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第六十七話 諜報員ってなんかカッコいいけど普段何やってんのか全然分からない。


 

 帰り道で、マグノリアたちは黄金の精霊ベルンシュタインからクウちゃんを通して、最低限の情報だけは聞き出していた。

 何故「最低限」かと言うと、ベルンシュタインがひどく感情的になっていて理路整然と説明してくれないというのと、クウちゃんの語彙ではぼやーっとした表現にしかならなかったからだ。

 だが、そのおかげで「最低限」は、何が起こったのか知ることが出来た。


 昨日の夜、魔女の家に複数人の男たちが突然押し入って来たのだという。その男たちというのはティザーレ王国の兵士で間違いないだろう。

 だが、相手は人類最強の魔導士“黄昏の魔女”である。その襲撃者たちは、あっけなく撃退されてしまった(家の破壊はほとんど魔女本人の手に依るものだった)。

 そこで魔女が襲撃に怯え国に保護を求めたり後見人である教皇に助けを求めてくれれば良かったのだが、生憎と魔女はそのような弱気な性格ではなかった。

 挨拶もなしに突然襲ってきた不躾な奴らを撃退するだけでは飽き足らず、さらなる報復を、とばかりに彼らの拠点に押しかけてしまったのだ。


 実力で言えば、魔女一人でも一個師団くらいは軽く蹴散らすことが出来る。彼女は無詠唱による術式発動を得意としていて、魔導士につきものの「詠唱中に攻撃を受ける」という心配がほとんどない。

 

 しかし、それは王国側の罠だった。

 ベルンシュタインの説明では分からなかったが(もしかしたらクウちゃんの通訳のせいかもしれない)、何らかの方法で王国兵たちは魔女を無力化させた。

 そして、これまたどうやってかは分からないが、彼女からベルンシュタインを剥離したのだ、という。

 

 主から引き剥がされたベルンシュタインは、当然のことながら彼女を救おうとしたのだが、そこで魔女はベルンシュタインにこの場を離れるように、と強く命令した。

 いくら精霊が主の身を守りたいと望んでも、自分の望みより主の命令の方が優先される。

 ベルンシュタインは、意識を失い連れ去られる主を案じつつ、命令に従ってその場を逃げ出した。


 だが、どうも兵士たちの目的はベルンシュタインの方だったようで、なんとか捕えようと追手がかかったので、腹いせ9割抵抗1割で、追手の内の幾人かを精神支配で操り同士討ちをさせた(マグノリアたちが目撃したのはここ)、ということだった。




 「……どう思う、アデル?」

 「私に聞かれても…………ただ、ティザーレが何か企んでるんだろうな、とは思うけど」


 起こった事はなんとなく分かったが、その背景にあるものが分からない。

 ただ、それが例えばマフィア的な暴力組織などの犯罪集団やテロリスト的な思想・政治集団の仕業であればまだしも、相手が国家となると途端に厄介さのレベルが跳ね上がる。


 

 「そういや、“黄昏の魔女”も神代魔法の遣い手だったんだな」

 「へ、何それ?」


 何の気なしに言ったマグノリアだったが、アデリーンは初耳のようだった。


 「え、いや、召喚術じゃなくって、精霊に……なんだっけ、簡易…自我?を与えて使役するっていう…」

 「そんなのは知ってるわよ。けど、お師匠がそれの遣い手だってのは初耳よ」


 どうやら、魔導オタクであるアデリーンは神代魔法の存在は知っているようだ。


 「ん?だって、あの精霊…ベルンシュタインも、それで使役してるんじゃないか?」

 「実はそのあたりは私も教えてもらってないんだけど、けど神代魔法とは違うと思う。だって、仮にお師匠が神代魔法でベルンシュタインを使役してるんだったら、「引き剥がされた」時点で契約は強制解除されるはずよ」

 「…………………?」


 魔導はさっぱりなマグノリア、アデリーンの言っていることがよく分からない。


 「私も神代魔法のことはよく知らないけど、魔導学理論的にはそういうものなの。それにお師匠、神代魔法のしの字も口にしたことないわよ。多分、存在自体知らないんじゃないかしら」

 「え?じゃあ、どうやって精霊神なんて使役してるんだよ?」

 「だから、そのあたりは教えてもらってないんだってば。けど、なんだったかしら……」


 アデリーン、少し記憶を探る。


 「ああ、そうそう。それどうしたんですか?って聞いたときに、「おにいちゃんにもらった」って言ってた」

 「………お兄ちゃん?魔女の兄?」

 「確かお兄さんがいたはずよ。ただ、「貰った」っていうのがどういうことなのか……」



 今回の件とは多分関係なさそうなところで話が盛り上がる二人を見て、セドリック公子は「死ね…死ねクソ…」と力なくぼやいていた(ハルト訳:今はそんなことどうでもいいだろ…)。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 王城に戻ったマグノリア一行から話を聞いた公王は、しばらくの間、頭を抱えていた。

