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思案

 ついに自由を手に入れた俺は改めて体の確認をすることにした。


 なにせ黒い霧だからな。なにができてなにができないのか、はっきりさせておく必要がある。


 因みに黒い霧と格好つけて表現しているけど、言い方を変えると恐ろしい密度の蚊柱にも見える。


 控えめにいって最悪だ。


 加えて、足や腕といった四肢はない。


 しかし、俺は長きにわたる練習により四肢を使わない移動方法を確立した。


 具体的にいうと前傾姿勢をイメージしたまま、その体勢をキープすると前に移動ができる。


 理由は知らん。こっちが聞きたい。こんなに簡単なら、じたばた暴れる必要はなかった。時間を返してくれ。


 しかし、部屋に時計はかかっていない。なので、どれくらいの時間を返してほしいかと聞かれてもわからない。この部屋にどれくらいいたのかも、やっぱりわからない。


 というか、時計どころか家具がほとんどない。


 その代わり、床にはそこそこ大きめの魔法陣らしきものが描かれている。魔術陣かもしれないけど。違いなんて知らん。


 たぶん中心に俺はいたんだと思う。というか、いた。


 それ以外はなにもない。本当に殺風景な部屋だ。


 相変わらず真っ暗だが、俺は人の目じゃないから暗くても見える。


 部屋の持ち主のセンスを疑うよ。人をこんなめにあわせるなら花瓶の一つでも置いとけ。


 言いたいことは腐るほどあるが、せっかく動けるようになったからには別の部屋にも行ってみたい。


 それに、もしかしたら誰かいるかもしれない。まぁ、いたとしてもこんな所にいるやつはヤバいやつに違いないだろうけど。


 まともなやつに会いたい。


 そのための第一の試練は、目の前の扉だ。


 見た目は、そうだな。板チョコだな。


 別に腹が減っているわけじゃない。そもそも人の三大欲求はたぶんもうない。なにも食べてないし寝てもない。最初は寝たような気もしたが、本当は気を失ってたんだと思う。性欲に関してはあるはずがない。なにせ体がないからな。


 そんなこんなで、板チョコみたいな扉をどうにかして開けなきゃならん。


 もちろん、ドアノブはある。捻って押すか引けば開く。


 しかし、俺はたぶんドアノブを掴めない。


 何度もいうが、なにせ黒い霧だからな。


 どうすべきか迷う。


 一つめの選択肢はそのままドアノブを掴む。普通はそうする。もし、ドアノブを摑めなくとも実質なにも変化はない。少なくとも状況は悪化しない。ただし、問題はこの体に腕はないから、腕を作らなければならない。今から練習して。五本指じゃなくとも、マジックハンドみたいな二本指でも構わないがそれでも大変だ。できれば楽をしたい。


 二つめの選択肢は扉をすり抜ける。ファンタジーな体なんだから、それくらいできても不思議じゃない。なんならできてほしい。楽そうだし。ただし、これも問題がある。扉をすり抜ける途中で挟まったら悲惨だ。はっきりいって間抜けだ。もしかしたら、危険かもしれないしな。


 そうなると、もう少し板チョコみたいな扉を調べる必要が出てくるな。


 一応、初めから調べるつもりはあった。いや、本当に。あとから気づいたわけじゃない。本当に。


 それでは、早速扉に触れようと思う。


 この体で指のような細かいものを再現しようとすると難しいが、腕みたいな少し大きめのものは結構簡単だったりする。


 そうして、俺は扉に触れた。


「うおっ!」

 

 すると扉に触れた部分は大きな音をたてて削れた。その削れた部分は間違いなく俺が触れた部分だった。だから、扉を削ったのはおそらく俺だ。


 あと初めて声が出た。


 一度に処理できないんですけど。


 まずは声からにする。


「あかさたな、はまやらわ」


 普通に声が出てるな。どうなってる?


 グレてた時や移動方法を練習していた時は出てなかった。なのに、今は出てる。さっぱりわからん。


「まぁ、いいか」


 考えてもわかりそうにない。それよりも、まだ考えるべきことがある。


 それは扉が削れたことだ。


 今回は本当に意味がわからない。触れると物が削れる体の意味がわからない。


 ファンタジーなら、もっと派手な演出でもいいだろ?! なんだ削れるって!


 それから俺は一度扉から離れて、いろいろなものを削ってみた。


 壁や床といった硬いものも難なく削れた。次に魔法陣、もしくは魔術陣らしき物も少しだけ削ってみた。


 すると静電気がおこす弾けるような衝撃を感じたが、これも難なく削ることができた。あとになって自分を産みだしたかもしれないものを削って、なにか悪影響が出ないかびびったがなにもなかった。よかった。


 あと試しにドリルをイメージして削ってみると、かなりの勢いで床を削ることができた。


 本当によくわからない体だ。しかし、汎用性は高そうだ。


 そこで、ようやく俺は本来の目的に戻ることができる。


 部屋を出るという当初の目的に。


 扉を削れば、俺は難なくこの部屋から出ることができる。


 途中でかなりの脱線をしたが、必要な脱線だと言える。


 声を出せるようになったのは必要なさそうだが、人生に無駄なことなんてないからな。あきらかに人ではないけど。


 なにはともあれ、俺は部屋から出ることにした。


「いざ、出発」


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