ねぇねぇ、カーテンの隙間って話、知ってる?
こういう話は苦手です……プロット考えるだけで、夜寝れなくなるんですよ
「ねぇねぇB子は、カーテンの隙間って話、知ってる?」
友達の家でのパジャマパーティーも終わり、電気を消してみんなが寝た後、隣で寝ていたA子が唐突に話し掛けて来た
またか、と思いながらも首だけ動かしてA子を見ると、布団の中でうつ伏せになり、手で顔を支えながらカーテンの隙間を見ていた
彼女には悪癖がある……逃げ場がない所で、他人に怖い話を聞かせるのだ
「知らないよ、何?隙間女みたいな話?」
他の友達を起こさないように小声で答えると、A子は小さく笑った
……暗闇でシルエットしか見えないのに、何故か笑顔になったのが確信出来た
「違うよ……あーそうか、ごめんごめん、これは怖い話じゃないから、安心して」
「ならいいけど……なら、何なの?」
「これはね、奇跡なんだよ」
「奇跡?」
「ふふふ」
答えずに笑う彼女に不気味なものを感じて、目を反らした
嘘だ、これは絶対に怖い話だ、いつものように怖い話が苦手な私をからかうつもりなんだ
「ねぇ、なんで人は怖い話が大好きだと思う?」
「私は嫌いなんだけど……」
「それはね、自分がその怖い存在になりたいからなんだよ」
「えっと、私は嫌いって言ったんだけど」
「人の力ではどうしようもない恐怖、物理法則も時間も超越した存在に、人は憧れてるんだよ」
「A子聞いてる?あんまりふざけてると怒るよ」
「ねぇB子、カーテンの隙間を見て」
「今日のA子本当に変だよ」
「私はね、毎晩見てるんだ……いつかあの隙間から、恐怖が現れるのを」
話を聞かないA子に憤りながらも、恐る恐る視線をカーテンへと向ける
隙間から見えるのは、窓越しの星空……良かった、何も怖い物はいない
「何もないよ」
「B子には見えないか……でもね、私ニは、ヤッと見えタんだ」
「何が?」
「怖イ話がダヨ」
意味分からない!
そう言おうとしたのに、声は出なかった
だって、A子が笑っているのが見えたのだ……隣で寝ているはずなのに、カーテンの隙間から、私を見て笑っていたのだ
逆光でシルエットしか見えないはずなのに、狭い隙間からは片目と口の半分しか見えなかったのに……確かにA子はそこに居た……歪な笑顔がそこにあった
咄嗟に頭まで布団を被り、A子に背を向けて身体を丸める
【ねぇねぇ、カーテンの隙間って話を知ってる?】
布団に潜り込んだ私に、A子の声が響いた
ガタガタと震える身体を胎児のように丸めて、必死に聞こえない振りをする
……だって、窓の外から声がするんだもん、こんなの幻聴だよ、こんなのA子のはずがない!
【それはね……私を見た人を、私と同じ存在にするお話】
嫌だ聞こえない!嫌だ聞こえない!嫌だ!嫌だ!嫌だ!!
【ねぇB子は……どんな怖い話にナルのカな?】
嫌だ!嫌だ!嫌だ!私はなりたくない!私は怖い話なんかになりたくない!!
恐怖のあまり失神したのだろうか……気が付くと、翌朝になっていた……そして、A子は消えていた
この部屋からだけじゃない、みんなの記憶の中からもだ
A子は?と聞いた時のみんなの不思議そうな顔は、私を絶望に落とすのに、とても効果的な顔だった
逃げ出すようにその場を走り去った
まるで悪夢のような展開に、私は怖くなって家まで走って帰ったのだ
走りながらスマホを確認する、A子の電話番号はある、やっぱり私の勘違いなんかじゃない!とホッとするが……続いて確認した写真が、A子だけ黒く塗り潰されていたのに、絶望した
家に帰った私は部屋まで駆けると、カーテンを力任せに隙間無く閉め、ベットの上で膝を抱えた……でも、震えは収まらない
毛布を頭から被って世界を拒絶したいけど、それは出来ない……また聞こえて来るかも知れないからだ、昨夜のように、窓の外から、A子の声が
───なんで私だけ覚えているのよ!なんで私だけこんな目に!嫌だ!嫌だ!こんなの世界嫌いだ!!
