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第三十五話 ラスボス戦直前って、めっちゃドキドキする。




 夏至祭り前夜祭。

 マグノリアは、村の一か所しかない入口で待機していた。

 今頃、村の奥では夏至祭りが始まっていることだろう。風に乗って微かに祭囃子のような楽の音が漂ってくる。


 村の周囲は高い柵で囲われており、また地形的なこともあって、子爵が来るとすればこの入口しかない。ここで迎撃…もとい、待ち構えて問いただしてみようという腹だ。



 村長の望みどおりに子爵が「悪い人じゃない」のであればいいのだが、マグノリアは最悪のパターンを想定する。それは、子爵は「ものすっごく悪い人」で、大勢の手下と共に村に攻め入ってくる…という可能性。

 なので最初から戦闘態勢である。リエルタで各種アイテムも補充した。これ以上魔導石を消費するのは勘弁願いたいが、報酬に加えて実費も村に請求してやろう。

 村が無理なら、ハルトに請求してやる。



 「…って、ハルトは?」


 気付けばまたもやハルトがいない。

 アデリーンも、言われて初めて気付いたようで辺りを見回す。

 「あれ?準備のときはいたのに……」

 「ハルト様は村の様子を見に行かれた」

 「うわぁ!何よあんた!?」


 アデリーンの背後にいきなりぬっとレオニールが出現し、彼女を驚かせた。


 「あ、こいつはレオニール。まぁハルトの関係者でこっちの協力者…」

 「言っておくが、ハルト様のことがなければ貴様らに協力などしてはいない」


 マグノリアに紹介されるレオニールは、アデリーンに対してもつっけんどんな態度を変えない。


 「……何よこいつ、随分と偉そうね」

 「貴様らふぜいに協力してやろうというのだから、有難く思うがいい」

 「まーまーまーまー、仲良くやろうぜ、な?」


 マグノリアほど大人ではないアデリーンは、そんなレオニールに嫌悪感を隠そうともしない。レオニールはレオニールで、好感度を上げようなどとはまるで思っていない。


 戦力的には申し分ないのだが、連携といった面では少々…否、かなり心許ない面子である。



 「とにかく、アタシらの仕事は子爵を止めること。こんなことを仕出かした動機を聞き出すこと。場合によっては、これを排除すること。ただし殺すのは無しだ、いいな?」


 殺すな、なんてわざわざ言うまでもないことのはずだが、わざわざ念を押しておかないと不安なマグノリア。貴族を殺害してしまうと、後々とんでもなく面倒な事態になることは避けられない。



 「…それは相手の出方次第だ」

 「子爵が大人しくしててくれれば、だけどね」


 同時に似たような意味のことを言ったレオニールとアデリーンは、あれこいつ結構話が分かるじゃん、と相手の心証を上方修正したのだが、マグノリアはそんな二人の心証に「取り扱い注意(劇物)」のステッカーを貼り足した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「…へー、ここが、お祭りの中心かぁ……」

 「んにゃ」

 「駄目だよネコ、静かにね」


 こそこそと茂みから顔を出したハルトと、その肩の上のネコ。

 彼らがいるのは、村の奥の普段は人が立ち入らない場所である。


 この先に祭壇が用意してあって、そしてハルトのお目当てである泉もある…はず。


 そう、ハルトは駄目だと言われたのにこっそり忍び込んでしまったのだ。それもこれも、全ては


 「これで、きっとメルセデスと……ふふ、ふふふふ」


 メルセデスとよろしくやりたい、という自分の望みを叶えてもらうため。


 魔王の嫡子であり世界唯一の神属であるハルトが伝承にある土地神に願い事をするなど、魔界の臣下たちが知れば大騒ぎになることだろう。魔王絶対主義な宰相あたりは、村ごと土地神(いるとしたら)を滅ぼしてしまいかねない。


 しかしハルトは自分の望みすらまともに叶えられないヘタレ魔王子なので、せっかく願い事を叶えてくれる神さまがいるんだったらお世話になっちゃえ、と能天気な他力本願に突き動かされている。


