温度差
「世話になった」
「いえ、こちらこそ」
冒険者組合前の広い道で俺たちと組合長は向かい合っていた。組合長は俺たちが今日出発すると聞いてわざわざ見送りに来てくれたのだ。
あんまり交流はなかったのに丁寧なことだね。見た目は厳ついが性格はマメなようだ。やはりこういうところが出世の鍵なのかもしれない。
「こっちは組合の規則に則って部屋と厩舎を貸しただけだ」
「まぁ、そうですね」
まぁ、そうですねってな……。
俺たちは厩舎がないとまともに一晩過ごすこともできないんだ。もっとマシな言い方はないのか。それでも大変お世話になりましたくらい言えないのか。お嬢らしいといえばお嬢らしいがそれでいいのか。
「それに比べてお前らはヒュドラ討伐に教皇様の依頼もこなしたんだ。大したもんだ」
「ありがとうございます」
確かにそれは簡単な仕事ではないな。超大方依頼と言っていい。そんな超大方依頼も成功させてしまう俺たちは凄い冒険者なのかもな。お嬢が不遜な態度なのも理解できないこともないか。
「やっぱりここにいたんだね」
するとレックス一行もやって来た。これはなかなか豪華な見送りじゃないか。レックスを見かけた通行人はかなり驚いているし、少し離れたところでは黄色い悲鳴が上がっている。元々この国の英雄だったレックスがヒュドラを討伐したことによって更に人気が増したようだ。まるでアイドルのような扱いになっている。そんな英雄様にお見送りしてもらえるとは光栄だね。
当たり前といえば当たり前だが、先日までサンセンタはヒュドラによって暗い雰囲気だった。しかし、今ではそれも嘘のようだ。この変化は喜ばしいことには違いない。
「どうしたんだ?」
「出発すると聞いたからね」
「それはご丁寧に」
やはり見送りで間違いなかったらしい。これ程までの好待遇は少し小っ恥ずかしいがそれだけのことをしたのだ。ここは甘んじて受け入れようではないか。
「いや、別に見送りが目的ってわけでもない」
「そうか」
なんだ、違うのか。
こっちは完全にその気だったんだがな。
「忙しくてあまり話もできなかったからね」
「確かにな」
またお話か。しかもここで話すのか。せめて場所くらいは考えてほしいんだが。
どうせあれだろ? 長いんだろ?
流石に学んだよ。この国の人間は話が長い。特に真面目な話をする時はかなり長くなる。きっと国民性に違いない。俺はそう睨んでいる。
とはいえ、聞かないという選択肢はない。そこまで薄情ではないしこの観衆の中ではそんなことは絶対にできない。もしそんなことをしたら非難轟々だ。それにエンリちゃんがいるのだ。できるわけがない。
「それで?」
「ああ、今回の一件で俺の至らなさが身に沁みてよくわかったんだ」
「まぁ、よかったな」
そうとしか言えない。別に責めることも褒めることもできやしないのだから。いろいろ悩んでいたし教皇様にもお言葉いただいて真面目に考えていたのだ。今更俺たちが何も言うことはない。あともう興味も薄いし飽きた。
「だからといって立ち止まっているわけにもいかない」
「はぁ」
教皇様もそう言ってな。良いんじゃないかそれで。
「どうしていいかわからなくとも進むしかない」
「そうっすか」
存分に頑張って進んでくれ。応援はするよ。しかし、無理はするなよ。周りの人間と後が大変だから。その辺りのことは今回のことから学んでおいてくれるととても助かる。
「だから、俺はこれからも努力していこうと思ったんだ」
「それは結構なことで」
いや、本当に。大切なことだ。
レックスほど真面目な男ならどんどん努力に見合った成長をするだろう。おそらくコツコツ努力を積み上げて見上げる程の高みに登っていくに違いない。たぶん。
「僕はそれを聞いてほしかったんだ」
「うん? そりゃ聞いてくれと言われたら聞くけども」
「それくらいはね」
聞くことくらいはお安い御用だ。ここに来て何回そんな話を聞いたことか。ここにしばらく滞在したら他人の愚痴聞きの仕事ができそうだ。
もしそうなったら金を取ってやるがね。
「ありがとう」
「それだけって言うのもなんだが話は終わりか?」
「そうだね。決意表明もできたことだし後は道中で」
うん?
今おかしなことを言わなかったか?
俺の気のせいか?
しかし、フィオもお嬢もベクトルも皆引っかかったようだ。どうにもレックスの言ったことを理解できていないらしい。揃いも揃って全員不思議そうな顔だ。
「道中?」
「共に出発するように言われたからね」
は?
もの凄い爽やかな顔で言ってるけど、そんな話を聞いた覚えはないぞ?