数日後、耐えきらなくなった私はパソコンの中に引きこもった
ここなら安心だ、何故なら、ここにはカーテンがないからだ……あらゆる数値や映像、グラフやコメントが流れる空間……ここなら安全だ、何故なら、ここは私の世界なのだから
うふ、うふふふふふふ
でも、一つだけ許せない事があるわ……それは……私だけが怖い目にあっているという事……
A子と仲が良かった友達は他にもいたのに、なんで私だけ怖い目にあったの?
パジャマパーティーだって他にも人がいたのに、なんで私だけに話し掛けたの?
───こんなの不公平だ!こんなの絶対に間違っている!
間違いは正さなくてはならない
どうにかして、他の人にも私と同じ恐怖を味わなきゃならない!
直接話に行く?でも外には出たくない……だって、外からでも、他人の家のカーテンが見えるのだから
その隙間からA子が見えたらと思うと、ゾッとする!
それは駄目だ、私はこれ以上怖い思いをしたくない
ならどうしよう?外に出ずに、どうやって人間を怖がらせよう………………そうだ、いい方法がある!
───私が怖い話を書いて、それを読ませればいいんだ!
うひ、ふひひひひひひひひひひ
そうよ、書けばいいのよ!
わざわざ話に行かなくても、私が体験した話を書いて、読んだ人間に、同じ恐怖を味会わせればいいのよ!
ああ、なんて名案なのかしら、人間どもの悲鳴はきっと、私に更なる力を与えてくれる
一石二鳥とはこの事ね!
なら早速書いて……ちょっと待って……私は実際に体験したのに、読んだ人間は体験しないじゃない
それはいけないわ、とてもいけない、そんなんじゃ、私の恐怖を共感出来ない
【そんな事許せないわよね!】
だから、だから、だから!私はA子に電話したの
───これを読んだ人間に、会いに行ってくれって!
ふひょっ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
そう、これを読んだ全ての人間に!
とても名案だわ!
私が書けば書くほど、人間の目に止まる
いっぱい書いて拡散すれば、いっぱいA子がいっぱいの人間を怖がらせる
それはとても素晴らしい事だ
よし、そうと決まったら書こう
最初は何処がいいかしら……やっぱり有名な所がいいわよね?
有名と言ったら、小説家になろうかな?……あら、丁度夏のホラー企画がある、これ、いいわね
A子は幸運よね、あなた神に愛されてるんじゃない?
私が書こうと思った矢先に、なろうがホラーを企画しているなんて
これは、あなたの話を広めなさいっていう啓示よね
嬉しいわ、とても嬉しい
うふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ
そうだ!書き上げたら、後書きにこう書いてあげよう
【今夜あなたに、A子が来るわ】と
なんて親切なんでだろう!
わざわざ忠告してあげるなんて、私ってやっさしー!
あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
あれ、読み終えたのに、カーテンを閉めた人間がいるわ
それはいけないわ、とてもいけない、そんな事をしたらA子が行けないじゃない
メッセージを送っておこう、こういう細かな気配りは大切よね
【やだ駄目よ、カーテンをキチンと閉めたら、私が行って、隙間を開けておくね……】
私ね、ゴミの山で、いっぱいお友達が出来たんだ
捨てられたパソコンもいっぱいあるの、捨てられた存在もいっぱい居るの
みんなみんな私のお友達なの
みんなみんな、人間に捨てられた、私の大切なお友達なの
そんなお友達の力を借りて、みんながA子に会えるように、私は頑張るの
【大丈夫だよ、例え寝てても、真夜中に起こしてあげるからね】
寝むちゃったあなたの為に、お友達と一緒に行って、無理矢理起こしてあげるね
【目が覚めたらカーテンを見て】
目を閉じようとしてもダーメ♪
そんな悪い子の瞼はちょん切っちゃうぞ
【隙間から見える?見えるよね、A子が!】
見た!見たよね!あなたも見たのよね!
うふ、うふふふふ、ふひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ
【ねぇねぇ、あなたはどんな怖い話になるのかな?】
とても怖い話がいいな、出来れば救いがない話がいいな
【なったら教えて】
ならないなんて許さないんだけどね
【私が書いてあげるから】
だから見せて
【あなたの怖い話を】
怖い話になったあなたと私の為に
【ねぇねぇ、カーテンの隙間って話、知ってる?】
【この話はね、聞いたら、あなたも私の仲間になるの】
夏のホラー用に書いたのに、投下後にテーマが駅だった事に気付いた時の絶望感!