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資料庫

「いろいろあるなぁ」

「そうだねぇ」


 興味のある本をさっそく手に取り立ち読みをし始めたお嬢を横目に、俺たちは書架の間をのんびりと進んでいた。


 視界は書架に挟まれているのであまりよくないが、そう悪い景色でもない。なんと言うか、こう本に囲まれているとなにもしていないのに賢くなった気がしてくるのだ。


 フィオもそれは同じなのか、いつもと様子が違う。わざとらしく賢ぶっているように見える。なぜか涼し気な目で本を眺めては時折頷いたりなんかしている。


 いったいなにに頷いてるんだよ。作者とか言うなよ。余計に馬鹿っぽくなる。百歩譲って、そんなことを言って良いのは、その本を読んだことのあるやつだけだ。背表紙を眺めただけのやつはそんなわかったような態度をとるな。せめて読め。


 そんなことを考えていると、フィオが不意にこちらを見た。そして、なにかを感じ取ったのか視線を逸らした。


 顔色は真っ白なままだが、なんとなくわかる。照れてるな、これは。


 おそらく見られてないと思っていたのだろう。しかし、俺はばっちり見た。しかもなんとなくではあるが、どういう意図でそんなことをしていたのかもわかる。フィオもそれがわかっているからこそ照れているのだろう。


「い、いろいろあるねぇ」

「そうだなぁ、さっきも言ったけどなぁ」

「……」


 いや、いたたまれなくなったからって時を巻き戻そうとするな。なかったことにはならねえよ。


 しかし、俺も別にフィオをこれ以上からかったりするつもりはない。というか、初めからからかったりはしてない。勝手にああなっただけだ。なので、ここはせめてもの慈悲で話題を変えてやろう。


「ベクトル、あれはなんの本だ?」

「あれは歴史ですかね」


 さっきからなにも見なかったことに徹していたベクトルは俺の質問にすぐに答えてくれた。


 声のトーンも表情もいつも通りだ。完璧だよ。優しさが染みるよ。


「じゃあ、あれは?」

「古い魔術についてですかね」

「お前は文字読めるだろうが……」


 さっき読まなかったからあんな恥をかいたのにまだ読まねえのか。流石に読めよ。


「面倒だから読みたくないの」

「いや、そこは読めよ」

「僕は構いませんよ」


 ないの、じゃねえよ。開き直りやがって。


 相手がベクトルで良かったな、本当に。普通のやつならこうはならない。うざがられてお終いだ。


「魔術についての本が多いわね」

「そうなのか?」

「ええ」


 そんなくだらないやり取りをしていた俺たちを無視してお嬢は本のレパートリーに感想をつけた。


 俺としてはいまいちよくわからないが、お嬢がそう言うならそうなのだろう。立ち読みまでしてたくらいだからな。


 そして、それを聞いたベクトルは適当な本を手に取り軽く目を通した。


「こちらには密教について本があります」

「渋いわね」


 どうやらベクトルが目を通した本も魔術に関するものらしい。密教がどう魔術に関する本なのかはわからないが、二人が納得しているってことは、少なくとも無関係ではないってことになる。


「……貴方たち、なにしてるんですか?」


 するとお嬢と俺たちの間の書架の隙間から少年が現れた。そして、少年は少しだけ警戒した表情で声をかけた。


「えーと、魔術組合にいた子?」

「テオリオです」

「ご丁寧にどうも」

「それでここでなにを?」

「少し見学していたら迷ってしまってね」


 まぁ、全部が嘘じゃない。


 見学していたのは無許可ではあるが事実だ。けど、迷ってはない。ただまあ、迷っているかどうかは主観的な問題だから真っ赤な嘘とも言えない。俺たちが口裏を合わせて迷っていたことにすれば、迷っていたことになる。


 実に紛らわしい嘘だ。

 

「部外者は立ち入り禁止ですよ」

「そうなのね。教えてくれてありがとう」


 そう言って、お嬢はテオリオくんに礼を言った。


 綺麗な笑顔でよくもまあそんなことが言えたものだ。しっかりテオリオくんを騙している。


 しかし、俺がそれを指摘することはない。


 これが大人だ、テオリオくん。


「部外者は立ち入り禁止ってことは、テオリオくんは部外者じゃないんだな」

「ええ」


 関係者なのか。すごいな。子供だからってテオリオくんをちょっと舐めてたことをまず謝ろう。ごめんな。


 そして、子供なのにしっかり関係者のテオリオくんと、大人なのに無許可で彷徨く部外者の俺たちって構図が効くね。いたたまれなくなる。


「因みになにしてたの?」

「組合の資料をここに移していたんですよ」


 だから、魔術関連の本が多かったのか。


 もちろん、この資料庫に元からあった物もあるだろう。けど、テオリオくんがこの辺りにいたってことは、少なくともこの辺りの本は魔術組合の本なのだろう。


「潰れるからか?」

「そうです」


 そういえば、魔術組合の書架は疎らだったな。あれはここに本や資料を移していたからなのか。


 しかし、そんなことよりも気になることがある。


「けど、一人で?」

「そうです」

「偉いな」


 いや、本当に偉いな。潰れゆく魔術組合に人手が足りないのはわかるが、これを一人で……。


 なんと言うか、俺たちの行いが段々恥ずかしくなってきた。テオリオくんが頑張って働いている時にバレなきゃいいと議事堂を彷徨く俺たちって……。


 ああ、テオリオくんが眩しい……。


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