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ゲブート隧道

「レックスたちは今頃お偉いさんとお話か」

「でしょうね」


 宿を出発して馬車でゲブート隧道へ向かう道中、俺はふとレックスのことを思い出した。


 昨日まで旅を共にしていたレックスたちとはこの町に到着してからすぐに別れた。そして、レックスたちは今頃仕事に勤しんでいるらしい。きっとなにか会議らしきものでもしてるのだろう。確か目的は不可侵条約の締結だったはず。大変そうな仕事だ。


 にもかかわらず、レックスたちは朝わざわざ俺たちに挨拶に来た。これまでお世話になったと。律義なことだ。


「レックスたちも大変だな」

「それなのに挨拶までしてくれるなんて、良い子たちだよね」

「そうだな」


 これから国の行く末を左右するって時に、俺たちみたいな冒険者に挨拶など本来は必要ない。身分が違うのだから。しかし、そこを曲げてでも挨拶に来るのがレックスでもある。忙しいであろう中やってきてくれたのだ。当然俺たちは軽い激励の言葉をかけた。


「お互いこれからが本番ってことね」

「まったくだ」


 お嬢の言う通りでレックスたちのことばかり気にしてはいられない。俺たちだってこれからが本番なのだ。


 旅の目的地であるスターテア王国に辿り着けば、俺たちを取り囲む環境は大きく変わるのだから。きっとこれまで通りにはいかない。得るものもあれば失うものもあるに違いない。覚悟していく必要がある。


 しかしまあ、気を張り過ぎても仕方ない。ある程度はいつも通り気楽な感じでいい。


「スターテア王国に行って具体的に何するの?」

「従魔契約としか言えないわね」

「僕たちも調べはしたんですが、本契約ともなると知っている人も少なくて……」

「なるほどな」


 フィオの質問に対して二人の歯切れがどうにも悪い。どうやらスターテア王国の情報が思うように手に入らなかったようだ。二人にしては珍しいが仕方ないことだ。俺だってスターテア王国の名前は聞いても、内情については一切知ることができなかった。別に閉鎖的な国ではないようだが、積極的に外と繋がりを持つことはないらしい。そのおかげで極端にスターテア王国の情報は少ない。


 従魔を持っている冒険者に聞けばいいのだろうが、そもそもその従魔を持っている冒険者の数も少ない。というか見たことがない。なので、情報がほとんど手に入らなかった。


「行ってからのお楽しみか」

「だね」


 そこで話を一旦終わらせて俺たちは馬車に揺られた。


 ◆◆◆


 しばらくすると馬車のスピードが緩やかになった。そこで外を少し確認してみると隧道があるというエルターン山脈がすぐそこまで迫っていた。


 隧道がある山脈は山と表現するよりも、壁と表現する必要がある程の標高だった。あまりの高さで頂上は雲に遮られて目視できない。もちろん、今までも山脈自体は確認できていたが、どこから見ても霞かがっていたのではっきりと認識できていなかった。


 そして、その壁のような山脈にひっそりと穴が空いている。おそらくあれがゲブート隧道なのだろう。しかし、ゲブート隧道自体が小さいわけではない。エルターン山脈が大き過ぎるのだ。その証拠にゲブート隧道に並ぶ人々は更に小さい。実際、ゲブート隧道はかなり大きい。よく見ると高さも横幅もゆとりがあるように見える。


「あれがゲブート隧道か」

「大っきいねぇ」


 人々がゲブート隧道に突入していく様は、まるで暗くて大きな穴に人々が吸い込まれているように見える。ゲブート隧道にはそれ程の異質な圧迫感があった。


「あの向こう側に目的地が」

「いよいよだね」


 こうやって見ていると異様なものに見えてくるが、所詮はただのトンネルだ。そこまで身構える必要はない。


 しかし、ここまで大きいと少し心が踊るような気がしてくる。何というかテーマパークの入り口の前にいるような気分だ。


「いいねえ、わくわくするな」

「別になにも特別なことはないわよ」

「でも、気持ちはわかります」


 ベクトルも俺と同じ気分らしい。まぁ、ベクトルは馬車の操縦をしているので、ゲブート隧道の迫力を一番に感じているはず。馬車の中から覗き見ている俺たちとは比べ物にならないだろう。それならベクトルの高揚も仕方ないことだ。


 それに並ぶ人々を見ているとテーマパークの列のようにも見えてきた。尚更わくわくしてくるというものだ。


「あと何人かな?」

「結構いるからな」

「そこまで時間はかからないと思いますが、少し待ちそうですね」

「はしゃがないでよ」

「「はーい」」


 まるで本当の母親のような注意をされたが、俺もフィオも子供じゃない。どっちも中身はいい大人だ。アトラクションの列くらい静かに待てる。俺にいたっては列を金で解決したくなるくらいには大人だ。どこかにファストパス的なものは売ってないものか。


 しかし、そんな都合のいいものはない。ここは大人しく待つしかない。


 そうして少しずつ進む馬車の揺れを感じながら待っていると、なにかを確認するような声が聞こえてきた。おそらくゲブート隧道の通行を取り仕切っている兵士さんの声だろう。


「もうそろそろか」

「そうですね」


 ベクトルがそういうのなら、次あたりが俺たちの番なのだろう。半日の時間をようするとは聞いているが、なかなかどうして楽しみだ。


「ついにスターテア王国だねっ」

「隧道を抜けたらね」

「レッツらゴー」


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