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魔術

短めです。

 朝食を軽く済ませた後。


 エンリちゃんは何気なく魔術で狼を爆撃した。すると平原に結構な穴が空いたが、馬車で移動しているので穴はもう見えない。


 朝から無粋な狼だったが、流石にこういうのにも慣れた。


 こっちの世界は移動しているだけで魔物を見かける。もちろん、見かけるだけで終わることも多い。例えるなら、街中で鳩とか雀とかを見かける感じに近い。


 けど、さっきの狼は様子がおかしかった。もしかしたら飢えていたのかもしれない。


 とはいえ、律義に食われる理由もない。


 あんなのはエンリちゃんが馬車からひょっこり顔と杖を出してドカンで終わりだ。


 実に穏やかな日常と言える。


「流石の威力だな。エンリちゃんの魔術は誰かに教えてもらったのか?」

「独学ですが」

「なぜにドヤ顔」

「でもすごいね」


 まぁ、確かにすごい。


 ネットもない上に本もこっちではかなり貴重な物なので、独学ってのは相当な努力が必要だったはず。


 ドヤりたくなる気持ちもわからないでもない。鼻にはつくがね。


「お嬢的にはどうよ」

「なにが?」

「独学についてなにかないのか? 良いとか悪いとか」

「そんなの一概に判断できないわ」


 そうか……。


 もうちょっと話が広がれば、議論が始まるかと思ったけど上手くいかなかった。


 丁度いい朝の暇つぶしになると思ったんだがな。


「それはどういうことですか?」


 お、食いついた。


「どうもこうも、私みたいに師匠に教えてもらう方が身につける速度は早い。けどね、独学は幅が広がるのよ。好きに学べるから」

「なるほど」


 それはそうだろうな。


 誰かが開拓した道をたどるのは当然早い。それに比べれば独学は時間がかかる。一から開拓しなければいけないのだから。しかし、そのぶん自由度が高くなる。好きなようにできるからな。


 まぁ、この辺はどの世界も同じだろう。難易度の違いはあるだろうけど。


「どっちが良いとも言えないわ」

「確かに自由に学んだ気がします……」

「そうだね。エンリは教皇様から特別に魔術書を自由に読める許可がでてたからね」


 レックス、笑顔で結構なこと言ったな。


 自由に読める許可って……。すごいな。


 教皇様の許可ってことは相当貴重なものまで読めたはず。それに魔術書の量も地域の図書館ってレベルじゃないだろう。


 それを読み放題って……。


「特別な許可ねぇ」

「……なんですか」

「いいや、何も」


 別にコネとか言うつもりはない。ただただ感心してただけだ。


 ていうか、よく俺の顔色うかがえたな。顔らしいパーツなんて一つもないぞ。フィオかよ。


「でも、魔術書とかってそう簡単に見せていい物なの?」

「普通の魔術師は嫌がるわね」

「そうだよね」


 自分の商売道具だもんな。そりゃ嫌がる。


 もちろん、魔術書で直接稼ぐわけじゃないが、内容を覚えられて真似でもされたら大打撃に違いない。


 それに魔術書ってのは自分の研究成果の集大成でもある、らしい。そんなものを他人に見せたら即盗まれる。見せない方が普通の反応だ。


 それなのに、見せてもらえた。


「そこは俺が教皇様に頼み込んだんだ。妹には才能があるからって」

「ふーん」


 妹思いな兄だな。


 実際、才能もあったわけだから間違った判断でもなかった。しかし、教皇様もレックスの言葉をよく信用できたものだ。その段階ならかなりの賭けだろう。


 とはいえ、結果的には英才教育にも成功した。そのおかげで教国にとってはかなりの魔術師を手に入れられたのだからボロ儲けだ。


 今ではもう平原に立派な穴が空けられるようになった。流石だよ。


「さっきからなんですか?」

「いいや、何も」


 だから、感心してただけだって。睨むなよ。


「いいえ、絶対に何かあるはずです」

「おいおい、俺に興味津々かよ」

「はあ?」

「ひい?」


 まったく、これだからエンリちゃんは……。


 そこまで俺とおしゃべりしたいなら、付き合ってやるよ。


 ツインテ爆撃魔め。


「エンリ、程々にね」

「ポルターもよ」

「……はい」

「おうよ」


 双方共にブレーキ役は揃った。


 あとは昼までノンストップディベート大会だ。


 覚悟しなっ!


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