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入れ物

 太陽が昇りきった昼下がり。


 いま俺たちはベクトルが操縦する馬車に揺られている。日差しは幌に遮られているのでそこまでではない。むしろ丁度いい。


 そんな馬車の中で俺はフィオの膝の上に抱えられている。


「なぁ……」

「なに?」

「いや、もっとマシな入れ物なかったのかよ……」

「私が選んだわけじゃないからわかんないよ」


 俺は上から覗きこむフィオに向けて不満気に問いかけた。


 しかし、フィオは自分のせいではないと理解しているので、悪びれる様子もなくはっきりと答えた。


 もちろん、俺とてそのことは理解している。とはいえ、何も言わないという選択肢はない。


 流石にこの現状には納得がいかない。


「何か不満でもあるわけ?」

「……ある」


 それを見かねたお嬢が仕方なさそうに俺に問いかける。


 その表情は今の限られた視界でもはっきりとわかる。物凄く鬱陶しそうだ。


 だが、俺も負けてはいられない。言いたいことは遠慮なく言わせてもらおう。


「何よ」

「これ、調理器具だよな?」

「そうね」


 入れ物というか、ダッチオーブンじゃねぇかっ!


 なにしれっと調理器具に人のこと押し込めてんだ!


 そりゃ人じゃねぇけど、もう少し尊厳というものを意識してほしいもんだねぇ!


「もっとさぁ……」

「仕方ないじゃない。折角馬も手に入ったのに、ポルターのためだけに足止めなんて御免よ」


 まぁ、言いたいことはわかる……。


 ヒュドラの一件を解決した報酬で、俺たちは念願の馬と馬車を手に入れた。しかも、馬は俺とフィオを恐れないよく調教された馬だった。また馬車はそこそこ立派な幌馬車ときた。これで使わない手はない。


 しかし、ここで問題となったのは俺の入れ物だ。いくら幌馬車とはいえ移動すれば少からず風は吹く。そうなると当然俺はゆっくりすることもできない。それに常に馬車の速度に合わせて移動しなければならない。


 流石にそれは現実的ではないということになり、急遽俺の入れ物を購入することになったのだ。


 ここまでは納得できる。だが、お嬢が急いで買って来た入れ物がダッチオーブンなのは納得いかない。


「これも悪くないと思うよ?」

「ああ、色も白でぴったりだと思う」

「統一感があっていいと思いますよ」

「頑丈な良い鍋だと思うが」

「贅沢な」


 フィオの言うこともわからないわけじゃない。この世界にダッチオーブンらしき物があったことも、驚きと新鮮さを感じているからまあ良い。


 それに同乗しているレックス一行の言うことも理解できる。レックスの言う通りで、このダッチオーブンは全てが白で構成されている。なかなかにオシャレだ。


 ルーフェちゃんの統一感があるという点もその通りだと思う。俺とフィオは主に白っぽい見た目だから、このダッチオーブンも変に目立つこともないだろう。


 ケラーデさんのいうことも間違っていない。このダッチオーブンはダッチオーブンらしいだけあって、かなり頑丈そうだ。もちろん俺が直接触れるとたちまち削れてしまうだろうが、ローブで包んでしまえば削れることもなかった。なので今は一箇所だけ隙間をあけて視界を確保している状態だ。


 エンリちゃんにいたっては、いつも通り当たりがキツい……。


 というか、的確な小言は刺さる。贅沢なのは俺だってわかっているんだ。


 わかってるけどさぁ……。


「いやこれ、調理器具だぞ……?」

「別に良いじゃない。それで調理するわけでもないんだから」

「お嬢、俺も理屈はわかってるんだよ。理屈はな」


 これは気持ちの問題だ。


 俺はお嬢の従魔なのだから厩舎に入ることも許容するし、いいようにこき使われるのも許容する。それに野盗的な者に襲われたら、指示通り始末もする。実際してきた。


 しかしだ。


 普段の居場所がダッチオーブンってのは、何というか腑に落ちない。それはダッチオーブンという存在を知っている俺だけがいだく違和感なのかもしれない。だとしても、無視できる違和感じゃない。


 あとまあ、実用的な問題もあったりする。


 些細なことではあると思うが。


「じゃあ、具体的に何が不満なのよ?」

「……うるさいんだよ」

「何が?」

「蓋が」


 そう、蓋が絶妙にうるさいのだ。


 視界を確保するためにローブに隙間をあけているが、当然視界を確保するために蓋もずらしている。そうなるとダッチオーブンはぴったりと閉まっていないので、どうしてもうるさくなる。


 それを俺はずっと耳元で聞かされているのだ。耳はないのであくまで例えだが。


「それこそ仕方ないじゃない」

「馬車の揺れで蓋がカチャカチャうるさいんだよ」

「貴方の方がうるさいわよ」

「今はそうい」

「閉めて」


 そう言ってお嬢はフィオに指示を出した。


 フィオも一瞬は躊躇してくれたが、お嬢の冷たい視線をうけてあまり反抗しない方がいいと察したらしい。


「ごめんね」

「おいっ」


 もし訳なさそうなフィオの目を逆さに見ながら、俺の視界は真っ暗になった。


 それからしばらく、ベクトルが操縦する馬車に揺られながら無音の時間を過ごした。


 にしても、このダッチオーブン凄まじい密閉性だな……。


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