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第三十三話 不安だと思わず過剰防衛しちゃうよね。




 「ハルト、彼女らを守れ!」

 「へ?え、あ、はい!」


 思わずハルトに指示してしまったマグノリアと思わず返事をしてしまったハルトだが、二人同時に「え、それ大丈夫…?」と自問した。

 自問したが、今さら訂正するわけにもいかず。


 ハルトはとりあえず攫われていた少女たちのところへ行って、形だけでも庇うように立った。実際、石人形ゴーレムがこっちに来たらどうしよう…とビクビクである。


 

 「【風魔弾エアバレット】!」

 一足早く詠唱を終えたアデリーンの風魔法が発動した。圧縮された空気の塊が弾丸のように石人形ゴーレムに放たれる。

 不可視の弾丸の連射に、石人形ゴーレムは歩みを止めた。魔力コーティングのせいかダメージは見られないが、動きが鈍ったところにマグノリアが駆ける。


 「……胴体中央、鳩尾部分!」

 マグノリアが石人形ゴーレムに肉薄する寸前に、アデリーンが叫んだ。その言葉に従って、マグノリアが狙うは石人形ゴーレムの体の中心。


 だが、石人形ゴーレムも大人しくやられるつもりはないようで、マグノリアの攻撃を両腕でガードした。硬質な石材が、彼女の剣を弾く。


 舌打ちして一旦後ろへ下がるマグノリア。石人形ゴーレムのようにやたらめったら固い相手の場合、斬線を見極めなければ斬ることは不可能だ。剣が当たりさえすればダメージを与えられるわけではないので、慎重に戦わなくてはならない。


 物理防御力に加えて、魔力コーティング。それだけでも厄介な相手なのだが、石人形ゴーレムの場合はそれだけではなかった。

 

 生物である魔獣とは違い、石人形ゴーレム魔石像ガーゴイルといった人工物には、所謂急所だとか弱点だとかが存在しない。

 魔獣であれば、頭や心臓を破壊すれば倒せるし、そうでなくても攻撃を加えてダメージを蓄積させていけばいずれ動かなくなる。一撃で倒すことが出来ない相手でも、出血過多で動きを鈍らせてトドメを刺すのは、魔獣退治の基本的な戦い方だ。


 しかし、石人形ゴーレムは脳も心臓も持っていない。頭を切り飛ばしても、心臓のある位置を突いても、平気で動き続ける。血液も流れていないので、どこを切っても出血することはなく、また魔力の糸で岩石を繋ぎ合わせているので体の一部を切り飛ばしてもすぐにくっついてしまう。


 そんな石人形ゴーレムの唯一の退治方法が、体を構成する石材を繋ぎ止めている魔力を遮断すること。それには、体内の何処かにある魔力核を破壊する必要がある。


 核を破壊すればただの石コロに戻る。しかし、そうしない限りはどれだけ傷つけても元に戻ってしまうし動きを鈍らせることも出来ない。

 そのため、石人形ゴーレム退治に必要とされるのは、核の位置を見破る眼力とそれを一撃で破壊する攻撃力、である。


 

 幸い、魔力探知のスキルを持っているアデリーンならば核の場所が分かるし、マグノリアであればなんとか攻撃を通すことが出来る。

 が、予想どおり敏捷な敵の動きが、なかなかそれを許してくれそうになかった。



 「もういっちょ、【風魔エアバレ…って、速っ!?」


 石人形ゴーレムがマグノリアへ向けて動き始めたのを見て、再び動きを鈍らせようとしたアデリーンだったが、次の瞬間、石人形ゴーレムは見事な瞬発力で大地を蹴り跳躍した。

 まるで卓越した拳闘士のような動きに、戦闘中に関わらずマグノリアもアデリーンも思わず目を奪われてしまう。

 

 その動きは、一般的な石人形ゴーレムとは似ても似つかない。性質上、石人形ゴーレムは普通、鈍重なものである。

 だが目の前の新型(と形容してもいいだろう)は、明らかにそれまでの石人形ゴーレムの印象を覆す性能スペックを持っていた。

 


 「おいおい噓だろあれほんとに石人形ゴーレムか?中に人とか入ってんじゃねーのか?」


 マグノリアは言うが、断じて中の人などいない。


 アデリーンの魔導を躱した石人形ゴーレムは、再びマグノリアに向けて走る。

 石人形ゴーレムが「走る」という現象も、初めて見る二人である。


 「ちょ、跳んだり走ったり、何なのこいつ!?」

 

