お嬢
「ちょっとお嬢さん、一旦待ってくれ」
「なに? 早く話を終わらせたいんだけど」
気持ちはわかる。
俺もお腹いっぱいだからな。
気になってここまで来たけど、いざ調べ出したら自分の手に収まらない情報量だったんだろうな。
俺も魂の転写とか全身ヤスリとか言われてプチパニックだし、フィオにいたってはニッコリしたまま固まってる。
そりゃ、そうだよ。
絶対に壊れないって、どういうことだ?
「よくわからないんだけど」
「簡単に言えば、貴方たちはなによりも硬いの」
「硬い?」
「そう、なによりもね」
硬いから壊れないってことなのか。
なるほどね。よくわからないな。
「つまり、貴方たちは切られても叩かれても魔術でなにをされても壊れないってこと」
「不死身ってことか?」
「そうなるわね」
一気に情報が入ってきて理解が追いつかない。
不死身だってさ。
子供のごっこ遊びで、すぐに出てくるやつだ。そして、最終的に不死身は禁止になるんだ。
それくらい雑な発想だ。
よくも人の体にそんな雑な発想を組み込んでくれたな。
「でも、どうやったら不死身になるの?」
「確かにな。どうやったんだ?」
再起動したフィオは良い質問するね。
理解できなくても聞いておきたいよな。
「簡単に言うと、保存の魔術が貴方たちの体の内側に刻まれてるの。そのおかげで、貴方たちはどれだけ外側から衝撃を受けても受け付けない。肝は保存の魔術というところで、遮断していないという点ね。だから、フィオは目も耳も機能している。感覚器官をそのまま保存しているの。ポルターはまた別ね。魂の話は複雑だから置いておくとして、その霧状の体は小さな砂の集まりらしいわ。その小さな砂の内側にフィオと同じことをしたみたいね。正気とは思えない精密さで刻み込んだそうよ。そんな小さくて硬い砂の集合体に勢い良くぶつかられたら、なんでも削れて当然ね。……とまあ、こういう理屈で貴方たちは不死身なの」
「「へー」」
……恐ろしく長い。
わかったことは、やっぱり硬いってことだ。
硬いからなにされても壊れない。硬いからなんでも削れる。
らしい。
「それで、その保存の魔術ってなんなんだ?」
「私は主に保存食にかけてるわね」
「保存食……」
別にいいけど、俺たちは保存食と同じ仕組みだそうだ。
こっちの世界のテクノロジーを感じたよ。
そうだよな、技術はなにに使ってもいいよな。
保存食の仲間みたいで複雑な気分だけど。
「あとついでにポルターには妨害の魔術がかかってて、フィオには加速の魔術がかかっているみたいね」
「多いって……」
「ゴーレムなんて、そんなものよ」
「えぇ……」
確かにゴーレムってロボット的なイメージはあるけど、もうそろそろ機能過多だと思います。はい。
因みに妨害の魔術は魔術を妨害するもので、加速の魔術は筋肉の動きを良くするものらしい。そのせいで俺は見えない壁も壊せたし、フィオの怪力も加速の魔術の効果で説明がつく。
恐ろしく硬い物質が魔術を妨害しつつ削ったらどんな魔術も不具合を起こして壊れるらしい。フィオの筋肉も同じく硬いから断裂しない。にもかかわらず筋肉の動きは向上していくから結果的に怪力になるらしい。
そう説明された。
さっきからずっと書類を見てるから、きっとそう書いてあるんだろう。
「まだとっておきが残ってるから」
「もうお腹いっぱいです」
「私もお腹いっぱい」
とっておきって言われても嬉しくないぞ。
猛スピードで設定のフルコースが出てくる。しかも、これからメインディッシュが出てくるそうだ。
一回休憩したいんだけど。
「貴方たちは人間を簡単に殺すために作られた兵器で姉妹機らしいわ」
「比較的に王道なヤバさだな」
「姉妹なの?」
一番簡単な『姉妹』という単語だけ拾ったな。
違う。人間を簡単に殺すという部分を拾いなさい。
メインディッシュをスルーするな。
「まぁ、あくまで設計目的であって貴方たちの行動指針ではないみたいだから、別に気にする必要はないみたいね」
「目の前に人間がいるけど、殺したいとは思わないしな」
「姉妹ってことは、私もフィオ・ガイストにした方がいいかな?」
「そこは今どうでもいいから……」
現実逃避が凄い。
一人だけ会話がズレてる……。
「そんなことより」
「そんなことって……」
お嬢さん、フィオを置いて行かないでくれ。
雑でもいいから拾ってやってくれ。
さっきからマイペースがすぎるって。
お嬢さんの従魔はフラフラですよ?
「私の指示には絶対に従ってもらうから」
「いやまあ、元々そのつもりだけど」
「どうして今更そんなこと言うんだ?」
そもそも従魔って絶対服従なんじゃないのか?
俺たちは今のところ縛られてはないが、言うことくらいは聞く。
「貴方たちを危険視する人達に、私の指示には絶対服従だということを示すためよ」
「そうやって、周りを安心させるってことか?」
「ええ」
言いたいことはわかる。
俺たちがお互いに信頼し合っていたとしても、周りがどう思うかまではわからないもんな。
「私たちを護ってくれるってこと?」
「ええ」
正気に戻ったフィオはやはり良い質問をするな。
つまり、ディジーは俺たちの行動の責任をとってくれるってことか。
理想的な上司だな。
「でも、ディジーは俺たちの責任を負えるだけ偉いのか?」
いい加減なことを言うようなやつには見えないが、言質はとっておきたい。
「そこそこ偉いわよ」
そこそこか。
正直なんとも言えないな。
とはいえ、もう従魔になるって言ったしな。
お互いに判断が早すぎる気もするが、もう後には引けないか。
「なら、いいぜ。お嬢に歯向かうやつはヤスリらしくミンチにしてやる」
「……お嬢ってなに?」
「ただの愛称だ。気にするな」
本人的には気に入ってないみたいだが、俺はぴったりだと思う。
とくにせっかちっぽいところがな。
「罪のない人は挽き肉にしたくないからね?」
「ええ、勿論」
随分はっきり言うな。
そこまで自信満々に言われると疑ってかかるのも野暮だ。
頼りにさせてもらおう。
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