 「ここまで来ると、全然人がいないんだね。祈りとか舞いとか言ってたけど……」


 騒がしいのは村の中心地で、そこでは櫓が組まれ篝火が焚かれ、人々が音楽に合わせて踊ったり飲み食いしたり、とても賑やかだった。

 しかし、祭りの真打というべき祭壇近くは静まり返っていて、厳かな空気が漂っている。


 「誰もいないなら、好都合だ。このまま泉に行って……」


 しめしめ、とほくそ笑んだハルトだったが、甲高くか細い声が耳に届き、動きを止めた。

 それは、祭りの喧騒と言うよりは寧ろ…


 「……今の、悲鳴……じゃ、ないのかな…?」


 恐怖に直面したときの、助けを求める声に聞こえた。声の方向も、村の方ではない。


 ここで、地上界に来たばかりのハルトだったら、迷わずマグノリアを呼びに行っただろう。しかし彼は魔獣退治を経験し、村人たちの依頼もこなし、それらは客観的に見ればとてもお粗末なものではあったのだが、それでも世間知らず箱入り息子のハルトに中途半端な自信を与えるには十分すぎる冒険だった。


 「何かあったのかな?……助けないと!」


 未だ遊撃士の何たるかを知らないハルトは、向こう見ずで軽はずみな正義感に囚われて走り出した。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 子爵は、思ったよりも早く村を訪れた。

 そしてマグノリアの予想どおり、かなりの数の兵を引き連れている。おそらく、タレイラに行ったついでに調達したのだろう。

 その兵たちは、装備からすると傭兵。人数はざっと、五十人ほど。



 「おいおい、随分と大所帯じゃねーか。……困りますねぇ、団体様は予約をしてもらわないと」


 警戒を緩めず軽口を子爵に向けるマグノリアに、子爵は屋敷で会ったときの変わらない気障で爽やかな物腰だった。


 「いやぁ、すまないね、急なことで。ここを通してもらえないかな?」


 しかし軽口の応酬には応じないつもりのようだ。

 傭兵たちはまだ戦闘態勢に入っていないが、マグノリアたちの出方によってはすぐにでも剣を抜く準備は整っている。


 マグノリアはすでに剣を抜いている。アデリーンも術式をいくつか待機中だ。レオニールはただ突っ立っているように見えるが、それは見せかけだというのは表情を見れば分かる。

 しかし、マグノリアは全面抗争は避けたいし子爵もそうであると思いたかった。



 「なぁ、子爵。なんだって村の娘たちを攫った?あんたの行為の裏にある事情を知りたい」


 だから、出来るだけ穏やかな口調で問いかけた。傭兵たちは子爵の命令に従うだけだろうから、彼が敵意を持たなければ戦闘にはならない。

 そして実際、子爵にマグノリアたちに対する敵意のようなものは見えない。


 しかし子爵は、首を振った。


 「……君たちは、もう帰った方がいい。これはここに住む民の問題だ」


 爽やかな笑みが、すっと温度を下げた。子爵の、初めて見る表情。

 ただ気障なだけの若者はここにはいない。それは、領地を治める主の姿だ。


 「へぇ、そんな顔も出来るんじゃないか。そっちの方が男前だぜ?」

 「お褒めに預かりどうも。それに免じて、ここは何も見なかったということで立ち去ってもらえないかな?」


 両者とも、口調は軽いが視線は厳しい。


 「立ち去ってもいいさ、あんたの動機と狙いに危険がないって分かったら…な」

 「…………………」

 「どうあっても話すつもりはないってか」


 マグノリアの声に剣呑な空気を感じ取り、子爵の後ろの傭兵たちが緊張を高めた。今にも斬りかかりそうな彼らを、子爵は手で制する。


 「……マグノリア嬢、君はなぜそこまでしてこの村に入れ込む?君は遊撃士のはずだ。そして僕の聞くところによると、マグノリア=フォールズという遊撃士はとても合理的な考えを持ち無駄無意味を嫌うとのことだが」