 慌てているんだか呆れているんだか分からないがアデリーンが叫んだ。叫びつつ、待機させてあった次の術式を発動させた。



 【地守壁エアデシルト】。地属性の防御魔法によってマグノリアの前の大地が隆起し、堅牢な壁を形成する。ただの土壁ではなく、魔力による強化が付与されているため、その防御力は非常に高い。下位魔獣レベルであれば、まるで歯が立たない盾となるのだが…


 石人形ゴーレムは、拳を振りかぶった。その動作は、まるで人間のようだ。

 そしてそのまま、土の壁を殴りつける。


 なんとなくの流れで想像していたことではあるが、易々と…というほどではないにせよ、石人形ゴーレムの拳はアデリーンの土壁にめり込み、引き抜く動作で壁は崩壊した。


 だが、崩れ落ちる土砂は目眩まし。土埃に紛れて、マグノリアは石人形ゴーレムの中心部を狙う。タイミング的には、石人形ゴーレムにマグノリアの攻撃は視えていない…はずだった。


 しかし石人形ゴーレムの動きに迷いは見られなかった(意思の無い人形は迷いを見せるのか?)。マグノリアは死角から迫ったのだが、まるで最初から全て見えていたかのように、石人形ゴーレムはそれを正面に捉えた。


 「…………!」


 自分の動きが完全に補足されていること、石人形ゴーレムが自分を迎撃する準備を既に終えていることを瞬時に判断し、マグノリアは攻撃を即座に防御に切り替えた。

 

 その判断がなければ、危険だったに違いない。

 石人形ゴーレムの、堅牢な石壁さえ砕く拳がマグノリアを弾き飛ばす。


 「マギー!」

 「師匠!?」


 アデリーンとハルトが同時に叫んだ。ハルトの目には、石人形ゴーレムの攻撃がまともに入ったように見えた。

 だが、飛ばされながらも受け身を取ってすぐに起き上がったマグノリアの姿に、安堵の息を漏らす。



 「っつーーー、くっそなんて重さだよ。ったく腕が痺れてやがる……」


 言い捨てるマグノリアだが、どうやらボヤく余裕はありそうだ。

 とは言え…


 「こいつ、生体反応でも察知してやがるのかねぇ」

 「今の動きからすると、魔力反応ってよりもそう考える方が自然ね」


 魔力だけを察知するのであれば、魔力で作られた土壁もマグノリアも区別はつかない…厳密に言えばそうでもないのだがあの一瞬で区別をつけることは難しい。

 だが生体反応を察知する機能がついているのであれば、術式を隠れ蓑にしても無駄なこと。


 「……でもそんな機構、どうやって………ねぇマギー、そいつ分解してみたいんだけど…」

 「え…アデルさんこんなときにまた()()ですか…」


 分からないものは何でもかんでも分解(解剖)したがるアデリーンにドン引きのハルト。マグノリアは別の意味で異議を唱える。


 「バカヤロー、んな余裕あるかよ。こんな素早いんじゃ、倒すだけで精いっぱいだっての」

 「…………チッ」

 「おい今役立たずっつったか聞こえたぞ?」

 「言ってないわよ舌打ちしただけよ」


 実際のところ、舌打ちの後にアデリーンは間違いなく「この役立たずが」と極小の声で呟いてたりしたのだが、そしてハルトはそれを聞いてしまったのだが、なんとなく自分が口を挟むことではないような気がして黙っていた。

 口を出すと後が怖いと思ったわけでは、断じてない。



 「……にしても、これ脅威レベルで言ったら6くらいあるんじゃない?」

 「同感だ。子爵さまがどうして防犯用にこんな凶悪なモン用意してたのか、是非聞いてみたいものだな」


 只の侵入者撃退用であれば、ここまでオーバーキルな性能である必要はない。子爵は、余程攫ってきた娘たちを逃がしたくはなかったのだろう。



 「ま、それにはまずこれをどうにかしないとね………ハルト!!」

 「へ?え?な、なんですか?」


 いきなりアデリーンに呼ばれたハルトは、ワタワタと慌てる。完全に傍観に徹するつもりでいたのだが…


 「アンタもボーっと見てないで、手伝いなさい!」

 「えええ!?」


 ご指名を受けてしまった。が、いくらなんでも自分には荷が重いと思うハルトである。まだ自分は一角兎しか倒したことがないのだ、ここはマグノリアとアデリーンに任せるのが最善だ。


