不思議
自己紹介を終えた俺たちはディジーの指示を待っていた。
話は一段落したが、この先どうするかはディジーしだいだ。
なにせ俺たちはもう従魔だからな。
基本的には指示待ち状態が望ましいはずだ。サーカスの猛獣がうろうろしてたら危ないのと一緒だ。
それに今はディジーが考え事をしてる最中だから、あまり騒がしくもできない。気が散ると申し訳ないし。
なによりここが安全なところかどうかもわからない。変な魔物がよって来たら洒落にならん。
騒音は鉄格子を開ける時に出してしまったが、これ以上はやめた方がいいと思う。
「館の中はどうなってるの?」
「とくに禍々しい魔境ってわけじゃなくて、比較的に綺麗で辛気臭い館って感じだ」
「一言で言うと、ひと気のない廃墟って感じだね」
「なるほど」
この館のことが気になるのか。
確かに俺たちも少しは気になる。ディジーもおかしなことを言ってたし。
「さっき誰も入れなかったって言ってたよな?」
「ええ」
「それってどういうことなんだ?」
もちろん言ってることは理解できる。
そのままの意味で誰も入れなかったんだろう。
けど、俺たちはそこから出てきた。
唯一の障害は真紅の人骨だが、あれも避けようと思えば避けられる。距離を取れば追ってはこない。ましてや、鍵のかかった扉なんて破ろうと思えば幾らでも方法はある。
庭の跡地に関しても本当になにもなかった。
そうなると館を遮るものがない。
言ってることが合わない。
「貴方たちが破壊した鉄格子の門やこの館を取り囲む塀は絶対の壁だった。そして、今まで誰も越えられなかったのよ。当然、空も地下も試した。けど、結果は同じで見えない壁に阻まれていたの」
「不思議だな」
「そうだね」
見えない壁とはまさにファンタジーだ。理屈がさっぱりわからない。
とはいえ、俺たちは見えない壁にぶつかることなく出てきた。
また、わからないことができた。
「見えない壁なんてなかったぞ?」
「……あったわ。私は貴方たちに声をかけられる直前に触れたもの」
「ますます不思議だね」
確かにあった壁が消えた。
それも俺たちがディジーと話している短い時間で。
まさかとは思うけど。
「俺たちが鉄格子を壊した時に見えない壁も一緒に……」
「破壊したんでしょうね」
「いつの間にか凄いことしてたんだね」
確かに凄いことしてた気もするが、いけないことをした気分でもある。
まぁ、鉄格子を削ってる時に一瞬だけバチッとした気がするし、それが原因っぽいな。
しかし、フィオの棺を開けた時もバチッとしたな。
共通点があるのか?
「フィオが入ってた棺も鉄格子を壊した時と似てたぞ」
「そうだったの?」
「ああ、なんかどっちも壊す時にバチッとしたんだ」
「その棺はまだ残っているの?」
「そのままだな」
あの部屋からはとくになにも持ち出してないし、荒らしてもいない。
フィオも頷いてるから本当にそのままのはずだ。
現場は荒らしてない。現場検証し放題だ。
それに魔術師なら俺たちが理解できなかったこともわかるかもしれない。
「中はどれくらい危険だった?」
「俺にはわからないな」
なにせ素人なんでね。
危険の基準がわからない。
そういうのはフィオの担当だ。
「ゾンビがそこそこ徘徊してるけど、それ以外はとくになにもなかったかな。一応危なそうな赤い骨が一体いたけどポルターと倒したし」
「あんなのは何体もいないだろうし、いたとしても俺たちで対処できる」
「問題なさそうね……」
あの骨がもっと沢山いるなら館の中のゾンビはもっと少ないはずだ。
あの骨は見境なく近づいたものを攻撃していた。なら、徘徊してるゾンビが近づいて運悪く斬られるなんてことがあっちこっで起きていてもおかしくはない。
しかし、そうはなってなかった。
となると、骨の数は大したことはない。もしくは、もういない。
なら、俺たちでディジーを守ることは簡単だ。
「罠はあった?」
「罠なんてなかったよな?」
「そうだね」
マジか。建物に罠がある世界なのか。
しれっと聞かれたから、リアクションが追いつかん。
そこは別にファンタジーじゃなくてもいいんだけどな。
「なら、案内できる?」
「隅から隅まで案内できるほど詳しくないな」
出口を探して、あてもなくうろうろしてただけだからな。
案内は難しい。
「棺があるところだけでいいわ」
「なら、そこまで」
「よろしく」
従魔としては初仕事だ。
しかも、俺たちが何ものなのかを知るチャンスだ。
まさか館を出てからすぐ従魔になって、またすぐに館に戻ることになるとは思わなかったがな。
人生なにが起こるかわからないな。人じゃないけどさ。
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