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ホブゴブリンの頭

 吾は武と名誉を重んじるドラゴンボーンの戦士、へカチン。

 高貴にして神秘なるエラドリンのレンジャーと神の御業を顕す敬虔なるエルフの僧侶グエドベ、怜悧なるヒューマンのウィザードであるペンテル、神の護り手ヒューマンの聖騎士スプマンテらと共に旅をしている。

 あてどない旅である。


  ◆


 さて、枯枝城に巣食う邪悪なる死者スカルロードをようやくせん滅した吾等。

 満身創痍ながら、これから訪れるお楽しみタイムに心震わせる。スカルロードが貯め込んでいたであろう財宝を探すのだ。声を大にして言いたいが、これは略奪ではない。邪悪の手から正しき所へ宝物を戻すというだけのことだ。相応しき物を相応しき者へ。秩序の階梯に適う行いであろうし、その助力となるは吾等善なる者の喜びである。

 そんな吾等の善なる喜びに水を差す者どもがいた。枯枝城に駐留しているホブゴブリン達だ。無粋極まりない。無粋なる連中は吾等の元へ詰めより、口々に意味のわからぬことをのたまった。

「貴様ら! スカルロードに何をした!」

「俺らを騙しやがったな!?」

 彼奴等ホブゴブリンどもは血風党に属する傭兵部隊である。スカルロードや枯枝城を警護する任についていたのだろう。

 激昂するホブゴブリン達に向けて、高貴なるエラドリンは落ち着くよう呼び掛ける。

「よう、ウジ虫クソ野郎」

 と、ホブゴブリン風の親密な挨拶を交わし、

「この城にホブゥというホブゴブリンがいるはずだ。出せ」

 どういうわけか、ホブゴブリン達は高貴なるエラドリンの説得にはらはらと落涙し、全員熱狂的なアヴァンドラの信徒となる、といった様子が全く見られない。大変含むところある眼差しだ。今にも唾を吐きそうな口調で、

「なんで、うちの頭の名前を知ってやがる?」

「吾等は貴様等の頭とは以前、共にこの城を攻め落とした仲だ。いいから呼んで来い」

 高貴なるエラドリンの言葉にホブゴブリン達は顔を見合わせたが、それでも1人が駆け出していく。ほどなくして、見知ったホブゴブリンが吾等の前に姿を現した。吾等を見るや、

「カマ野郎どもか。よくよくこのクサイ城が好きらしいな」

 以前、吾等が枯枝城へ乗り込みし時、死者ども相手に肩を並べて戦ったことのあるホブゴブリン。その名をホブゥという。

 実際のところ、この城にホブゥがいるかどうか確定していたわけではなかったが、その名を出して正解であった。

「まあ、カマ野郎にはお似合いの城だ」

 ホブゥはそうのたまう。

「お前がこの部隊の隊長なのか?」

「そうだ。元の隊長が死んで、俺が今預かっている」

 そして、地下室内の惨状を見るや、

「どうしてこんなことをした? 生き意地の汚いガイコツ野郎に恨みでもあったのか?」

「いきなり襲われたのだ」

 高貴なるエラドリンは至極平然と言う。

「我等を素材にすると言って、突然襲いかかってきた」

 ホブゥはそう聞いて難しい顔になり、

「……まさか、お前らこの城が欲しいのか? けったくその悪いこの城を? だからスカルロードを……」

「我等が望むのは城ではない。世界だ」

 言っちゃった。

「というのは嘘だ。実はここに来たら、もうこんなことになっていた」

 軌道修正し始めるエラドリンである。

「というわけで、犯人を捕まえてきてやろう」

 そう切り出す。

「スカルロードをやった奴に心当たりがある、と?」

「必ずマガンテの元へ犯人を連れていってやる」

 高貴なるエラドリンは請け負うのだ。そして早速、

「俺おれ! 実は俺がやったんすよ!」

 敬虔なるグエドベの声を真似、グエドベを差し出すではないか。この時、グエドベはどういうわけか喉を痛めていたらしく一言も言葉を発せない状態にあった。そして、エラドリンの声真似はあまり似てないのであった。

