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悪の栄えた試しなし

 クラフトから聞いた枯枝城の城主の話。どうにも黒い魔術の匂いがする。

「そういう系統の話だったら、ウェスト家が詳しそうじゃなかった?」

 確かにあそこの当主は陰気な術者めいてはいた。少なくとも、名家としてこの付近の歴史に通じているやもしれぬ。

 吾等はウェスト家にもたかりに行くこととする。手当たり次第、根こそぎご援助いただく所存だ。

 と、ウェストの屋敷にて使用人が言うには「今立て込んでいて主人は会えない」とのことであった。そうかそうか、忙しいのであれば仕方がないな、などと引き下がる吾らでは当然ない。

 使用人を威圧し、勝手に上がり込む。もう押し込み強盗の類だ。衛兵呼ばれたら一発で捕まるぞ。でも、衛兵を呼べないような立て込んだ状況であろうこと、吾等は嗅覚で捕えている。

 屋敷の2階から大声がするのだ。

「……お前らがやったことだろうが!」

「……それはないんじゃないか? 今更、知らん顔は無しにしようぜ。そっちがそういう態度なら、こっちは全部ばらしてやってもいいんだぜ……?」

 吾等は使用人を脅しつけ、2階の扉を開けさせる。

「ご主人様、お客様が……」

「バカ者! 入ってくるな。客など帰ってもらえ!」

「そうは言っても、いろいろ大変なんでございます!」

 吾等はその陰から中を窺う。そこに居たのは、この家の当主ウェスト、それにティーフリングの闇の剣士とその配下であろう戦士達であった。高貴なるエラドリンにはそのティーフリングに見覚えがある。前回、ゴッドクロスのパーツを渡すよう要求してきた血風党のショックなる男だ。ウェストはやはり血風党と繋がりがあったようである。どうも仲違いをしかけているようではあるが。

 そのショック、扉の外に居る吾等に気付いた様子で、

「……よう。ゴッドクロスのパーツを渡す気になったのか?」

 早速呼びかけてくるではないか。ばれているなら仕方がない。このままなだれ込んで討ち果たすまでであろう。が、室内にいるショックの配下は狂戦士やエラドリンの魔道士やなかなか手ごわそうである。全部で5人。ウェストも合わせれば6人だ。ウェストが戦いに加わるかどうかはわからぬが。

「お前こそ、ゴッドクロスのパーツをこちらに渡せ」

 高貴なるエラドリンの買い言葉に、ティーフリングの剣士はにやりと笑って見せる。

「……正直、そうしてやってもいいと思ってるのさ、俺は」

「どういうことだ?」

「お前らがどこかで野垂れ死んでゴッドクロスのパーツがマガンテの手に渡ったら……奴を倒すことはできなくなる。ゴッドクロスはそのくらいマガンテにとって重要な代物らしい。だから、それを避けるためにもお前は俺にパーツを預けるべきだ。しかし……お前らが有能でそこらでおっ死ぬような羽目にならないのなら、お前に預けるっていうのも1つの手だと思ってな」

「ほう。そうか。なら渡せ」

「お前らがそこそこやるってことを証明すればな。そこで相談だ。この街の地下水路は知ってるな?」

 言わずもがな。吾等は何度か潜ったことがある。

「そこに俺達のことを嗅ぎまわって邪魔しようとしてる奴等がいるのさ。そいつらをやってきてくれないか? それができるなら、俺もお前らの力量を信用してパーツを渡してやってもいい」

「ほう。そうか。わかった。まず先に渡せ」

 もう交渉だか何だか言葉が通じているのかすら怪しい。

「その地下水路に居る連中ってどんな奴等? 中にドラウとかいない?」

「ああ、確かにいるな。マガンテに忠誠を誓っている馬鹿どもだ」

 吾等には思い当たる者がある。ドラウの女神官フェイターンなる者がいた。

「お前はマガンテに忠誠を誓っていないのか」

「前にも言ったと思うがあいつはおかしい。かき集めた兵隊やら金やら、それでもまだ足りないとぬかしやがる。北の荒れ地に全部持っていっちまう。そろそろマガンテ様には退場いただいて、俺達が楽しむ番さ」

 ショックはマガンテになり替わるつもりであるようだ。小物であろう。

 ともかく、ショックからゴッドクロスのパーツを手に入れるには地下水路に居るフェイターン達を倒さねばならぬ。知らぬ顔ではないとはいえ、所詮邪悪な血風党である。

「いや、フェイターンはアヴァンドラに改心した」

「お前の中でそういう美しい思い出になってるならそれでいいや」

 高貴なるエラドリンの言葉に敬虔なるグエドベは応えるのだ。

「地下水路の連中を倒しに行くから、そのためにもゴッドクロスのパーツよこせ」

 吾等のたび重なる要求にも、ショックは力量を示せと返すのみ。ならば、と吾等は技量を示すために技能チェックを行うのだった。運動や軽業、あとやはり口八丁手八丁の交渉やらはったりやらである。しかもついでに、

