お忍び
「あれって……」
「レックスか?」
テオリオくんと共に大通りを進んでいると、なぜかレックスと思わしき人物がこちらに向かって来る。
隣にはレックスより少し小柄な人物が見える。あれはおそらくルーフェちゃんだろう。背の高さ具合でいえば、エンリちゃんの可能性もある。が、敵意というか不機嫌な気配を感じないので違うだろう。エンリちゃんはその辺りがもっとわかりやすい。
しかし、こんな所で会うとは思っていなかった。てっきりレックスたちは用意された宿泊施設なりで大人しくしているものだと思っていた。
俺たちはさんざん気安く話しかけていたが、レックスたちはヒリングサッツ教国の使者だ。ふらっと遊びに行けるような立場じゃない気がする。もちろん、そんなことはないと言われれば、そうなのかとしか言えないんだけど。
その辺りのことも気になったので、とにかく俺はレックスとルーフェちゃんに声をかけてみることにした。
「よーよー、レックスとルーフェちゃん」
「なにしてるの?」
「することがなくてね」
「少し外の空気にあたろうかと」
意外とふらっと遊びに行けるらしい。レックスはヒリングサッツ教国の英雄だし、このサリーマギ共和国にとってはそれなりに大切な使者だ。もっと警備のこととかの観点から、しっかり周りを固められているもんだと勝手に思っていた。
しかし、実際はそんなことはないらしい。まぁ、時代や文化の違いもあるものな。俺の前世ならそうだっただけで、こっちの世界ではこれが当たり前なのかも知れない。久しぶりのカルチャーショックだな。
「意外と自由なんだな」
「そんなこともないさ」
「こっそり出ましたから」
「……いいのか? そんな気軽に外に出て」
「だからこうやって目立たないようにしてるだろう?」
「気休めですがね」
いや、ダメなのかよ。
どうやら俺の考えは間違っていなかったらしい。それに前世とか異世界とかは全く関係なかった。何がカルチャーショックだよ。
ただレックスとルーフェちゃんはちょっとしたやんちゃをしただけらしい。それに改めて二人の姿を見てみると、気休め程度の変装をしている。旅人や冒険者がたまに使っているフード付きマントで顔などを隠しているのだ。
ただし、その変装は気休め程度の効果しかない。なぜなら、そんなフード付きマントなど他の誰も身に着けていないのだ。これでは逆に目立つ。
レックスはその気になっているようだが、ルーフェちゃんは流石に気づいているらしく困った顔をしている。こんな二人を見ているとなんともほっこりするが、やはり心配してしまう。大丈夫なのかね。遊んでいて。
「で、本当はなにしてたのかしら」
「本当はって、別に嘘はついてないんだけどね」
「そういうのいいから」
すると今度はお嬢が二人に声をかけた。
しかし、その声色は穏やかなものではなく、答えを急かすようなものだった。どうやらさっきの答えでは納得しなかったらしい。お嬢はなにか目的があって外に出たと判断したようだ。
別にそんなこと気にしても仕方ないのにな。つい気になったからって詰めるのはどうかと思う。
まぁ、レックスたちもそこまで隠しておくようなことでもない思ったらしい。仕方なさそうにしながらも話してくれた。
「まぁ、この国をよく見ておきたいと思ってね」
「よく知っていた方が話も進めやすいですから」
「そういうこと」
「真面目だなぁ」
「ねぇ」
「それで、感想は?」
「なんとも言えないかな」
一応は仕事のために外に出たのか。
確かにレックスの仕事の内容はこの国の内情にも大きく関わる。話が上手く進むにしろ拒否されるにしろ、理由くらいはなぜなのかは知っておきたいと考えたのかもしれない。
そうして、いざ雰囲気を探ってみると答えに困るような雰囲気だったのだろう。今はテオリオくんもいるので、気を使って言葉を濁しているが感想はとてもわかりやすい。
まぁ、あまりその気遣いは意味はないが、レックスらしいといえばらしい。
ただ、レックスの表情からこの場でこの話題はあまり気が進まないようだ。なら、ここは話題を変えるべきだな。
「ケラーデさんとエンリちゃんは?」
「二人は留守番?」
「そうなるね」
「流石に誰か残らないといけませんからね」
「それもそうか」
「お忍びとはいえ、無断徘徊は駄目だよね」
何気なく話題を変えてみたら面白そうなことがわかった。
二人はそういう判断をしたのか。なるほど、そういう立ち回りか。
流石にその辺りのことは、二人もわきまえているらしい。全く気遣いがすごいな。あの二人は。
「じゃあ、やってることはデートと大して変わらないな」
「そうだねぇ、色々理由を語ってたけどそうなるねぇ」
「そういうつもりじゃなかったんだけど……」
「……」
俺がそう言うとレックスとルーフェちゃんは赤面し言葉に詰まる。前々から二人はそんな雰囲気だったから推測は簡単だ。推測といってもほとんど邪推だけどな。
しかし、ケラーデさんとエンリちゃんの気遣いが行き届いてるよ。いい感じの二人をそれっぽい理由をつけて外に出す。そして、息抜き兼デートをさせる。
ケラーデさんは二人に対する優しさで、エンリちゃんは大好きな兄への応援といったところか。
意表を突かれて照れてる二人も意外と悪くないな。若さを感じる。
「青春だな」
「いいねいいね」
「うざ絡みしないの」