 「…………よく分かってんじゃねーか…」


 本来の自分のポリシーを言い当てられ、そして現在の自分の状況がそれとはそぐわないことの実感もあり、マグノリアは顔を顰める。

 子爵は続いて、アデリーンに視線を移す。


 「そしてアデリーン嬢。君のことも少し調べさせてもらったよ。“隠遁の魔導士”…優れた実力を持ちながら名声や評判にはまるで関心を持たず、ほとんど表舞台に上がることもない…魔導の真理を追究することだけに熱意を傾けるという人物評は、間違いなのかな?」

 「……間違いじゃないけど、完全でもないわね。日がな一日グータラするってのも付け加えといてちょうだい」


 憮然として返すアデリーン。彼女にとって、真理の追求とグータラは等しく尊い人生の目的である。


 「君たち二人がこの問題に介入する合理的理由とは、何だろうか?」

 「だからそれは、あんたの目的にもよるわけだよ。何故隠す?言えない理由でもあるのか?」


 マグノリアとて、どうして自分はこんなことをしているのだろう、という思いが拭い切れないのだ。勇者だとか警察だとか正義の味方ならば躊躇う必要もなく「村の人々を救うため!」と断言出来るのだろうが、損得勘定で動く遊撃士である彼女にその道理は当てはまらない…本来は。

 しかし、乗りかかった船というか、今さら知らぬフリは出来ないというか、いくら彼女でも罪のない村人たちに危険が迫っていると分かっていれば、見殺しには出来ない。



 「……もういいだろう、時間の無駄だ」


 しびれを切らしたレオニールが一歩前へ進み出た。勿論、彼に村人を救うだとか子爵の悪事を暴くだとか、そんな目的はない。さっさとこの件を片付けて、ハルトの安全が保障されればそれでいいのだ。

 したがって、子爵が悪者だろうがそうでなかろうが、理由があろうがなかろうが、それがどのようなものであろうが、関係ない。

 

 「貴様が兵を退かぬと言うのであれば、ここで排除するだけだ」


 いつの間にか剣を抜き放っていたレオニールの眼光に、傭兵たちが慄いた。子爵の表情からも、余裕が消える。


 「……レオニール殿…だったよね。君のことは、調べても分からなかった………リエルタ市警に拘留されていた、ということ以外は」

 「う…五月蝿い、あれは手違いだ…!」


 レオニール、赤面するあたり不審者扱い(と取り調べ)は恥ずかしかったらしい。


 「と、とにかく!今この場で決めるがいい。大人しく引き下がるか、ここで死ぬか。貴様がどちらを選択するかについては強要はしない」


 退くか死ぬか選べってそれ選択肢になってないじゃん、と思わなくもないマグノリアだが、それよりも彼女はどちらかと言うと子爵の言い分を聞きたいのである。


 「ちょい待ち!子爵、なんで理由を話したくないのか、その理由だけでも教えてくれないか?アタシには、どうにもあんたがロクでもない領主には見えない」


 マグノリアに問われた子爵は、逡巡を見せた。

 彼の遣り方や態度は、決して強硬的なものではない。今のところ、彼によって傷ついた者は誰一人としていない(拉致監禁をどう位置付けるかにもよるが)。

 石人形ゴーレムに関しては過剰防衛と言えなくもないが、そもそも不法侵入したのはマグノリアたちの方である。

 今も、問答無用でマグノリアたちを排除しようという意図は見えなかった。


 穏便に済ませたがっているのは、村人たちだけではない。


 そう感じ、ならば双方を和解に持っていくことも出来るのではないか、とマグノリアは思った。


 しばらく考えて、子爵は諦めたように首を振った。彼の中で、妥協点を設定したようだ。

 「……詳しくは言えない。だが、ここで君たちが大人しく立ち去ってくれることが、君たちにも村人にも、そして僕にも最善の結果をもたらすからだよ」

 「どういうことだ?」

 「僕の目的は、村人たちを傷つけることではない……とだけ言っておこう」


 マグノリアは、そう言う子爵を睨み付けた。彼は、マグノリアの眼光にも怯まない。そこには何か確固たる信念があると、彼女は感じた。


 「……それを信じられればいいんだけど、残念ながらそれほどあんたを信頼できる要素がない」


 事実、娘たちは子爵に拉致されていた。ハルトとアデリーンも然り(勝手に押しかけたのだが)。ともすれば死者が出ることも厭わないような戦力ゴーレムまで用意して、それで「誰も傷つけるつもりはありませんでした」と言われても、はいそうですかと簡単に信じることなど出来なかった。


