約束
「個人的な話を聞いていただきありがとうございました」
「どういたしまして」
「大したことは言ってないしね」
そう言って教皇様は何度目かもわからない礼を口にして頭を下げた。俺たちが教皇様の力になれたかはわからないが、少しでも役に立てたのなら幸いだ。
「レックスたちにも見苦しい姿を見せてしまいましたね」
「いえ」
教皇様は己の不甲斐なさを詫びるようにレックスたちにも頭を下げた。しかし、レックスたちは何事もなかったかのように教皇様の言葉を否定する。内心どう思っているのかわからないが、どうやらレックスたちは見なかったことにしたいようだ。
まぁ、正しい判断だろう。国の一番偉い人間が余所者にお悩み相談をして頭まで下げたのだ。いくら他の目がないといってもそう簡単にしていいことじゃない。見なかったことにした方が心安らぐというのも理解できる。
だが、教皇様は今だに話を終える様子はなく尚も話し続ける。レックスはどうやら心労が絶えないタイプの人間みたいだな。がんば。
「こううじうじと悩むのはよくないとは思っているのですが、どうしてもそう考えてしまうのです」
「教皇様にそのように思っていただけることは光栄なことです。しかし、俺は英雄としていついかなる時もどのような困難にも立ち向かって行く所存です。それがたとえ誰の力を借りることのできない状況だとしても」
自分の弱い部分を笑うように話す教皇様に対し、レックスは強く宣言した。実際は自分たちの力ではどうにもならず、俺たちが現れて状況は好転した。それはあくまでも運が良かったという話で結果論だ。しかし、レックスは英雄としての立場や誇りを捨てて事態の解決を優先したのだ。それはレックスが勝ち取った結果とも言える。それにレックスは俺たちが現れなくてもどうにかするつもりはあったはずだ。たとえそれが不可能なことだとしても。
それを聞いた教皇様はまた少し申し訳なさそうな顔をした。しかし、今回は先程までの後悔は見えない。どちらかというと教皇様は優しげな表情だった。
「そうですか。しかし、私は貴方と共に考えていきたいと思ったのです」
「共に考える、ですか」
「ええ」
レックスは教皇様の言葉を最初は理解できなかったのか怪訝な顔をする。それを見た教皇様はいまいち伝わっていないことに気づき困ったようだが、他の者にはしっかり伝わっていた。
「一緒に悩もうってこと?」
「フィオさんの言う通りです。我々は共にあることでようやく力を発揮できるのです。それ程までに我々は弱い。しかし、時は巡り少しでも立ち止まれば我々を置いて行こうとする。ならば、少しでも前に進まなければなりません。立ち止まっている者がいれば、手を貸し前に進む手助けを。懸命に先に進もうとする者がいれば、背中を押す手助けを。また蹲ってしまい前に進めなくなってしまった者がいれば、再び先へ進む時のために共に膝をつきただ静かに苦しみに耐え忍ぶ時を協力することも必要です。そうやって共にあることが大切なのです。なので、レックスも私たちと共にあってほしいのです。それこそ、いついかなる時もね」
「……はい」
教皇様はフィオの言葉を切っ掛けにレックスへゆっくりと語りける。そして、レックスはその言葉を丁寧に受け止め自分なりに理解しようと努めていた。
「もちろん、これはポルターさんにも言えることです」
「俺もか?」
どうやらレックスだけに向けた言葉ではなかったようだ。教皇様は今度は俺に語りけてくる。
「ポルターさんは初代様とは別人です。しかし、やはり無関係というわけでもない」
「まあな」
「なら、私たちはポルターさんと向き合い考え続けねばなりません。ポルターさんの背中を押すためにはどうするべきなのか。ポルターさんが立ち止まってしまった時にどう手を貸すべきか。ポルターさんが蹲ってしまった時にはどう共にあるべきか。初代様を思うようにポルターさんを失望させないよう努めるべきなのです」
「そんなに気負わなくてもいいと思うけどな」
教皇様は初めて会った時のような優しげでありつつも大真面目な顔でそう言う。対する俺はやはり考えすぎだと思ってしまう。それでは息が詰まってしまいそうだと思ったのだ。
それを察した教皇様はくすりと笑い少し軌道修正する。
「気負わせてください。ちょっとした決意表明ですから」
「それなら別にいいけど」
「ありがとうございます」
まぁ、そういうことなら別に構わない。決意表明と言われてしまえば俺がああだこうだ言えない。
「ディジーさんとベクトルさんにはこれからもお二人のことを勝手ながらよろしくお願いします」
「はい。拾ったのは私なので最後まで責任を持つつもりです」
「僕もお二人の力になれるよう頑張ります」
一人だけ俺たちを野良犬的な扱いなんだが、これも決意表明の一種だと思うことにする。そうしなければ結構な声でツッコミそうになってしまうからな。
「本当に今回はありがとうございました」
「いいってことよ」
「ポルターはなにもしてないでしょうが」
「まだ言うか」
「まあまあ」
教皇様がせっかく話を締め括ろうとしているのに変な茶々を入れるな。ここで漫才なんてしたくないぞ。
しかし、教皇様はそれを楽しそうに見ているだけで咎めることはなかった。
「これからも皆様の安寧を願っています」
「ありがとうございます」
「全ての生に祝福を、全ての死に感謝を」
そうして、話し合いはなんとも言えない終わりを迎えた。




