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聞いてない

「こんちには」

「あ、はい。ようこそ」


 俺たちはひとまず魔術組合に入ってみることにした。ボロいと思っていても入らないわけにはいかない。ここがとりあえずの目的地なのだから。


 そして、いざ中に入ってみると想像を裏切らない光景が広がっていた。


 魔術組合の中は閑散とした受付に一人の少年が静かに座っているだけだった。本来ならもう数人の受付がいるはずなのだろうが、席は空いたままになっている。


 その受付にいた少年も誰かが来ることを考えてもいなかったようで、お嬢に声をかけられるまでずっと書類仕事をしていて気づきもしなかった。しかし、気づいてからはしっかりしたものですぐに表情が引きしまった。


「提出ってどこでするのかしら」

「えっと……少々お待ちくださいっ」

「どっか行ったな」

「ええ」


 俺たちを引き連れたお嬢は受付の少年の前まで進むと要件を早速切り出した。それを聞いた少年は慌てて奥の上り階段まで駆けて行く。


 どうやらその場で提出するというわけにはいかないらしい。お嬢もここに来たのは初めてなので、いまいち勝手がわかっていないようだ。ここは少年が帰ってくるのを待つしかない。


 ここで俺はちょっとした暇つぶしになればと思い、少しだけ気になったことを聞いてみることにした。


「しかし、提出の決まりがあるならどうして予定に入れてなかったんだ?」

「確かに」


 フィオも言われて初めて気がついたのか、今更気になりだしたようだ。


 そもそも魔術組合のある都市にまで来ているなら、初めから予定に組み込んでいれば良かったではないかと。


 別にそこまで気にはならないが、暇つぶしに聞くにはこんなものでいいだろう。


「別に直接提出しなければ駄目ってわけじゃないもの。実際、期限はまだ先だしスターテア王国についてからでも十分間に合う」

「それにいつもは冒険者組合に配達の依頼を出してましたからね。わざわざ出向くという発想はお互いになかったですね」

「そうなんだ」


 そういうものか。とどのつまり面倒くさいってことなのだろう。


 自分でやらなくてもいいのに、わざわざここまでやって来る必要性を感じないといったところか。


 それは魔術組合を見ていても理解はできる。俺たちを除けば魔術組合には誰一人としていないのだから。おそらく他の魔術師もそう思っているから、魔術組合はこんなことになっているのだろう。この魔術組合にそこまでの価値はないと。


 なんともいえない気分になるが、これが実情ということなのだろう。それは塔の外見からも薄々気づいてはいたがね。

 

「それにもうすぐ魔術師じゃなくなるしね」

「そうなのか?」

「ええ」


 お嬢が突然そんなことを言い出したので、俺とフィオは驚きを隠せない。なにせいきなり転職すると言い出したのだから。流石にベクトルは既に知っていたのか、とくにリアクションはない。


 しかし、一体どういうことなのか。


「どうして?」

「スターテアについたら魔術師ではなく、従魔師になるからよ」


 お嬢はあっさりとそう言った。まぁ、言われてみれば納得できる。


 今までは冒険者で魔術師と名乗っていたが、スターテア王国に行けばそうはいかなくなる。おそらく冒険者で従魔師と名乗ることになるのだろう。神獣を従えておいて従魔師じゃないというのは、何というか収まりが悪い。


 それにスターテア王国の紐付きになるのだから、神獣を従えた者というアピールは積極的にさせるとみていい。そうなると、やはり魔術師という肩書は邪魔とまでは言わないが必要ない。


 更に一級冒険者という肩書も追加される可能性もあるので、お嬢は宣伝されやすいように地位やら何やらでごてごてするに違いない。なので、魔術師という肩書は消えるのだろう。

 

「いいの?」

「なにが?」

「いや、だって愛着とかあるのかなって」

「愛着って……ないわね。まったく」


 フィオは自分たちのせいで、といった思いがあったのか申し訳なさそうにお嬢に問いかけた。


 しかし、お嬢は呆れた顔でそれを否定した。魔術師というものに全く名残惜しさを感じていないらしい。


 こちらとしては長年そう名乗っていた肩書に誇りのようなものがあるかと思っていたが、それは大きなお世話だったようだ。


「そういうものなのか?」

「そういうものよ」

「そっか」


 本人にそう言われるとこちらは納得するしかない。


 今更ながらお嬢の性格を思い知らされる。決断は早いし思い切りもいい。全くミスをしないというわけではないが、よく考えられている。


 やはり俺たちの主人として頼りがいがあるな。


「というか、肩書が変わっても魔術は使えるし研究もできる。今までと大して変わらないわ」

「まぁ、そう言われると何も変わっていない気もするな」

「確かにそうだね」


 お嬢の言う通りで身についたものは失われない。そう考えると本当に今までと大して変わっていない。


 ぐぅの音も出ない。


「この面倒な提出もなくなるから清々する」

「そっちが本音っぽいな」

「かもね」

「どうでしょうね」


 何というか最後の一言が一番の本音な気もしてきたな……。


 その方がお嬢らしくはあるが、聞いてる方はリアクションに困る。


 フィオも苦笑いを隠せていない。ベクトルも流石に困った顔だ。俺だって顔があればそうなっていただろう。


 まったく、魔術組合で魔術組合の文句を言うなよ……。


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