 睨みあうマグノリアと子爵。



 「ええい、まどろっこしい!!」


 レオニールが、とうとう爆発した。

 

 「いつまでこうしているつもりだ!いい加減付き合いきれん!!」


 そして、少し意外だったのだが、子爵もレオニールに同意した。


 「それはこちらも同じだよ。悪いけど、もうあまり猶予はない。多少強引にでも、押し通らせてもらおう」


 子爵の言葉を合図に、傭兵たちが全員剣を抜いた。

 どうやら、戦闘は避けられないようだ。


 「……仕方ない。事情は、とっちめてから聞かせてもらうとするか。…アデル」

 「めんどくさいわねぇ……さっさと観念してくれれば手っ取り早いのに」


 やむを得ず、マグノリアとアデリーンも構える。出来れば穏便に済ませたいと思うのは子爵も村人もマグノリアたちも同じはずなのに、どうしてこうなってしまうのだろう。



 「この人数を相手に、勝てるつもりなのかな?いくら君たちが凄腕の遊撃士と言えど、彼らとて歴戦の猛者揃いなのだよ」


 子爵の余裕は、圧倒的な兵力差から来ている。

 傭兵は遊撃士とは違い、戦争屋である。遊撃士もその真似事をすることはあるが、こと対人戦に関して言えば、傭兵の方が専門性が高い。

 人間を相手にするのは、魔獣相手とは訳が違う。マグノリアもアデリーンも経験がないわけではないが、場慣れしているとは言い難かった。


 しかし、ここにそんな兵力差など無きに等しい者が一人。


 「…ふん、雑魚がいくら群れたところで無駄なこと。一瞬で終わらせてやろう」


 普段の生真面目で騎士然とした表情から一変、獰猛な笑みを見せたレオニールが魔力を練り上げ、アデリーンがぎょっとした顔をして彼を振り返った。


 「レオ、言っとくけど殺すなよ!」


 アデリーンの表情に惨状を予感し、マグノリアはレオニールに叫ぶ。毎度のことながら、いちいち口に出して指示しなければならないのに辟易するが、ここが大量殺戮の現場になってしまうよりはマシだ。

 

 「……何?この期に及んで、何を腑抜けたことを……」

 「んなことしたら、ハルトにすっっっげー迷惑かかるからな!!」

 「む………ならば致し方あるまい」


 めちゃくちゃ残念そうなレオニールが不安。だが彼がハルトの害になることをするはずもないので、とりあえずはこう言っておけば大惨事は免れるだろう。



 「んじゃ、ま、ちょいと地味だがラスボス戦、いってみよーか!」

 「…そういうこと言うとなんかフラグが…」

 「フラグとか言うな!いいんだよ、後のことは後で考えれば」


 迂闊な発言をアデリーンに窘められたマグノリアは一瞬「マズった!」という顔をするが、すぐに気を取り直す。

 どのみち、子爵が「黒幕」だということに違いはないのだ。彼を押さえれば、後は何とでもなる。



 かくして、マグノリアが言うところの「ラスボス戦」の幕が切って落とされた。


 当然、それは「ラスボス戦」でも何でもなかったのだが、この時点でその事実に気付いている者は誰一人…子爵含めて…いなかった。





最近のゲームはよく分かりませんが、昔のゲームってセーブポイントが限られてたりけっこうえげつない仕様でしたよね。

ラスボス戦前のダンジョンが鬼畜な造りでしかもボス戦連続しまくり…のドラ〇エⅡとか。

リメイク版だと少しはマシになってるんでしょうか?

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