 そんな他力本願なハルトの心中は完全無視のアデリーン。そもそも彼女は、ハルトにそれが出来ないとは全く思っていない。


 「えええじゃない!第一、この依頼を受けたのはアンタでしょ?他人ひとに頼ってばっかじゃなくって、少しは根性見せなさい!!」


 【風魔弾エアバレット】を連発して石人形ゴーレムの動きを封じながら、アデリーンは要求する。

 彼女が先ほどから同じ術式ばかり使っているのには、足止めには最適だという他に理由があった。


 「さっきから私が使ってる【風魔弾エアバレット】、アンタも真似してやってみなさい!」

 「………えー……」

 「さっきの【雷霜エクルージェ】と要領は同じだから!出来ないはずないでしょ!?」


 魔導適性には、二種類の意味がある。

 一つは、魔導そのものを扱う才能があるかどうか。

 そしてもう一つは、どの属性系統に適性を持っているか。


 仮にハルトが雷撃系にしか適性を持っていない場合、彼に風系統である【風魔弾エアバレット】は使えない。

 しかし雷撃系統と風系統は同じ「大気」に連なるものである。従って類似性も高く、その双方に適性を示す魔導士は多い。

 …という理由もあるが単純に、あれだけ凄い魔導を使えるなら全属性OKの方がカッコいいじゃん…という理屈無視の願望がアデリーンに働いているだけである。


 「おい、待てアデル!ハルトこいつにそれは…」

 「いい?ただの剣術だったらメルセデスには用無しなのよ、あいつ自身が凄腕剣士だから!だけど、強力な術式を使えればきっとあいつの役に立てるわ!」


 先ほどの雷を思い出してアデリーンに抗議するマグノリアだが、石人形ゴーレムの攻撃を捌きながらなので言葉が続かない。


 「ほんとですかアデルさん!?」

 「ほんとほんと!強い剣士ってのは、強い魔導士を求めるものなのよ、マギーと私みたいに!」

 「分かりました、やってみます!」

 「おいバカやめろ、後先考えて……ああもう邪魔くさい!!」


 マグノリアは勝手なことを言ってハルトをけしかけるアデリーンと調子に乗るハルトをなんとか止めたいのだが、やっぱり石人形ゴーレムに邪魔されて上手くいかない。



 彼女には、なんとなく想像出来ていた。

 アデリーンは、さきほどの雷が【雷霜エクルージェ】だと言っていた。それが雷撃系の低位術式だということはマグノリアも知っている。


 低位術式で、あれだったのだ。

 比較的破壊力に劣る風系統とは言え、【風魔弾エアバレット】は中位術式。



 …猛烈に、嫌な予感がする。


 だが、残念なことに【風魔弾エアバレット】の詠唱はそれほど長くない。ハルトの口から洩れるイントネーションからそれがほとんど完了していることを察し、マグノリアは潔くその場を離れた。


 絶対、絶対に、巻き込まれたくなかったから。


 そして、その判断は正解だった。


 キリリと石人形ゴーレムを睨み付け、新米魔導士特有のぎこちなさで、ハルトは魔力マナを糧に大気の理に働きかけた。


 「…【風魔弾エアバレット】!!」



 圧縮空気弾が、石人形ゴーレムを打ち据えた。

 それはさながら、砂に石礫を投げつけたかのよう。

 魔力コーティングなど無いに等しく、石人形ゴーレムは瞬く間に穴だらけになった。


 …字面は非常に、地味である。

 風系統は不可視の力であるため、エフェクト的にはとても地味なのだ。


 しかし、音速を越える空気弾は激しい衝撃波を生み出し、穴だらけになった石人形ゴーレムをバラバラに砕き直撃を免れたはずのマグノリアも吹き飛ばしさらに子爵邸の外壁まで道連れにした。



 やがて暴虐の嵐は過ぎ去り、夜の子爵邸には静けさが戻った。



 「…………やった…のかな…?」


 アデリーンが模倣させた術式には、術者を衝撃から守るための障壁も組み込まれていた。なのでハルト自身は無傷であるはずなのだが、あまりの衝撃の強さにビックリして思わず目を閉じていた。魔導士的には非常に恥ずかしい行為である。