「こいつ、偽物だろう!」

 ホブゥでさえ見破る。

「では本当のことを言おう。魔法使いだ」

 ペンテルを差し出すではないか。この時、ペンテルもどういうわけか口がきけない状態だったので弁明は無い。

「つまり、お前達がスカルロードをやったんだろ?」

 ホブゥのもっともな指摘に対し、高貴なるエラドリン、近くに居るホブゴブリンの1人を指差して、

「貴様、自首しろ」

 なすりつけようとする。

「そうか。せっかくあのガイコツ野郎が居なくなったんだ。お陰で俺達は死体集めなんていう胸くその悪い仕事をしなくても済むようになった。奴をやってくれた連中には感謝しなきゃならん。だから、そいつらに奴の持ってたお宝をくれてやってもいいと思ったんだが、お前達じゃないなら仕方ないな」

「いただこう」

 高貴なるエラドリンは正当な権利を主張した。

 そうして吾等が手に入れしは光輝の光放つサンブレード、敵に金切り声を浴びせかける絶叫の鎧、しみ込んだ古兵の血と汗が着用者に勇気を与えるというプレートメール、さらに金貨が600枚ほどであった。

 と、ホブゴブリン達が騒ぎ出す。

「やっぱまずいですぜ、頭。このままスカルロードをやった奴等を逃がしたら、頭の立場が悪くなる。どんなお咎めがあるか……」

「頭の身があぶねえ。ここはやっぱりこいつらを捕まえて……」

「なあに、今のこいつらなら戦いの後で疲れてるようだし、大したこたぁねえ。大体、エラドリンやらエルフやらは俺達を騙してはニヤニヤしてるようなカマ野郎どもじゃねえですか」

 大層雲行きが怪しいのである。が、

「いいから放っとけ。俺はこのカマ野郎達に借りがある。だから、そいつをここで返しておきたいのさ。そうすりゃ、今度会った時は何のしがらみもなく殺しあえるだろうよ」

 ホブゥは部下達をそう制するのだった。

 そのような事情を聴いて、吾等はホブゥが責任を問われぬよう配慮を示すこととした。

「よし。この部屋の中に入れ。そして、扉を閉め、外側から鍵をかけてやろう。そのまま六か月ほど待て。その間、お前は責任を問われることはない、責任を問う者と会うことすらできないのだから」

 見事な責任回避術であると思われたが、難点は死ぬことであろう。

 ともあれ、吾等はホブゥ達との争いを避け、ここ枯枝城にて大休憩を取ることとあいなった。

 そして目が醒めれば、吾等は新たな力を得ていることに気付くのだ。昨日までの自分とは別の強さを身につけている。新たな力を手に入れただけでなく、これまで得ていた力を別の力に差し替えることもできるようだ。

「世界の王となるために、プレートメールに習熟しなければ」

 レンジャーである高貴なるエラドリンの野望は果てしない物があるようであった。

「さて、他に何かないのか?」

 と問うたものの、最早枯枝城には例の大釜があるくらいである。

「よし。アヴァンドラの慈悲で城ごと燃やしてしまおう」

 高貴なるエラドリンの無情なる慈悲に対し、神の護り手スプマンテは善を施すように告げるのだ。

「いや、ここをアヴァンドラの拠点としましょう」

 というわけでホブゥに対し、

「明け渡せ」

 すると高貴なるエラドリン、スプマンテを制して言う。

「それはよくない」

 というわけでホブゥに対し、

「訂正しよう。きれいに掃除した上で明け渡せ」

 スルーされる。

「で、どうするんだお前ら。もし城から出るなら気をつけろ」

「何がだ」

「スカルロードが死んだからか、奴の作ったアンデッドどもが暴走している。今までは護符を持っていれば襲ってはこなかったが、今は見境なしだ」

「そうか。じゃあ、共に行こう」

 高貴なるエラドリンは枕詞のように告げた。

「共に光の道を行くのだ」

「給料出るのか?」

 ホブゥが傭兵としてもっともなことを問う。

「それはデスメトーに言え」

 金を払う段になると弱くのなるのだ。


  ◆


 ともかく、吾等は枯枝城のアンデッドについて、セイハニーンの司祭であるデスメトーに報告するため街へと戻ることとした。

 さて、その道中である。

 森の奥から獣の鳴き声がするではないか。さらに加えて断末魔の叫び声。すわ、何事か。そう思い、駆けつけるのに何の躊躇いがあろう。

 はたしてその場に駆けつけてみれば、吾等は倒れたホブゴブリン1人とその周りで威嚇の声を上げる1匹の大トカゲ、さらに5体のアンデッドどもがゆらゆら蠢いているのを見る。大トカゲはガードドレイクであろう。忠実な生き物で死んでも仲間を見捨てないと聞く。

