬢は廃都市を突き進む。
しかし、その姿はどこか俺たちゴーレムとは違った異質さを振りまいているようにも見えた。
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