新しい日々
「どういうことかしら?」
おいおい、聞いてないぞ。
一緒に出発するなんて一言も聞いていない。それはお嬢も同じなのかレックスたちに詰め寄る。
しかし、レックスたちもこの状況ができていないらしい。少し驚いてから確認し合っている。そして、レックスたちはひとまず状況を整理するために落ち着いた様子で話し始める。
「依頼は出したはずなんだが……」
「組合長、話してなかったのか?」
ケラーデさんはどうやら組合に依頼は出したらしい。なのに俺たちへ話が通っていない。そこがいまいち理解できないらしく不思議がっている。
だが、レックスはいの一番に組合長に確認を取り問い詰める。すると組合長は気まずそうな顔をして頭を掻いた。
「悪い……忘れてた」
「しっかりしてくれ」
マジでしっかりしてくれ。いいおっさんが頭を掻いたくらいで誤魔化されると思うなよ。しかも組合長という立場の人間がしていいミスじゃねえ。ふざけるな。
さては、ヒュドラの討伐記念とか言ってどんちゃん騒ぎして忘れたわけじゃあるまいな? さっきの頭を掻く仕草も実は二日酔いの頭痛のせいとかじゃないよな?
いろいろと不満はあるがとにかく説明してもらわないことにはよくわからない。
「それでどういうことなのかしら?」
「実は不可侵条約の使者として私たちがサリーマギ共和国に向かうことになったのです。そして、その道中の護衛を皆様にお願いしようと依頼を出したのですが……」
「組合長が忘れるなんて論外です」
なるほど。そういうことか。
確かに進行方向はだいたい同じだ。レックスたちの目的地であるサリーマギ共和国は俺たちの目的地であるスターテア王国の途中にある。なので、一緒に行動することは理解できる。また護衛の依頼を出すことによって俺たちにも依頼料が発生するので旨味はある。人数が増えることによる安全性については言うまでもないだろう。
かなり合理的で双方ともに利点がある依頼だ。そんな依頼をこのおっさんは……。
「普通忘れないだろ」
「考えられないね」
「面目ねえ……」
そう言った組合長に何故そんなミスをしたのか聞いてみると、まさかの大正解。ヒュドラ討伐記念に羽目を外して飲みすぎたそうだ。それでうっかりしてたらしい。思考回路が簡単すぎる。合って間もない俺でも予想できる行動を取るな。しっかりしてくれ。
「それで依頼は受けてもらえるだろうか?」
「どうするんだ?」
心配しているレックスたちには申し訳ないが、現在お嬢は呆れかえっている。これから出発という時に呼び止められた上に突然依頼まで持ち掛けられたのだ。普通に考えて迷惑以外のなにものでもない。いろいろと考えて行動するタイプのお嬢には結構なストレスに違いない。あと基本的にせっかちだしな。
「まぁ、別に構わないわ」
「だってさ」
「ありがとう!」
まぁ、断る理由もない。利点は沢山あるわけだからな。ここは一緒に行動するべきだろう。それによく見るとレックスたちは旅の準備をしていた。今更断りづらい。
「報酬と言ってはなんですが道中のことは全てお任せください。馬の世話から食料の管理まで対応させていただきます」
「教国内ならある程度の融通はきくはずだ」
それはいたれりつくせりだ。お嬢もベクトルも馬の世話などは多少の心得はあるのだろうが、元々の持ち主だった者からアドバイスが貰えた方がこの先々の旅にとってはありがたい。食料の管理についてもそうだ。人数が増えることによる管理の手間は馬鹿にならない。それを請け負ってくれるのはとても助かる。
とはいえだ。
「別にそこまでしてもらわなくてもいいわ」
「僕たちのことはあまり気にしないでください」
助かるとはいえ流石に圧が凄い。依頼主であるレックスがすることではない。これではどっちが護衛なのかわからない。
「では、なにかあったらすぐに言ってくれ」
「ええ……」
それでもレックスはこちらの様子に気づいていないのか無自覚な圧をかけてくる。まぁ、これはさっさと受け入れた方が楽だな。
「じゃあ、行きましょう」
「わかった。組合長、行ってきます!」
「おう! 達者でな!」
そう言って、レックスたちは俺たちの馬車に乗り込み組合長へ別れの挨拶をする。そして、俺たちもひとまず馬車に乗り込む。手綱はベクトルが握り馬車はゆっくりと進み出す。
レックスは組合長が見えなくなるまで手を振っていたが、お嬢はそれを見てため息をつく。
「はぁ……」
「本当によかったのか?」
「まぁ、別に嫌ってわけじゃないわ」
「いきなりでしたからね」
馬車の前方にいる俺たちはレックスたちに気づかれないように密かに話し合う。確かに唐突だった。お嬢は気乗りしないようだが、本気で嫌がっているわけではなさそうだ。それを見たベクトルも困った風なことを言っているが声はどこか楽しそうであった。
こういうのも、悪くない。
「少し変わったな」
「だね」
そうして、俺たちの日常は少し変わった。
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