ちょっと村を救いに
吾は武と名誉を重んじるドラゴンボーンの戦士、へカチン。
高貴にして神秘なるエラドリンのレンジャーと神の御業を顕す敬虔なるエルフの僧侶グエドベ、怜悧なるヒューマンのウィザードであるペンテルらと共に旅をしている。
あてどない旅である。
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今回はペンテルが静かである。が、脅威の魔法砲台として大活躍の予定だ。
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さて、街の西にある白菊村を血風党の魔の手から救うよう頼まれた吾等。白菊村はならず者どもに囲まれ風前の灯であるという。
善為さざるは悪なり。
吾等は一も二もなく依頼を引き受けた。その際、援軍100人つけろとか誰か強いNPCつけろとか、これっぽっちも言わなかったのは前回見ていただいたとおりである。善なる者の奥床しさとでも言うべきか。
吾等の力だけで事を為す。それこそが善なる者に与えらし使命であろう。
ともあれ、無辜の民が苦しめられるのを見過ごすわけにはいかぬ。一刻も早く救いの手を差し伸べねば、と吾等は稲妻のごとき速さで村へと向かうのであった。
向かう前に買い物をするのであった。
ブローチ・オブ・シールディング。この銀色に輝く盾のブローチは身につける者への害意を阻むであろう。宝石類を売却し、これを高貴なるエラドリンが身につけることとなった。切り込み役として、彼はますます危険な死の舞踏を踊らねばならぬのだから。
◆
白菊村は西にある。最短の道筋を行けば、街から丁度一日程度の距離にあるという。朝方に出れば、夕刻には着くといった見込みか。
吾等は西に向かう街道を進み、日も高くなった頃に分岐点へ辿り着いた。街道をこのまま進めば橋を渡って白菊村へと続く。もう一方の回り道を通れば、暗がり森へと入り込む。
以前、その橋の上には牛頭のミノタウロスが陣取っていたものだが、今は見当たらぬ。さもありなん、と思いつつ吾等は街道をそのまま進むこととした。
そうして橋を渡り、しばらく行ったところで、である。高貴なるエラドリンは耳ざとい。
「悲鳴が聞こえる」
吾等も耳をすませる。確かに人の声がするようだ。それに下卑た笑い声。
「……あの牛頭の野郎、村には手を出すなと言ってたが、村から逃げた奴に手を出すなとは言ってなかったからな」
「さすが兄弟! 冴えてるな」
「さあ、お楽しみだぜ!」
しわがれた喚き声に悲鳴が重なるのだ。このような状況で吾等の為すことは一つであろう。速やかにその声の元へと向かう。気付かれぬよう細心の注意を払いつつ。
でも、全然だめでした。隠密で3とか4とか振ってしまうのであった。ただ1人、隠れ潜んだ高貴なるエラドリンだけが不意をついて弓を放つ。
「!? 何だ!? 何者だ!」
矢を突き立てられたならず者の1人が苦痛に満ちた喚き声をあげる。
「我々は旅の正義の者である」
そこにいたのはオークの集団であった。オークのまじない師(グルームシュの眼)を中心にオークの襲撃兵や下っ端が、壊れた馬車と家族らしい人間達を前に屯している。と、そのオーク達の中にひときわ大柄な者がいるではないか。
「……あれはオーガだ。オーガの蛮族……!」
高貴なるエラドリンがその正体に気付き、呟く。その巨体は力に満ち、吾等など小枝のように打ち払ってしまいそうである。強敵であろう。
それだけではない。オークのまじない師は木の陰に隠れつつ、呪いの眼差しを吾等に刺し込んでくるのだ。その目に囚われた者は恐怖で身を縮こまらせてしまう。そうして動きの疎かになったところを他のオークどもがここぞとばかりに攻め立ててくるという戦法。
