戦乙女
「悪かったな! 神獣!」
「いや、まぁ……」
そう言って女性兵士は快活に謝罪をした。
言っていることは謝罪のはずなのに、えらく堂々としている。しかし、嘘をついているようにも見えない。おそらく本気で謝っているつもりなのだろう。そう見えないだけで。
こういうタイプはあまり出会ったことがない。だから、こちらとしてはリアクションに困る。嫌味を言う気にもならないし冗談を言う気にもならない。そもそもそれらが通じるのかも怪しい。
どうするべきか周りを見てみると、反応はそれぞれ違っていた。
ベクトルは既に通常運転といった様子で静かにお嬢の指示を待っている。そして、そのお嬢は既に女性兵士からは視線を外し、頭を抱えて考え事をしているパルプさんを見ている。まともに対応するならパルプさんの方がいいと考えたのだろう。まぁ、間違ってないだろうな。
最後にフィオを見てみるとなんとも形容しがたい顔だった。先程までの無表情ではなくなったようだが、怒っているのか笑っているのか、よくわからない顔をしている。しっかりと眉間に皺がよっているのに口角は上がっているのだ。それって、どんな気持ちなんだ?
「私の名前はアデリナ・マキアトリス。戦乙女をしている」
「よくわかんないけど、そうっすか」
戦乙女ってするものなのか? しいて言うなら、なるものじゃないのか?
まぁ、なんでもいいけど言葉の端々に意味のわからない覇気を感じる。あと、しれっと俺のローブの袖を引っ掴んで勝手に握手している。
普通に危ないんですけど……やめてくれませんかね?
「しかし、流石は神獣だな! 顔面に光剣をぶち当てたというのに無傷とは!」
いや、まずぶち当てるな。我慢はするけど許しはしないぞ。
あと勝手に感心されても困る。こっちはさっき何をされたのか未だに理解できていないんだから。
「光剣って?」
「何でも切れて投げれる光の剣だ。私にしか出せん!」
「そうっすか……」
聞いてみたけど、相変わらずよくわかんない。何でも切れるってどういう仕組みなんだよ。そもそも光の剣ってファンタジーにも程がある。俺もたいがいファンタジーだが、それを軽々と超えてきてる。
というか、そんなものを無言で投げてきたのかよ。俺のことをマジで殺す気だったんだな。おっかねえ……。
「誠に申し訳ありませんっ!」
思考の海から戻って来たパルプさんが勢いよく頭を下げた。それはもう綺麗な角度の謝罪だ。声もよく通る。
するとさっきまでじっと待っていた兵士の列が足音を控えめにして行進を再開させた。
もしかして、アデリナさんのこれは常習的なものなのかもしれない。そして、パルプさんの謝罪が行ってよしの合図。
何だそれ、パルプさん悲しすぎるだろ。
「まぁ、こちらは幸い無傷なので……」
「そうだぞ、パルプ。そう気を落とすな」
「アデリナ様は黙っててくださいっ!」
「うむ」
アデリナさんのメンタルえげつないな。
お嬢がパルプさんに気を使ってああ言ったのをいいことに、もう済んだことにしやがった。しかも若干上から目線で。流石のパルプさんもイラッとしたのか語気が強い。しかし、アデリナさんにはまったく効果がないらしく、キリッとした表情で頷いている。
なんか、大変そうだな。
「確認ですが神獣様御一行ですね?」
「ええ」
アデリナさんを黙らせたパルプさんはお嬢にそう質問した。もちろん、俺たちは神獣様御一行で間違いないので肯定する。するとパルプさんは頭の痛そうな顔をしてまた頭を下げた。
「誠に、誠に、申し訳ありません……」
「まぁ、はい……」
もう変な汗までかいてる。なんか可哀想になってきた。それなのにアデリナさんは腕を組んでことの成り行きを見守っている。まるで他人事のように。
「なんとお詫びすればよいか……」
「既に詫びたぞ?」
「そういうことではありませんっ!」
「そうか」
このふざけたやり取りにパルプさんもとうとう我慢の限界がきたらしく、声を荒げたがアデリナさんには効いていない。しかし、先程とは違いアデリナさんもなにか考えこむような仕草をしている。
そして、突然アデリナさんは一人で納得したような顔をした。
「ならば、ロベルトに聞くか」
「は?」
それを聞いたパルプさんは一瞬だけ呆けていた。しかし、意味を理解した瞬間に顔を青くした。どうやらパルプさん的にはどうしても避けたい方法らしい。
だが、凛々しい馬鹿は止まらない。
「あいつは賢いからな」
「いや」
「ついて来いっ!」
「いやいやいやいやっ」
勝手に納得したアデリナさんは周りのことなど放置して、大通りを進んで行く。それをパルプさんはどうにか止めようとすがりついて説得を試みているが、やはり効果はなさそうだ。
そうして、取り残された俺たちはお互いに顔を見合わせて戸惑うはめになった。
「……どうするんだ?」
「行くしかないでしょうね」
「もう行っちゃったしね」
「ですね」
「……はぁ」
パルプさんにも引けを取らない頭痛を感じているであろうお嬢は仕方なさそうにそう言った。それを聞いた俺たちは納得しつつも、どこか不本意な感情を滲ませて同意するしかなかった。
そして、お嬢の溜息を合図に俺たちはアデリナさんたちの後を追った。




