議長
「ロベルトっ! 未来の妻が帰って来たぞっ!」
アデリナさんはそう言って大きな扉を叩き開けた。
するとそこには椅子に深く座った男性とレックスたちがいた。男性はこちらを見た瞬間に顔を顰めたが、レックスたちはまったく状況が理解できていないようでポカンとしている。
安心しな。俺たちも理解できていない。
「馬鹿が帰って来たか……」
「よう、レックス」
「は?」
男性の方はすぐさまなにが起きたか理解して、なんとなく今の状況が理解できたらしい。しっかりと悪態をついている。しかし、レックスたちは俺が声をかけても呆けたままだ。よほど衝撃的なことだったのだろう。
まぁ、そうもなるよな。議事堂で仕事の話をしていたら、いきなり大声でよくわからないことを言う女が入って来たのだから。そして、後ろには朝別れたばかりの知り合いがいるのだ。理解しろというのは酷な話だ。
というか、俺たちだって理解できていない。ついて来いと言われて黙ってついて行ったら、探していた議事堂に連れて来られたのだ。そして、アデリナさんは必死に説得し続けるパルプさんを無視して先程の強行にいたった。
急展開にもほどがある。もうちょっと説明しながら連れて来てほしい。それに仕事中とか気にしないのな。ノックとかなしにダイレクトインしてたし。そりゃ、悪態もつかれる。
「なに事だ、パルプ」
「申し訳ありません……」
「謝罪など求めていない。説明を求めている」
「……はい。アデリナ様が神獣様御一行に手を出してしまいました」
「……」
アデリナさんを一旦放置することに決めた男性はパルプさんに状況の説明を求めた。そして、パルプさんの非常にわかりやすい説明を聞いて状況を理解した途端、聞いたことを後悔するように黙りこくってしまった。御愁傷様。
状況から察するにこの男性がアデリナさんのいうロベルトさんなのだろう。しかし、そのロベルトさんをもってしても、この状況は頭を抱えるらしい。
あまりの馬鹿馬鹿しさに。
「勿論、故意ではありません。主な原因は私の報告が遅れてしまったからです。しかし、アデリナ様は光剣を……」
「そこの黒いのにぶち当ててしまった」
「…………」
そう、ぶち当てられました。
わかるよ、頭痛いよな。黙っちゃうよな。眉間もみもみしたくもなるわな。張本人が反省していない様子も腹立たしいよな。俺もちょっと腹立たしいからよくわかる。けど、パルプさんがどうしようもなく小さくなっているから、これ以上なにも言えない。わかるよ、俺もそうだから。
そんなことを理解していないであろうアデリナさんは尚もロベルトさんに酷なパスを出す。
「なにか詫びが必要ということになってな」
「当たり前だ」
「だから、ロベルトにどうするべきか聞きに来たのだ」
「いきなり言うな……」
「お前しか頼れん」
「そんなわけあるか……」
「ある。いつもお前は私を助けてくれるからなっ」
「好きでお前の尻拭いをしているわけではない……」
「私はお前の尻を喜んで拭うぞっ!」
「馬鹿は黙ってろっ!」
「申し訳ありません……」
なんて酷いやり取りなんだ……。
ロベルトさんとパルプさんの苦悩がまったく伝わっていない。それどころかアデリナさんのロベルトさんに対する謎の好意がロベルトさんの神経を逆撫でしている。そして、それを見てパルプさんがまた謝る。実に酷いやり取りだ。これではまとまる話もまとまらない。
ただ二人がいつも苦労しているんだろうなということがよく伝わってくる。
なにかあればパルプさんが謝り、ロベルトさんが後始末をしていたのだろう。そして、それをアデリナさんが自慢していたに違いない。だから、そうなると理解していたパルプさんは必死に止めようとしていた。おそらくロベルトさんの心労を減らすために。
よくこれでこれまでやって来れたものだ。感心しちゃうね。
そんな三人からそっと距離を取りつつレックスたちの方へ近づくと、レックスたちは視線で説明を求めてきた。なので、ベクトルがレックスたちにかいつまんでことのあらましを説明した。
そして、それを聞いたレックスたちはなんとも言えない顔で三人を見つめることになった。
こんなに他人の気持ちが理解できることってそうない。貴重な経験だ。
「因みに今なにしてたんだ?」
「これから本題に入ろうとしていたんだ……」
「うわ……」
「そりゃ怒るな」
「そう、ですね」
見事なまでに最悪のタイミングだったんだな。
これはロベルトさんだけでなくレックスたちにも申し訳ない。別に俺のせいじゃないのに罪悪感がわいてくる。きっとロベルトさんはそれもわかっているから鎮痛な面持ちなんだろう。
「これってどうなるんだ?」
「知らないわよ」
一応お嬢に聞いてみたが駄目だった。まぁ、そう言うだろうとは思っていたが、聞かずにはいられなかったんだよ。この混沌とした部屋の空気をどうにかして欲しかったんです。
これは諦めてロベルトさんとパルプさんに一任して俺たちは待つしかなさそうだ。そういった共通認識で俺たちは静かにことの成り行きを見守るのだった。