オークだけでも思ったより難敵と言えた。
だが、吾等は怯まない。オークどもに接敵して蹴散らさんと前進す。できれば、鬱陶しいまじない師を先に片付けたいのだが、オーガが盾となってそこまで届かぬ。
熾烈な削り合いが始まった。
まじない師の呪文、混沌の大槌が吾等を押し潰さんと天空から振るわれる。恐るべき衝撃。けれど、高貴なるエラドリンは動じない。彼の胸元には輝く盾のブローチがあるからだ。呪いの力場を跳ねのけ、涼しい顔である。そういうブローチを持っていない吾は険しい顔である。早くも死にそうです。
死ぬ前に自分の仕事をせねば。吾は炎の息を吐いてオークどもを焼きつくさんとす。そのブレスでオークの下っ端達がバタバタと倒れた。で、今になってよくよく考えてみると、そいつらの中には木の陰で遮蔽を受けててブレス届かない奴もいたような気がするのだが、効いたのだからいいのである。
敬虔なるグエドベの癒しの言葉が高貴なるエラドリンや吾に力を取り戻させる。
魔法砲台ペンテルは1人距離をとり、魔法の矢や金色の火柱を上げてオークどもを焼く。
そしてオーガである。オークのまじない師の目に射竦められた吾にオーガのこん棒が振るわれた。当然のように当たるのだ。で、
「ダメージで10面体2個振るとか、今まで見たことないよ!」
死にました。
でも、グエドベがヒーリングポーション飲ませてくれたので蘇れて本当によかったと思います。
とにかく、このままではやばい。余裕まるでなし。必死。グエドベの癒しの力も打ち止めだし。
そこでペケポンが満を持してかけたるは眠りの魔法。オークのまじない師とオーガをその範囲に収めるべく見計らっていたのである。さすがペケポンさん。ところで誰だ。知らない人の名前が出てきたと思ったらペンテルのことであった。最初のぺしか合ってないではないか。何でこんな間違いをしたのか、今回ペンテルを担当していた高貴なるエラドリンには聞きたいことが山ほどある。
そんなことはどうでもいいのであって、オークのまじない師とオーガはその身を横たえて寝てしまう。気絶状態、無防備状態という奴である。そういった状態の敵に対してはとどめの一撃を与えることによって、一撃で屠ることができるという。
形勢は一気にこちらに傾いた。
ぎらり、と光る両刀を握るは当然、高貴なるエラドリンである。オーガが目を覚まさぬうちに、その首を刎ねんとするのだ。そして、一閃。
外れ。
で、オーガは目を覚ましました。吾等、死んじゃう死んじゃう。
眼を覚ましたオーガは何をするだろうか?
「ナイトキャップかぶんないで寝てたから、ナイトキャップ探すために起きたんだよ」
「歯磨かないで寝ちゃってたし、歯磨きしてからもう一度寝る」
オーガによる怒りの猛打が高貴なるエラドリンを襲う。一瞬、するりと身をかわしたかのように見えた彼の体に、しかし棍棒の一撃が決まっている。オーガの怒りの猛打は2度の攻撃ロールの内有利な方を選べるという、やな感じの技である。
「こんな時こそ、アシッド・アローだ!」
それは魔法砲台ペンテルさんの必殺技。酸の矢を敵めがけて放ち、その飛沫を撒き散らすという敵にとっては厄介きわまりない魔法である。そして、
「……失敗」
今まで一度もまともに敵に命中したことがないという、いわくつきの魔法でもあった。
というか、1レベルの一日毎の魔法を何で2回使っているのか。スリープとアシッドアローはその日どちらを使うか決めてから、日ごとに覚えなおさねばならぬ。つまり、一日にどちらかしか使えない。そういう魔法であったのだが、全然気づかないで進行してしまった。マスターのミスである。でもまあ、失敗してるしいいよね? であった。アシッドアローは失敗しても半減ダメージ与えるから本当は全然良くないのだが。