 良くも悪くも、常識的な人物なのだろう。

 息子の呪いを何とかしたいという願望と、下手にティザーレ王国をつついて藪蛇になってしまう危惧と。それと、一応はサイーア公国民である“黄昏の魔女”の安否も気になっているかもしれない。


 流行り歌の一番くらいは歌い終えて二番に入るくらいの長い時間悩みに悩んでいた公王は、ようやく頭を上げた。が、やっぱり表情は優れないままだ。



 「……フォールズ殿、なんとか其方らの力で、“黄昏の魔女”の身柄を保護することは出来ないか?」


 予想はしていたが、やはり厳しい提案。


 「この時点で、軍を動かすことは出来ん。下手をするとティザーレとの間で戦争が起こってしまう。だが、息子のことだけでなく奴らが何かを企んでいるのだとしたら、放置するという選択は愚の骨頂。少なくとも、奴らの企みとやらが何であるのか、情報を得なくてはならない」

 「それには、軍人でもなく自由に動ける遊撃士の方が都合がいい……ですか」


 サイーア公国は、それほど軍備に力を入れている国ではない。だが、軍を動かすとなれば隣国のティザーレにもその動きは知られてしまう。

 ただでさえ国交のない相手、徒に刺激することは避けたいと思うのは当然のこと。


 「其方らには危険を押し付けてしまうようで心が痛む。が、ここはこの国を救うと思って、承諾してはもらえないだろうか?」

 「少し、時間を頂けますか?」


 マグノリアは、即答を避けた。

 要は、公王は彼女らにティザーレ王国に潜入して魔女を救い出し、王国の企みを暴いてこい、と言っているのだ。

 それがどれだけ危険なことかは、言われるまでもない。何せ、相手は自分たちの狙いのためにいきなり人の家を襲撃したり人を連れ去ったりする連中なのだから。


 そして何より、公王は何も言わなかったが、彼はマグノリアたちを便利な駒と考えている。

 仮にヘマをやらかして王国に捕らえられたとしても、軍人でも軍属でもない彼女らであれば、公国は無関係を主張出来る。マグノリアたちが何を言ったところで、「そのような奴らは知らない、罪を逃れるために適当にでっち上げているのだ」と言い張ってしまえるのだ。


 そして、これは考えすぎかもしれないが、彼女らとは別に諜報員を動かす、ということもあり得る。平和主義の公国であっても、国の体裁を整えている以上は諜報組織の一つや二つ、持っているだろう。

 それを本命として、使い捨ての出来るマグノリアたちを囮に使う…くらいのことは、一国の君主であれば考えても不思議ではない。



 「…時間、とは?」

 「自分には、この件とは別に教皇聖下からお引き受けした依頼がありまして。問題が問題ですし、聖下のご判断も伺わなくてはなりません」

 「きょ………教皇、聖下…の、か………………」


 非常に気まずそうな顔の公王。兄である教皇には頭が上がらないのか、或いは弱みを握られたくないのか。


 「その……兄上…教皇聖下には、このことを内密には……」

 「“黄昏の魔女”は、聖下の後見を受けてもいます。流石に、報告しないわけにはいきません」

 「そうか…………そう、だな。それは、仕方ない…な………」


 これから怒られることを覚悟している仔犬のような表情になった公王に憐憫を感じなくもないが、正直言っていい年したオッサンがそんな顔をしても可愛くない。



 

 「アデルさん、師匠ってば王様相手にすっごく堂々としてますね」

 「ま、そりゃ教皇ったらそこいらの国王じゃ頭があがらないもの」


 交渉はすっかりマグノリアに押し付けて、ハルトとアデリーンは後ろでコソコソと。

 自分の呪いどころではなくなってしまうかも…と心配そうな公子は、そんな温度差のある両者をただオロオロと見ているだけだった。




よく漫画とかであるじゃないですか、諜報活動のために表向きには死んだことになってるとか戸籍がないとか。

ああいうのって、引退した後はどうするんですかね?だって銀行口座の一つも作れませんよ?特に今は本人確認とか取引時確認とかめちゃくちゃ厳しいし。

なんか偽造の本人確認書類とか持ってるのかな…?

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― 新着の感想 ―
[一言]  まぁ一国の王ともなると、下手に出ながらも兵士でもない者に"国のために死んでくれ"みたいなことを平気で言えるのですねぇ。←ちょいとオーバーに書きましたけど、このまま依頼を受ければ死地に赴かな…
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