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しゃーないな

 ひとつ前にいた馬車は無事に通行の許可がおりたらしく、ゆっくりと暗闇に飲み込まれて行った。


 それに合わせてベクトルは兵士さんの前まで馬車を進める。ベクトルは初めに冒険者である証明をしてから身分の証明をした。そして、ベクトルは兵士さんに通行の目的を伝えた。スターテア王国で従魔契約をすると。


 すると兵士さんは少し訝しげな顔をして、ベクトルにもう一度同じ質問をした。本当か、と。ベクトルはもちろんそうですと言ったが、どうやら兵士さんは納得しなかったらしい。ゆっくりと馬車に近づき中を覗き込んできた。


「……従魔、か?」

「はい」


 兵士さんは初めに真っ白なフィオを見て呆けた顔をしたが、すぐそばにいるお嬢を見てフィオの異常さに気づいた。こんな人間はいないと。


 そして、フィオの抱える鍋に目を移し目を細めた。何かいるということには気づけたらしいが、正確には確認できなかったようだ。そこで俺は兵士さんのために鍋の隙間から体の一部を出してゆらゆらと動かす。これならわかりやすいだろう。すると兵士さんは少し目を見開いた。どうやら従魔がいるということは理解してもらえたらしい。


 しかし、これでもどこか兵士さんは腑に落ちていない。なにかを思い出そうとしているように見える。


 なんか変な感じだな。


「もう一度聞く、目的は?」

「ですから、本契約を」

「本契約だと?!」


 そこで兵士さんは大きな声を出してベクトルに詰め寄った。


 流石のベクトルもこれには驚いたのか少し仰け反っている。かくいう、俺たちもびっくりした。お嬢も何事かと険しい顔をしているし、フィオにいたっては声に驚いて一瞬硬直していた。そして、俺もうっかり驚いて鍋を削りそうになってしまった。


 しかし、そんなことなど知ったことかと兵士さんは尚もベクトルに詰め寄る。


「それは本当なんだなっ?!」

「え、ええ」

「ということは、し、神獣様か?!」


 なにやら神獣というのは俺たちのことをいうらしい。


 兵士さんはベクトルを問い詰めるのをやめてこちらを注視している。その表情は先程までの訝しげなものとは違い、驚きの中に喜びを混ぜたようなものだった。


 でも、神獣ってなんだ?


 フィオも気になったのかお嬢に目で問いかける。しかし、お嬢もわからないようでそっと首を横に振った。


「いや、待て待て待て」

「?」


 こちらが戸惑っている中、兵士さんは一足先に落ち着きを取り戻したらしい。しかし、表情はまたうって変わって今度は眉間にしわを寄せている。そして、俺たちから少し離れて元いた場所に戻った。


「そうなると通せない」

「は?」

「どういうこと?」


 とても言い難そうではあったが、兵士さんはしっかりと『通せない』と言った。


 これは穏やかじゃないなぁ。


 フィオはこの状況を理解できていないのか気の抜けた声を出しまった。対してお嬢は険しい表情で兵士さんに問いかける。まだ馬車の中で落ち着いた姿勢のままだが、声色は今にも手を出しそうだ。


「だから、通せないんだ」

「そりゃ困るんだけど」

「そうだよ」


 そうはっきり否定されると流石に困る。今まで静かにしていたが、そうもしてられない。俺は鍋からもう少しだけ体を出して兵士さんに反論する。それを見たフィオも俺と同じように兵士さんに抗議する。


 それを見て兵士さんはまた驚いた表情をした。これに関しては理解できる。俺がいきなり喋ったのが理由だろう。人間っぽいフィオならともかく、鍋に入った黒い塵が喋ればそうもなる。


 だが今はそれどころじゃない。説明を求める。


「いや、正確にはすぐには通せないだ」

「すぐには?」

「ああ、神獣様だからな」


 神獣様だから?


 いや、そこで勝手に納得されても困る。


 そもそも神獣ってのがいまいちよくわからない。敬ってるならすぐに通してほしいものだ。


「つまりはどういうことなんだ?」

「通知しないと駄目なんだよ」

「どこに? なにを?」


 わけのわからないことを。アプリの通知じゃあるまいし。


 俺たちが理解できていないことを少しずつ察して、兵士さんはまたもや訝しげな顔をする。


「本気で言ってるのか?」

「ええ」


 本気も本気で言っている。こっちは詳しいことはなにも知らないのだから。


 それにお嬢が代表して答えると、兵士さんは仕方なさそうに話してくれた。


「俺たちサリーマギ共和国側はスターテア王国側に神獣様が来るって知らせないといけないんだよ」

「マジか」


 だから、すぐには通せないってことか。


 何かしら前もってやるべきことがあったらしい。それを俺たちは無視してここまで来てしまった。


 そりゃ、こうもなるか。一応調べはしたが足りなかったみたいだ。


「知らなかったのか?」

「……ええ」

「そう、ですね」


 兵士さんは呆れた顔をしているが、こっちはそうもいかない。


 調べが足りなかったのは仕方ないにしても、ここでごたごたするのはよくなかった。後ろにはまだ列が残っている。あまり兵士さんに食い下がるべきではなかった。


 それに二人にしては珍しいミスなので、若干馬車の中の空気が重い。どうにかすべきだな。


「でもまあ……」

「しゃーないな」


 まぁ、俺とフィオにできることはこれくらいだ。


 ここから先は切り替えていくしかあるまいよ……。


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