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バレなきゃいい

 どうやらレックスたちは議事堂内に宿泊場所があるらしく、先にパルプさんにそちらへ案内された。


 そして、レックスたちと別れた後は俺たちもパルプさんに従って議事堂の外に向かっていた。


 しかし、突然お嬢は廊下に立ち止まって、先を歩くパルプさんに声をかけた。

 

「パルプさん、私たちはここで結構です」

「え? しかし……」


 お嬢のいきなりの言葉にパルプさんは驚く。だがお嬢はそんなパルプさんを無視して話を進める。

 

「もう外も見えてますから」

「そう、ですか」


 確かにお嬢の言った通りで今いる場所からでも外は見えている。ここへ入って来た時の少し大きな扉もばっちり確認できている。流石にここまで来て道に迷ってしまうほど方向音痴じゃない。


 そのことをパルプさんもすぐに理解したのか、戸惑いながらも納得してくれた。しかし、視線はまだ本当に大丈夫なのだろうかという疑念と、すぐそこならここで別れる必要はないのではという違和感で染まっていた。


 そこで、お嬢は無理矢理会話を進める。

 

「ここまでありがとうございました」

「いえいえ、自分なにも。それに何度もご迷惑おかけしました。なんと謝罪すればいいか」

「先程も言いましたが問題ないですから。それより議長さんたちのところに早く戻った方がいいんじゃないですか?」

「ああ、お気遣いありがとうございます。それではお言葉に甘えて」

「はい」


 そうして、パルプさんは優先すべきことを思い出し、俺たちに軽く頭を下げてから早足で来た道を引き返して行った。


 俺たちは廊下を引き返して行くパルプさんを見つめながら、静かにパルプさんが見えなくなるのを待つ。そして、パルプさんが見えなくなったことを確認すると一気に空気が弛むのを感じた。


 そこで、俺はもういいかと思いお嬢に声をかけることにした。


「お嬢」

「なに?」

「なに企んでるんだ?」


 絶対に何か企んでいる。


 さっきからおかしなことばかりだった。いきなりもう案内は必要ないと言い出したり、話を強制的に切り上げたりして、早くパルプさんと距離を取ろうとしていた。


 別にわざわざそんなことをしなくても、案内に従っていれば問題なく外へ出ることはできた。そうなれば不自然な形で会話を切り上げる必要もなかった。きっと何事もなくことは済んでいただろう。


 普段のお嬢は確かにせっかちなところがある。だが、ここまで周りを無視してしまうことはなかった。ならば何か目的があってこの行動を選択したということになる。


 とまあ、ここまでは察することができる。しかし、これ以上は流石になにもわからないので本人に聞くしかない。


 俺の怪しむ声色を感じ取ったお嬢はどこか呆れた顔で俺の疑問に答える。


「別に。少し議事堂を見て回りたくなっただけよ」

「なら案内してもらった方がいいだろ」

「好きに見て回りたいじゃない」

「邪魔されたくないと?」

「ええ」


 どうやら議事堂の中をうろうろしたくなったらしい。そのためにパルプさんをロベルトさんたちの方へ返したようだ。


 確かにパルプさんがいると議事堂の中を好きに見て回ることは難しい。入って来てほしくないところには、何かと理由をつけて断りをいれるだろう。


 それにあのままパルプさんに従って外へ出ていれば、もう議事堂の中へは入れなかったに違いない。外には警備兵もいたので、もう一度中へ入るにはそれなりの理由が必要になる。中を見て回りたいなどと言っても入れてくれるわけがないからな。


 そう考えるとお嬢の不自然な対応も一応は納得できる。


「じゃあ、これから探検ってこと?」

「そうね」


 これまで静観に徹していたフィオも話の流れが変わったことを察して、声をかけてきた。


 いや、随分と楽しそうだが、そこまで楽しいイベントじゃないと思うぞ。議事堂は見学者を入れるために作られた建物じゃない。


 しかし、お嬢はそれを否定しない。なので俺も訂正することはしない。


 楽しい気持ちに水を指す必要なんてどこにもないからな。


「楽しそうだね」

「まあな」


 フィオは完全にその気になったらしく、もう既にわくわくが止まらない様子だ。


 まぁ、そこまで楽しみにされると、こちらも多少は楽しくなってくる。


 というか、今にして思えばアデリナさんには散々迷惑をかけられたのだ。少しくらい黙って議事堂の中を見て回るくらい許されるだろう。


 いや、許してくれ。


「外までの道程は記憶しているので存分にどうぞ」

「流石ベクトル」

「ありがとうございます」


 帰り道もばっちりらしい。


 目の前には俺たちが入って来た時の大きな扉がある。なので、道に迷う心配の必要はない。


 しかし、ベクトルの言う帰り道は目の前の扉のことではない。きっとレックスたちと別れた時に見えた別の帰り道のことを言っているのだろう。あそこを使えばここへ戻って来る必要もなくなるので、帰りを気にせず好きにうろうろできる。


「じゃあ、まずはこっちね」

「りょーかーい」


 そうして、俺たちはお嬢を先頭に誰の許可を得ることもなく議事堂の中を探索することにした。


「バレたら面倒くさそうだな」

「バレなきゃいいのよ」

「確かにな」


 いけないことをするってのは、いくつになっても面白いな。


 黙って見て回るだけなのに、ここまで楽しくなるというのもおかしな気分だ。


 しかし、これがなかなかに悪くない。


 俺はフィオに負けず劣らず心を踊らせるのだった。


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