 どうやら、ホブゴブリンはアンデッドどもに倒されたようだ。ホブゥ達と何か関わりのあるホブゴブリンやもしれぬ。吾等はアンデッドどもを素早く退けると、ホブゴブリンを助け起こした。

 だが遅い。すでに事切れている。ガードドレイクが悲しげな声を上げた。

 と、吾等はこのホブゴブリンが伝令兵であることに気付いた。伝令書を背嚢に仕舞い込んでいる。何の躊躇いもなくその伝令を読みだす吾等。その内容は以下のようなものであった。

『デーモンの小部隊が分散して戦線を突破した。見つけ出して殲滅せよ』

 宛先は枯枝城のホブゴブリン隊のようである。

「デーモン? そんなものがこの辺に来てるのか?」

 吾等は顔を見合わせる。このホブゴブリンも血風党の一員であったのだろうが、血風党は何と戦っているのか。

 そんな風に首捻る吾等だったが、ある物を見つけて首捻るのを止める。そのホブゴブリン、中々に良い手袋をしていたのだ。それは触れた相手を癒すという恩恵の手袋であった。早速はぎ取って、

「じゃあ、こいつを枯枝城に連れていってホブゥに恩を売ろう」

 と、慈悲深いエラドリンは言うのだ。

 吾等は来た道をまた戻り始める。その途中で、さらに遭遇だ。

 人の気配に気づいた高貴なるエラドリンが隠密で先行する。そうして見つけたのは、森の片隅で車座になって休息している男達の姿。向こうもエラドリンの姿に気付いたようで、

「よう、お前か」

 それは血風党の一員でティーフリングのショックなる男である。周りの者達は全てショックの部下であろう。しかし、彼等は街にいたはずだ。それがどうしてこんなところにいるのか?

「何をしている?」

 高貴なるエラドリンの問いに対して、ショックは顔をしかめるではないか。

「もう少しでゴッドクロスの最後のパーツを手に入れられたんだが、どういうわけか俺達の居場所を街の衛兵達に勘付かれてな。諦めざるを得なかった」

「ほう?」

 高貴なるエラドリンは続きを促す。

「最後のパーツとやらはどこにあるんだ?」

「ゴッドクロスの最後のパーツは剣の柄にはめる宝珠だ。そして、それを持ってるのはあの街の領主のガキのお付きの爺さ」

 クラフト老とかいう老人がゴッドクロスのパーツを持っているというのか。一体どうして?

「あの爺が昔、枯枝城からゴッドクロスを持ち出した。それは確かだ。そのせいで長いことあの城で封印されていた大釜の力が解放されちまったって話だ。ともかく、ここでお前に会えたのは運がよかった。すぐにあの爺からゴッドクロスのパーツを回収した方がいい。マガンテもパーツを探してるってことを忘れるな。一刻も早く街へ戻るこったな」

「お前らはどうするんだ」

「俺達はここから少し北にある砦に戻るさ。もともとはそこが俺達の根城だしな」

「よし。では、マガンテをやっておくように」

「それはお前に任せたはずだ。何のためにゴッドクロスのパーツを渡したと思ってるんだ」

「大丈夫。貴様ならできる。悪を討つという崇高なる目的のためなら、卑劣な行為も英雄的な行為になるはずだ」

 高貴なるエラドリンは力強く言った。さらに続けて、

「ところで、他には? くれる物があるならくれてもいいのだが?」

「ねえよ! いきなり衛兵に踏み込まれて着の身着のままで逃げてきたのに、やれるものなんてあるわけねえだろ!」

「踏み込まれたというと、貴様等は確かウェストの屋敷に隠れていたのだろう。ウェストはどうなった?」

「捕まっただろ。今頃これかもな」

 そう言ってショックは自分の首を絞める仕草をする。高貴なるエラドリン、大いに得心した様子で、

「悪は栄えぬものだ。貴様たちも悔い改めろ?」

 ショック達の心には何も響かなかったようである。

「そうか。ウェストはいなくなってしまったか。では、剣は返せなくなったな」

 そう言いながら腰に佩いたロングソード+2をなでる高貴なるエラドリン。その声は満ち足りたように響くのだった。

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