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謝罪

 ロベルトさんはアデリナさんにしばらく黙っていることを確約させると、気持ちを切り替えてこちらを向いた。


「英雄殿、話の内容は不可侵条約で間違いないな?」

「え、ええ、よくご存知で」

「予想はつくからな」

「そうですか」

「では、そのように動く」


 ロベルトさんは単刀直入に本題を切り出し、早急に話を済ませることにしたようだ。レックスはいきなりのことで少しだけ呆気にとられてしまい言葉を詰まらせたが、すぐに落ち着きを取り戻しロベルトさんの質問に答える。これでレックスたちの話は半ば強制的ではあるものの一段落ついたらしい。


 そして、それに満足したロベルトさんは次はこちらだと俺たちの方へ向いた。


「ロベルト・カナマワラだ。この国の議会で議長をしている」

「私は冒険者のディジーです。そして、こちらは仲間のベクトルと従魔たちです」


 俺たちはお嬢の言葉に従いロベルトさんに各々挨拶をした。それに対してロベルトさんは丁寧に挨拶を返す。ここに来た経緯もあるので、ロベルトさん的には丁重に扱わざるを得ないのだろう。


「それで、お詫びだったな。神獣様方はなにか希望が?」

「とくにはないです。しかし、強いて言うなら早くスターテア王国に向かいたい、とかですかね」

「それは……いや、可能な限りそうしよう」


 お嬢はロベルトさんの質問に対して遠慮なく希望を口にした。しかし、一応気を使ったのか可能ならば、というニュアンスを含ませていた。それを聞いたロベルトさんは少しだけ言葉を濁らせたものの、渋々対応を約束してくれた。


 まぁ、早くスターテア王国に行くというのは、手続き的なことを考えても物理的に不可能なことなのだろう。そこをどうにかしてくれるというのだから、素直に感謝するべきだ。


「やはりロベルトに任せれば上手くいくな」

「黙れ」


 どうやらアデリナさんにとってのしばらくは数秒らしい。もう口を開いてしまった。


 おそらくロベルトさんが自体を丸く収めたことが嬉しかったらしい。ふんすふんすと鼻を鳴らしてうるさい。


 それはロベルトさんも同じらしく、一言でアデリナさんを黙らせていた。


「とにかく、双方の話はこの後の議会ですぐに話すことになる。不可侵条約の方はまだなにも言えないが、神獣様方の要望は問題ないはずだ」

「わかりました」

「はい」

「なので、今は少し時間をいただきたい。双方共に申し訳ないが……」


 そう言ってロベルトさんは情けなさそうな顔をして話を切り上げようとした。


 話が早く済む分にはなにも悪いことはない。それは俺たちもレックスたちも同じなので、ロベルトさんの対応に納得しつつもどこか戸惑いを覚えた。そしてそれを察したレックスは代表してロベルトさんにわけを尋ねた。


「それは構いませんが、理由を聞いても?」

「……この馬鹿を放置できないからだ」

「……」


 ……野暮なことを聞いてしまった。答えは酷く単純で先程から示されていたのに。


 こんな空気になっているのにもかかわらず、尚もアデリナさんはまったく動じていない。ならば、放置もできない。そのままにしておけば何を仕出かすかわからないのだから。


 それを誰よりも理解しているロベルトさんは、まずアデリナさんをどうにかしたいらしい。具体的に何をするかはわからないが、別の仕事を与えるなり、自分の側に置いて監視しやすくするなりするのだろう。


 妥当な判断だな。これ以上ここでなにか大切な話をしようものなら、確実にアデリナさんの邪魔が入る。ここは日を改めた方が逆に話が早く済むに違いない。


 そうと決まれば、俺たちはそれに従うとしようではないか。


「ま、まぁ、ひとまずここは解散なんだよな?」

「そ、そうみたいだね。もうなんか滅茶苦茶だし」

「……そうしてくれると助かる」

「では、俺たちもひとまず……」

「皆様、私が外までご案内いたします」

「はい」


 ということで、俺たちはパルプさんの後に続いて部屋をあとにすることにした。


 部屋を出る時の光景はとても印象的だった。なにせロベルトさんとアデリナさんの表情が真逆だったのだ。


 一方は先のことを考えて暗い表情を浮かべて、もう一方は満足気な表情でこちらに向かって軽く手まで振っていたのだ。


 ここまで陰陽はっきりわかる光景はそうない。あまり喜ばしい光景ではないが、珍しいものを見たと思う。


 それはレックスも同じらしく、何とも言えない顔で閉まった扉を見つめていた。

 

「レックスよ」

「なんですか?」

「なんか悪かったな」


 こんな形で再会するとも思っていなかった。それに仕事の邪魔をするつもりもなかった。もちろん、どれも避けられるものではなかった。なので、結果的には仕方なかった。だが、やはり偶然の産物とはいえ申し訳なく思う。


 しかし、レックスは苦笑いを浮かべるだけで俺たちを攻めることはしなかった。それどころかこちらを気づかう様子までみせる。


「いえ、ポルターさんたちは聞いてた限り被害者なんですから」

「まぁ、そうだけどさ」

「事故ですよ」

「人災だけどな……」

「誠に申し訳ありませんでしたっ!」


 そのやり取りを見てパルプさんは誰よりも申し訳なく思ったのか、勢いよく頭を下げた。


 そして、パルプさんの謝罪は議事堂の廊下によく響くのだった。


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