 恐る恐る目を開けたハルトが見たのは、瓦礫の山。とにかく、瓦礫の山。

 多分石人形ゴーレムだったのだと思しき石材のバラバラになった瓦礫と、ほぼ全壊状態の子爵邸の離れ、庭園に飾られていた色々なエクステリアの残骸、そして…



 「わあぁああー、師匠!!」


 吹き飛ばされた先で倒れている、マグノリア。


 「そんな、師匠!しっかりしてください、誰がこんな……」


 慌てて駆け寄り抱き起すハルトの表情には、大切な師匠を傷つけられた憤りがありありと浮かんでいたが、犯人はどう考えてもハルト自身である。



 「アデルさん!大変です師匠が………アデルさん!?」


 振り返ってアデリーンに助けを求めたハルトの目が次に捉えたのは、同じように地面に倒れ伏すアデリーンと、拉致された娘たち。


 「えええええ?そんな、どうして?どうしてこんな……」

 「んにゃなーお」


 自分が目を閉じている間に一体何があったのかとプチパニックに陥るハルトに、ネコが控えめにツッコんだ。

 

 「え、ネコ?これどういうこと?なんでみんな倒れてるの?」

 「……う…」

 「師匠?大丈夫ですか師匠!?一体何があったんですか?誰がこんな酷いこと…」


 僅かに瞼を開けたマグノリアが震える手で指差したのは、


 「…………ボク?」


 当然、真犯人であるところのハルト。


 「や…やだなぁ師匠。ボクがこんなことするはず………はっ、師匠、もしかして頭を打って……」

 「なーなーなー、みゃお」


 見ちゃいられない、とネコはハルトをつつくと、マグノリアに顔を寄せた。

 一瞬、マグノリアの全身が微かに光った…ような気がした。



 「…え?ネコ……」

 「うぅ……てめーハルト、だから待てって言っただろうが……」

 「師匠?無事だったんですね師匠!良かったで」

 「良くないわ阿呆が!!」


 ごちん。

 マグノリアはハルトに拳骨を落とした。


 それから体を起こすと、注意深く自分の状態を確かめる。


 「一体どういうことだ……痛みも消えたし、骨も筋も……問題ない…な」

 手足を曲げ伸ばししたり回したりして、先ほどまで全身を襲っていた激痛が嘘のように収まっていることに、マグノリアは首を傾げた。


 

 自分を吹き飛ばしたのがハルトの魔導であること、理屈は分からないがハルトが使うと低位や中位術式でも軽く上位術式並み…或いはそれ以上…の威力になってしまうことは、実感として理解した。この常識知らず(色々な意味で)の少年に、自分の知る常識を当て嵌めるのは無駄なことだと諦めることにした。


 だが、控えめに言ってもかなりの重傷であったはずの自分が、あっさり回復しているのはどういうことだ?


 「おい、ハルト。お前、アデルの術式をまんま真似しただけなんだよな?」

 「え、あ、はい、そうですけど」


 アデリーンの術式に、回復の効果は付与されていない(攻撃術式にそんなもの付与する奴はいない)。威力が爆発的に向上してしまうにしても、付与されていない効果まで発揮されるはずもない。


 「じゃあ、これはどういうことだよ?」 

 「何がですか?」


 これもまたハルトの力かと問い詰めようとするマグノリアと、彼女が何を言っているのかイマイチ分かっていないハルトを尻目に、ネコはアデリーンと娘たちの方に歩いていった。



 「にゃにゃ、なーお」

 「なんだよネコ………っておいどうなってんだ?」


 ネコの鳴き声に、それどころじゃない…と言おうとしたマグノリアは、アデリーンたちも起き上がってポカンと呆けているのを見た。

 自分ほどではないにせよ、かなりのダメージを負ったはずなのに、キョロキョロと辺りを見回す姿には全く異常が見られない。



 「……本当に……何が起こったってんだ……?」


 今までの自分の経験則からは予想出来ない事態の連続に、マグノリアは茫然と呟くしかなかった。




 


石人形ゴーレムのイメージは、パトレ〇バー的な。敵役だから、グ〇フォンですかね?中の人はいませんが。子爵の美意識がふんだんに反映されております。

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