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才能

「本調子だと流石だな」

「当たり前です」


 日暮れ前のひと時。今ベクトルとレックスは食後の運動兼手合わせをしている。今日はもう寝るだけなので、後のことはなにも気にする必要はない。その証拠にお嬢はベクトルが用意した寝床でぐっすりと眠っている。


 そんなお嬢に気を使うこともなく、俺たちはベクトルとレックスの食後の運動兼手合わせを見学していた。


 そうして、感想を言っているとエンリちゃんがいつも通り絡んできた。どうやらレックスが褒められて嬉しくなったらしい。相変わらずの反応ではあるが、今回ばかりは納得せざるをえない。


 なぜなら、レックスはベクトルと互角にやりあっているのだ。以前手合わせをした時はベクトルにレックスが押されていたが、今はまったくそんな様子は見られない。もちろん、二人とも本気ではないので正確には判断できない。しかし、本気ではないことを考慮しても、かなりの腕だとわかる。まるでお互いに前もって示し合わせたかのような動きだ。


 しかし、その光景もいつまでも続きはしなかった。二人はどこか納得した表情を浮かべて剣をしまった。


「ありがとう。でも、ベクトルさんも流石ですね」

「ありがとうございます」


 どうやらこちらの会話を聞いていたレックスは俺に一言礼を言ってから、すぐにベクトルの方へ向き直り剣の腕を褒めた。それを聞いたベクトルは素直にレックスの言葉を受け入れた。


 お互いに納得した手合わせができたのだろう。どこか表情がすっきりしている。


「なんていうか、何気にベクトルも化物だよね」

「フィオさんにそう言ってもらえるのは光栄です」

「才能ってやつか」


 フィオも手合わせを見ていてすごいと思ったらしい。素直にベクトルを褒めている。別に普段は褒めないというわけではないが、こう改めて見ると手放しに褒めるしかなかったといった感じなのだろう。そう言われたベクトルは率直な感想を言う。フィオはこれでも過去の偉人だったりするからな。それも武で歴史に名を残したタイプの偉人だ。それなりに嬉しかったりするのだろう。


 まぁ、実際ベクトルは才能があるだろうからな。見ていてそれは疑いようがない。


「才能といえば、興味深い話を聞いたことがあります」


 レックスに水を差し出していたルーフェちゃんは不意に何かを思い出したように話しかけてきた。


「興味深い話?」

「はい。才能は魔力によって定義することができるかもしれない、という話です」

「定義ねぇ」

「もちろん、ひとくちに才能といっても沢山あるので、現状ではかもしれないとしか言えないそうですがね」

「それでも面白い話だね」


 確かにそれは面白い話だ。


 才能は魔力によって定義することができるってのはいまいち具体的に想像できないが、本当にできるなら知りたがる人間は多そうだ。誰もが自分の可能性ってやつを一度は信じてみたくなるからな。


 しかし、まだかもしれないの段階らしい。せいぜい夢を語るのが精一杯といったところか。


「でも、ざっくり【天才】って定義されたら困るよね」

「まあな。そういうことが聞きたいわけじゃないもんな」


 本当にできるとしても、わかりやすくないと意味はないからな。雑誌の付録についている占い程度の精度じゃ流石に使い物にならない。


「それこそルーフェちゃんの聖女ってのも才能になりそうだよな」

「どうでしょう……。聖女はあくまで役職ですし、治癒に関する魔術も極秘扱いではあるものの、学べば使用は可能ですからね」

「そうなのか」


 ゲーム的な発想なら聖女はそれっぽいんだけどな。特別な才能やファンタジックな理由付けは必要ないらしい。


「じゃあ、そうなるとレックスの英雄ってのも才能じゃあなさそうだね」

「だと思います。極論、剣の扱いに長けていればいいわけですから」

「夢がないなぁ」


 先程のレックスの動きは努力の賜物だということがわかった。そして、改めて感心はした。けど、これじゃあ味気ない。俺はもっとスキルみたいなやつがあるかと思った。なのに結果はそんな都合のいいものはないときた。残念だ。


「才能なんてそんなものだよ」

「ベクトルのは才能でひと括りにしていい感じじゃないしなぁ」

「そうだねぇ」


 そうなんだよなぁ。ベクトルはちょっと違うんだよなぁ。


 さっきは話の流れでそう言ったが、あれはだいぶいいように言った。本当はもっと適切な言葉がある。


「十分才能だと思うけど……」

「いや、違うね」


 レックスの疑問をフィオははっきりと否定した。そして、しっかりと訂正した。


「才能というより執念って感じだよね」

「お二人とも」

「……なんだよ」

「そこは愛と言ってほしいですね」


 はいはい、愛ね。わかってるわかってる。


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