なるべくして
俺たちは来たときと同じように帰りも少年に導かれて部屋を出た。そして、別れ際に議事堂について少し訪ねてから魔術組合を後にした。
「潰れるのは知ってたのか?」
「いいえ。でも、無理もないと思うわ」
「そうなのか?」
ボロい魔術組合を背に道を進んでいる最中、俺はお嬢に一つの質問した。するとお嬢は面倒くさがらず丁寧に答えてくれた。
「組合なんて言っているけど、組織だったことはなに一つしていない。一応、集めた魔術の資料なんかは誰にでも開示しているけど、たったそれだけ。それにここにしか保管場所がない。だから資料を読もうと思っても、ここに来ないと読むことすらできない。つまりはかなり不便ってこと。とどめに見るほどの価値のある資料なんかはないの。提出されるものは誰もが知っているものばかりだから」
「なるほど、それは潰れるわけだ」
「ええ」
聞いている限り利便性が圧倒的にない。しかし、そんなことを言っても意味はない。潰れることは既に決まっていることなんだから。今更挽回の一手を打っても意味はないし、そもそもそんな一手は存在しない。完全に詰みだ。
それに魔術師が秘密主義ってのも、潰れることになった原因の一つでもある。まるで需要と供給が合ってない。今にして思えば、どういう経緯で魔術組合なんてものを作ったのやら。
「唯一の利点もあるにはあった。魔術を知らない人間がいたとして、ここに来れば手軽に魔術について学べるという利点が」
「それで裾野が広がると」
「そう」
まぁ、それは確かに利点ではあるか。無料で専門知識が学べるなら誰もが一度は興味を持つ。そして、実際に学んでみて相性がよかった者は魔術師になる。そうでなかった者は魔術について理解を深めて元いた場所に戻る。そうすることで少なくとも魔術はよくわからないものというイメージは払拭される。そうして魔術を世に広めることにより魔術の発展を促す。
ざっと考えるだけでこれくらいは理解した。どれも上手くいかなかったみたいだけど。
「でも、それだけなんだね」
「ええ、それだけ。全ては絵空事ね」
絵空事も大事なことだと思うけど、時代に合ってなかったのかもな。
「どれも済んだことよ」
「そうですね」
その通りだ。俺たちがどれだけ魔術組合に思いを馳せても意味はない。もう二度と行くこともないだろう。そんな場所のことをいくら考えてもな。
ここは切り替えていこう。
「で、どうするよ」
「まだ日も高いしねぇ」
「とくに必要な物はないですしね」
フィオの言ったとおりでまだ日は高い。かろうじて昼を過ぎたってところだろう。しかし、相変わらずするべきことはない。ベクトルが指摘したとおりで必需品も足りている。
「なら、さっさと議事堂で手続きをしましょう」
「わかりました」
「「はーい」」
もうそうするしかなさそうだな。
さんざん引き伸ばしたけど、そろそろ限界か。
別に行きたくなかったわけじゃないが全員そんな気分じゃなかった。よくないとわかってはいたが、ついつい後回しにしてしまった。例えるなら、休日の掃除ってところか。
しかし、もういい加減議事堂に行くべきだな。変に時間がかかって、また明日来てくださいとか言われたくない。俺たちはさっさとスターテア王国へ行きたいのだ。
そんなことを考えながら議事堂の方へ向かっていると、フィオが突然辺りを伺いはじめた。
「なんだか賑やかだね」
「言われてみれば」
「そうですね」
言われてみれば確かに少し騒がしい。騒ぎの原因は近くではあるようだが、周りを見渡してみても何も見当たらない。物騒な騒がしさではないが気になる。
一体何事だ?
「見に行ってみようよ」
「目立つわよ?」
「遠目からなら大丈夫だろ」
「はぁ、わかった」
「よしっ」
せっかく暇しているのだから、少しくらい寄り道しても問題ないだろう。流石に様子を見に行っただけで手続きが間に合わなくなることもないだろうしな。
それに今更目立つことを気にしても仕方ない。もう既に好意的な視線を集めまくっているのだから。今までは忌諱の目で見られることが多かったが、この国ではやたら好意的に見られる。ここまでくれば気にもならない。
「さて、なにが起こっているのやら」
「大通りの方ですね」
「見えてきたよっ」
「落ち着けって」
ベクトルの言う通りでなにやら大通りの方が騒がしいらしい。
そして、それを聞いたフィオは少し興奮気味で大通りの方へ駆けて行った。フィオのこういうところは魅力的な部分ではあるが、是非とも抑えてほしいものだ。
最悪興奮しすぎて石畳みを踏み割る可能性があるからな。




