目覚め
目が覚めてからしばらく待ってみたものの、相変わらず目の前は真っ暗なままだった。
目の前が真っ暗なら自分が起きているのか眠っているのか、本来ならわからない。
しかし、なぜか俺は起きていると確信が持てた。
それから俺はどうにかようと試みたが、なにもできなかった。
まぁ、そりゃそうだ。
逆になにかできると思うか? 何も見えないんだぞ? 無理に決まっている。
それに体を動かしてみようと考える余裕もなかった。そもそも、この状況が理解できていなかった。
だから、一回待つことにした。
なにか状況が改善されるかもしれないと思ったんだ。
そして、俺は寝た。たぶん。
せっかく目がさめたのに、もう一回寝てしまった。
でも、これも仕方ないと思う。
目の前が真っ暗なんだ。普通は寝るって。
そりゃ、明るくないと怖くて寝れないタイプの人もいるさ。けど、俺は違う。普通に暗くするタイプの人だ。だから、寝た。
いや、正確には意識を失ってただけかもしれない。湯上がり後に眠たくなるあれだ。実はあれは寝てないらしい。失神らしい。そう聞いた。
つまり、なにが言いたいかというと。
最初はなにも理解できなかったんだ。
だから、少しずつ状況の確認をすることにした。
こんなことになる前は朝からいつも通り働いた。そして、電車に乗っていつも通り帰宅した。それから夕飯を食べてネットを見て風呂に入った。因みに湯上がり後の失神はなかった。その後は少しだけテレビを見てから寝た。
実に普通の日だった。何もわからない。
そこで次はこの状況を整理してみることにした。
相変わらず、目の前は真っ暗。
とはいえ、目が慣れてくれば少しはなにか見えると思った。
が、結果はそうならなかった。
そこで、やっと気づいたことがあった。
目の感覚がない。
そこからは早かった。腕の感覚、頭の感覚、呼吸をする感覚。確かめようとした順に感覚がないことに俺は気づいていった。
全身の感覚がないことに。
怖くて仕方なかった。
それでも兎に角なにか知りたかった。
必死に感覚のない目をこらした。すると目の感覚が少し戻ったような気がした。そして、なにかが見えた。確かに、ぼんやりと。
まだ足りない。もっともっとと俺は目の感覚をはっきりさせていく。
すると視界は一気に広がった。
そして、見えてきたのは見覚えのない洋風の部屋だった。
明かりはなかった。暗くて誰も居ない部屋だ。
とくにこれといった家具はない。そして、生活感のない部屋でもあった。状況を理解する手がかりはなにもなかった。
しかし、この状況を理解する手がかりは部屋ではなく自分自身にあった。
そこで俺はようやく自分自身が普通じゃないことにも気づいた。
目線を下げてみるとそこに俺の体はなく、代わりに黒い霧のようなものが浮かんでいた。
そして、その黒い霧は視界の縁にもしっかりと見えた。
そこで、やっと俺はこの黒い霧が自分の体だと理解した。
止めの一撃だった。
俺の余裕は一瞬でなくなり、悲鳴とも呼べない声をあげた。
◆◆◆
というのが、俺の最初のイベントだった。
なかなかのホラーだと思う。それにファンタジーだな、とも。
目がさめたら自分の体はそこになく、黒い霧に変わっていた。しかも、見たことない部屋で。
要約しても意味がわからない。
驚いたどころの騒ぎじゃない。
それにパニックとはあの状態のことをいうんだと実感したね。
その後は当然嘆き悲しんだ。加えて助けを求めたりしたが、来るはずもない。
来てたらこうしてぼーっと考えごとなんてしていないからな。
もちろん、俺だってずっとぼーっとしていたわけじゃない。
嘆き悲しんだ後は怒り狂った。
いや、もっとわかりやすく言うとグレたが一番近いな。
復讐がどうとか倍返しにしてやるとかその辺にいる悪役みたいに怒り狂った……わけじゃない。
なんと言うか、ただひたすらに怒って騒いでいただけだ。
しかも、ピクリとも動かずに。
というのも、自分が黒い霧だってのは理解できたが、動かし方がわからなかったのだ。
黒い霧の動かし方、なんて説明書があったってほとんど理解不能だ。
だから、俺は動かないまま騒いでた。
そして、しばらく騒いだ後は落ち着いた。流石にずっとは騒げない。
一人で毎日お祭り騒ぎはキツすぎる。
かといって、少し休んでからまた騒ぐのもなんか違う。
そこで俺はついに更正した。
一人でグレて、一人で勝手に更正した。よくわからないかもしれないけど、そういうことだ。
そうして、次に俺はどうにかして動けないのかと思った。
いつまでもグレてはいられないのと同じで、動けないのもいけないと思ったのだ。
しかし、相変わらず黒い霧の動かし方はわからないまま。
考えた末に俺は一つの決断をした。
先に言っておくが、大したことじゃない。
それで、なにを決断したかというと。
兎に角じたばた暴れてみることにしたのだ。
そのうちどこか動くんじゃないかと思ったんだ。
そうして、しばらくじたばたしていると、黒い霧がもぞもぞ動いていることに気づいた。
それからは練習あるのみだった。
じたばたと動くだけじゃなく、体をスライドさせるイメージで動いてみたりといろいろ試した。
それからしばらく練習をして、俺はようやく黒い霧の体を動かせるようになった。
どれくらいの時間がかかったかはわからない。体内時計なんて遠い昔に壊れているからな。
それでも、よかった。
やっと動いて周りを調べることができると思うと、達成感が凄まじい。
これからなにが起こるかわからない。しかし、その不安も達成感や自由という快感には敵わなかった。
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