馬
「ポルター、不気味よ」
「おいおい、言い方にトゲがあるぞ」
デフォルトで不気味なんだよ。ストレートに言うな。
それに俺は馬を見ているだけだ。別にそこまで言わなくてもいいだろ。
「気になるのかい?」
「ああ、想像以上によく働くなぁと」
レックスも俺が馬を見つめていることに気づいたらしい。
まぁ、隠れて見ていたわけじゃないからな。夕飯時の気の緩みきったレックスでもそりゃ気づくか。
そんなことよりも、俺はこの馬が少々気になっている。
この馬はあきらかになにかおかしいのだ。朝からぶっ通しで馬車を引いていたのに息切れすらしていない。それに今俺たちはレックス一行も乗せている。総勢六人と従魔二体。さらに荷物まである。かなりの重さになるはずだ。にもかかわらず、この馬はそれを一頭で引いているのだ。
俺は普通の馬についてほとんど知らない。だが、この馬がなにかおかしいということくらいは流石に気づく。
「その馬は魔馬だからね」
「マバ?」
「そう。魔馬」
……ふむ。
馬であることは間違いないそうだ。しかし、俺の想像していた馬ではないらしい。
レックスの言い方から察するにサラブレッド的なやつかもしれない。
いや、知ったかぶるより聞いたほうが早いか。
「普通の馬じゃないのか?」
「普通ではあるけど、人の手が加わっているから特別ともいえるかな」
「ふむ」
わかるような、わからないような。
もともと軍馬であることは聞いている。だから人の手が加わっているのもわかる。
じゃあ、呼び方が違うだけなのかもな。こっちの世界では、よく調教された軍馬のことをそう呼ぶだけ、とか。
「因みにどう手を加えているんだ?」
「子供の頃から魔力入りの餌を与えるらしい」
「魔力ねぇ」
……突然のファンタジー。いやまあ、しっかりリアルなのは実感してるけどさ。
それはともかくレックス曰く、魔馬はその名のとおり魔力を持つ馬のことを言うらしい。どうやら自然にも魔馬は生息しているそうだが、今ではほとんど見かけなくなったとか。そこで、昔の酔狂なやつが仔馬に魔力を与えていたら偶然魔馬に育たったらしい。
あとは普通に繁殖させたそうだ。魔馬は魔力があれば、かなり体力がもつ上に力も強くなるらしく、軍馬にはぴったりだとかで。
「もちろん、魔力が体に合わない馬もいる。だから、魔馬は特別ともいえるんだ」
「なるほどな」
非常にわかりやすい説明だった。
レックスも魔馬の世話係さんに聞いた話だと謙遜していたが、それでもこの馬が優れた馬だということはよく理解できた。
それに魔力が何でもありなことも。
「もういいでしょ。離れて」
「いや、別にいいだろ」
なにもおかしなことはしてないんだから。
確かにこの魔馬は特別で非常に優秀なのは俺も理解した。だからこそ俺も不容易に近づいたりはしていない。怪我でもさせたら一大事だからな。
けど、見るくらいは別にいいだろ。この選ばれし我らが魔馬様をよく拝んでおきたいんだよ。
「じろじろ見られるのは不快よ」
「……それもそうか。わかったよ」
確かにお嬢の言う通りだな。
あの視線は気分のいいものでもない。そのことをよく理解している。控えておくべきだった。
「まぁ、魔馬は知能も高いはずだから、適切な距離を保っておいた方がいいだろうね」
「そうなのか」
そう言われると『こっち見んな』とも受け取れる視線だ。
さーせん。
「どれくらい賢いんだ?」
「魔馬によるだろうけど、人の言葉は理解できたはず」
「ほう」
マジでさーせん。
生後一年も経ってないゴミ屑塵ゴーレムなんで許してください。
ついついあどけなさが、ね?
「少なくともフィオよりは賢いわね」
「え?」
あぁ、飛び火した。
夕飯の火を眺めてぼーっとしていたフィオに飛び火したよ。悪いな。
でも、口半開きでぼーっとするのはやめておけ。マジで死体に見える。俺たちのアイデンティティ大切にしようぜ。
「距離の概念を理解しているらしいわよ」
「はい。朝、僕が何気なく言った距離を覚えていたいで、予想して止まってくれました」
「すげえな」
「……」
開いた口が塞がらないとはこのことを言うんだな。
というのも、フィオは距離の計算がいい加減なのだ。別に全くできないわけじゃない。ただ全て生前の勘を頼りにしてしまいがちってだけで。
一言でいえば、まさにいい加減。それも魔馬に負けるほどに。
「……まぁ、がんば」
今更思い出したが、この魔馬の名前は確かクレバだったな。
名前からもう既にクレバーが滲み出てるよ。
無知な塵ゴーレムといい加減な怪力ゴーレム。
負けたよ。




