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進路

「本当に良かったんですかね」

「だから、そう言ったろ?」


 俺たちに背を向けて作業を進めていたテオリオくんは不意に手を止めてそう零した。


 どうやら先程までしていた話の続きがしたいらしい。もう結論は出たと思うが、テオリオくんはまだなにか思うところがあるそうだ。


「そうでもあるんですけど……」

「はっきり言ってくれないとわからないわ」


 いまだに少し話すことを躊躇している様子のテオリオくんにお嬢は構うことなく急かした。


 いや、ちょっとくらい待ってやれよ。別に俺たちは忙しいわけでもないんだから。テオリオくんにもペースってものがあるんだよ。


 だが、テオリオくんはお嬢の圧に負けて口を開いてしまった。


「こ、このまま流されるようにここに移って良いのか……」

「嫌なの?」

「わかりません……」

「そっか」


 何やらテオリオくんは進路について悩んでいたらしい。


 立派に働いているとはいえ、テオリオくんも歳はおそらく十代半ば。そういうお年頃ってわけだ。ならば、これからについて迷うこともあるのだろう。


 しかし、どうしたものか。進路相談なんてされてもどう答えていいかわからない。しかもテオリオくんは既に働いている社会人だ。進路相談といっても実質転職相談といってもいいかもしれない。


 もちろん、直接やめたいと言われたわけじゃないからそこまで深刻な感じじゃない。だから、こちらも重く受け止める必要はない。


 わかってる、わかってるんだが。そうとわかっていてもな……。


「まぁ……別に流されることが悪いわけじゃない、よな?」

「そうね。先のことはわからないもの」

「自発的な行動も大切ですが、良し悪しはその時々で変わりますからね」

「難しいね」


 うむ。やはりこの程度のことしか言えない。


 答えになっているようでなっていない。真面目に考えてはいるんだが、真面目に考えている分いい加減なことが言えなくなってしまう。


 テオリオくんの悩みをいい方向へ向かわせるためには、もう少しテオリオくんの考えを聞く必要がある。


「テオリオくんとしては、どう考えてるんだ?」

「自分は先生について行きたいと思ってます」

「そうか」


 ……じゃあ、それで良くないか?


 別に面倒になったわけじゃない。けどさ、答えがテオリオくんの中で決まっているのなら話は変わってくる。俺たちがどうこう言ったって仕方ない。だって、やりたいことがあるんだから。


 一体なにに迷ってるんだ?


「でも、それが良いことなのかわからないんです」

「なるほど」


 自信が持てないんだな。そうか、そこからなのか。


 自信ってどうすればつけさせてあげられるんだ? 無理じゃないか?


 いや、そもそも俺たちがテオリオくんを導いてあげることこそが無理だな。少し自惚れていたし真面目に考えすぎたかもしれない。


 もっと気楽に考えた方が良さそうだな。


 それはお嬢たちもそう思ったらしく急に軽い返事をしだした。


「ならもう好きにするしかないと思うけどね」

「そうですね。動き出してみて後悔することもあれば、予想外に上手くいくこともありますしね」

「やってみるしかないね」

「結局はそうなるな。答えにはなってないが」

「仕方ないでしょう」


 そう、仕方ない。お嬢の言う通りだ。答えなんてないものな。迷うことは別に悪いことじゃないが、無理に答えを出せばいいってわけでもない。


 役に立てなくて申し訳なくもあるがね。


「役に立てなくてごめんね」

「いえ、こちらこそ変な話をしてしまいすみませんでした」

「構わんさ。別にこれくらい」

「ありがとうございます」


 実際、テオリオくんもそこまで真剣に相談してたわけでもないだろう。ああやって話すことで心の整理でもつけていたのかもしれない。


 それにこういった話は身近な人間より、そうじゃない人間の方が話しやすかったりする時もある。きっとそういうことに違いない。


 テオリオくんは手に持っていた最後の本を書架にさし込むとこちらに振り返った。


「それはそうと」

「うん?」

「ここは関係者以外立ち入り禁止なので、長居しない方がいいです。外まで案内します。自分もちょうど資料を取りに戻らないといけないので」

「それはどうも」


 話しているうちにテオリオくんの作業も一段落ついたようだ。一度魔術組合に戻るらしい。


 そうなると俺たちもここから出るしかない。一応ここに迷い込んだことになっているからな。下手に残りたいなんてことは言えない。ここは大人しくテオリオくんに従うべきだ。


「早めに終わったな」

「そうだね」


 勝手に始めた探検だったが意外と面白かった。


 それに思っていたより時間も潰せたと思う。正直なことを言えばもう少し続けたいが、そういうわけにもいかない。流石に諦めるしかない。


「なにか?」

「いやいや」

「なにも」


 危ない危ない。テオリオくんに聞こえてたか。


 バレることはないだろうけど下手なことは言うべきじゃない。迷い込んだっていう設定を大切にしなければ。下手なことを言って後でお嬢に怒られるのもごめんだからな。


 そうして、俺たちはテオリオくんの後に続いて議事堂を後にした。


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