「こいつらのことをばらされたくなかったら、この前のロングソード+2寄こせ」

 ウェストからもむしり取ろうとする始末。

「この状況でそういうことを言えるとは。強欲なエラドリンよ。気に入ったぞ!」

 高貴なるエラドリンの傍若無人さにショックは笑い出した。

「そうだろう。こいつ、お前よりすごいぜ」

「確かに。俺もさすがにここまで面の皮は厚くない」

 グエドベの言葉にショックも大いに頷く。

「わ、わかった。とにかく、約束だ。このことは内密に……」

 一方、ウェストも剣を差し出す。

「約束は高くつくものだ。月々の料金がかかる」

 まだたかる。だが、約束は約束だ。

「今は黙っておいてやろう」

「今は?」

「情勢によっては……」

 ウェストが非常に渋い顔になった。

「お前達のやり方はよくわかった。小賢しいことを言っておきながら、最後には約束を破る気だろう」

「約束を破ったことなどない!」

 敬虔なるグエドベはそう高らかに宣する。そして、高貴なるエラドリンの視線に対して迷惑気に、

「なんか見られなくていい奴に見られてんだけど? こいつにだけはそんな目で見られる筋合いはないって奴に見られてるんだけど?」

 こうして吾等はウェストからロングソード+2を、ショックからはゴッドクロスのパーツ、剣の刃の部分を得たのであった。高貴なるエラドリン、新たに得たゴッドクロスのパーツを自らの持つ柄の部分と組み合わせて腰に佩く。

「じゃあもらったから、口封じに殺る」

 早速か。

「悪の栄えた試しなし!」

「つまり、今栄えてる吾等は悪ではないということだ」

「ウェストに剣を返してやろう。胸に」

 ドキドキするような善。世界を滅ぼしかねない。


  ◆


 結局、そんな約束破りはせずに、まず地下水路に行くのだった。

 フェイターン達を探し出し、彼女達をショック達にぶつけてやろうという寸法だ。もしくはフェイターン達を盾代わりに連れていき、力技でショック達を討とうという魂胆。また他人を利用して自分達が利を得ようという、実に合理的判断であろう。吾等はいつも他人にやらせようやらせようとしているように見えるかもしれないが、悪を利用して悪を倒すとは善の極みである。何も問題なし。

 吾等は技能チャレンジで地下水路を探る必要がある。

「それ以前に、地下水路の入り口がわからない」

 初っ端から1振ったグエドベが手探りする。それでも、何とか奥へと進んでいく吾等善なる一党。と、その先に僅かな灯と人影が見えてきたではないか。

「フェイターン!」

 高貴なるエラドリンが大声で叫ぶや、人影はさっと闇へと消えてしまった。ただ1人を除いて。

「まあ。あなたですか」

 浅黒い肌に白い髪のドラウは高貴なるエラドリンに挨拶する。

「ようやく血風党に入る決心がついのですね」

「アヴァンドラに信仰変えする決心はついたか?」

「この人達、会うといつもこのやり取りしてる」

 グエドベの言葉は2人には届かぬ。

「マガンテもアヴァンドラの信徒になればいい。末法の世に光をもたらすのはアヴァンドラだ」

「今からでも遅くありません。マガンテ様にお仕えすればその素晴らしさがわかります」

「まあ、この紙の隅っこのところに名前書いてもらえればそれでいいですよ」

 神の護り手、アヴァンドラに仕えるパラディンのスプマンテが入信申込書をフェイターンに勧める。アヴァンドラを信じる者はこんなんばっかりか。

 ともかく、吾等がショック達のことをフェイターンに告げると彼女は顔色を変えた。

「あれは酷い男です。あんな者と関わってはいけません。彼はあなた方を体よく利用しようとしているだけです」

 聞けば、フェイターンらの仲間はショックに与する者達から様々な仕打ちを受けているらしい。

「あの男はマガンテ様に牙を剥こうとしている。だから、マガンテ様に忠誠を誓う我々が邪魔なのです」

 血風党の中でマガンテに忠誠を誓う者達とそうでない者達との間で諍いがあるようだ。そういえば、枯枝城にいるアンデッドどもやホブゴブリン達はどちらなのであろうか。

「まさか、枯枝城へ行くのですか? お止めなさい。あそこへ行くには血風党の者でも特別な護符を持たない限り危険です」

 フェイターンの言葉に、グエドベ、迅速に右手を差し出し、

「くれ」

 その護符とやらを要求するのだ。

「残念ながら、私はそのアンデッド避けの護符を持っていないのです」

 これだからドラウは駄目だ。

 じゃあ、ということでもう一度ウェストのところへ戻る。そこにいたショックに枯枝城のことを話せば、

「あの城のアンデッドどもを倒してくれるのか? いいぜ、人数分護符を都合してやろう」

 と、中々に役に立つ。

「あの城のアンデッドどもを指揮しているのはスカルロードというアンデッドだ。マガンテに仕える小うるさい奴でな。上手く始末してくるといい」

 というわけで、吾等は枯枝城へ辿り着くのに必要な護符を手に入れ、準備を整えた。

 あれ? ショック達はどうするのか。フェイターン達を連れてくることはできなかったわけだが、このまま放っておくのか。

「300年くらい放っておけば勝ってるし」

 高貴なるエラドリンの必勝法、長生きが炸裂した。さすがエラドリン、物の捉え方が違う。

 というわけで、吾等はショックのことは放置することにした。ただ、町長のところへ行き、

「ウェストが怪しいっすよ」

「とにかくウェストから監視の目を怠らないように」

 そう告げただけだ。ショック自体は放置しているといっても間違いではないはず。

「これなら別にウソをついているわけでもないし、ショックのことを話すなという約束も破っていない。チンコロしてない。ちゃんと筋を通している」

 高貴なるエラドリンは胸を張る。

「これで自分で筋を通していると言えるのがすげえ! 俺は後ろ暗いことを感じるのに、自分さえ騙すとはすごい!」

 グエドベがそんな高貴なるエラドリンを称賛した。

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