ライフドリンカーソードで雑魚敵の命を吸収、一時的ヒットポイントを得たりして何とかオーガの攻撃を凌ぐ吾。その隙に、高貴なるエラドリンが両刀でオーガの体力を削りまくる。
やはりスリープの力は偉大であった。オークのまじない師を眠らせたことで、鬱陶しい視線攻撃が途切れたのである。
そして削り合いは吾等の勝利に終わる。最後に、吾の剣の一撃がオーガの体を断ち切ったのだ。最早、残るはオークのまじない師1人である。
「チミは死にたいかね?」
高貴なるエラドリンの降伏勧告に、
「なんだその口調? ふざけんなー」
オークのまじない師は気色ばむ(威圧の技能チェック失敗)。
だが、高貴なるエラドリンのクリティカルヒットを浴びて考えを改めたようだ。
「どうか命だけは助けてください」
殊勝なところを見せるのだった。
「降伏しろ、とは絶対に言わないよね? 必ず向こうから、助けてください、ってお願いさせるようにしてるよね?」
敬虔なるグエドベは高貴なるエラドリンの降伏勧告術の骨子を見抜いたようであった。
◆
戦いの後、吾等はオークのまじない師をふんじばる。そして、オーク達に囲まれていた家族に事情を尋ねるのだった。
「私どもは白菊村から逃げてきたのです。どうにかここまで来たところで、この山賊どもに見つかって……」
「我々も山賊みたいなものだ。で、何持ってるんだ?」
などと、彼等の馬車を探るような真似は当然全然しないので安心して欲しい。
村から逃げてきた者達の話によると、白菊村では意見が分かれているらしいのである。血風党に抵抗して街からの援軍を待とうという者と、血風党に降伏して争いは避けようという者が互いに反発しあい、ばらばらなのだという。
吾等はその家族に街へ行き、町長へ村の現状を伝えるように言い含めるのであった。
次に吾等はオークのまじない師を尋問する。
「俺らは村には手を出すなと言われてたが、村から逃げ出した奴については何も言われてない。だから襲った。何か悪いか」
「わかった。なら、この世の全てを村だと思え」
「なんか物があったらそれは我々の物だ。お前の物はない」
オークのまじない師の話では、ミノタウロスの一隊は白菊村の近辺に居座り、一騎打ちをする勇者を待っているという。
「あのクソ牛野郎、目の前の獲物をお預けしやがって。血風党に入れば良い目が見れるって言われてたのに話が違うじゃねえか」
「一騎打ちの勇者を待つって、いつまで待ってくれるんだ?」
「明日の朝までだ。それが過ぎたら全員で村を攻める予定さ」
そうと聞いてはゆっくりしておれぬ。ゆっくりしておれぬのだが、ここは大休憩が必要であろう。毎度のことながら、もうほとんどの力を使い果たしてしまっているのだ。回復もできません。どうしてこう、吾等の戦いはいつもぎりぎりなのか。
ここで6時間ほど休んでから村に向かうとなると、到着は夜中になってしまうだろうがいたしかたなし。
「いや、休むの4時間でいいよ」
高貴なるエラドリンだけはそう言うのだが、そんなこと言うならもう1人で行けばいいじゃない。あたしもうしらない。
◆
皆で行くのであった。
夜陰に紛れて道を行く。と、その先に何か見えるではないか。
「『何も見えない』が見える」
「虚無が見える」
知覚のロールで大失敗した人達は置いておいて、高貴なるエラドリンが見定めるに、あの光は血風党のかがり火であろう。
「血風党のマークを付けておこう。いざとなったら、奴等の仲間のふりをする」
「というか、入党しよう」
とか何とか言っていたら、早速見つかってしまうのだった。わー、とゴブリンの一隊が吾等の元へやってくる。
「何だお前ら!?」
「血風党の者だ」
ぬけぬけと言うは高貴なるエラドリンである。
「仲間なのか? 援軍か?」
「マガンテ様直属の者だ」
「そうかそうか。こんなところで立ち話もなんだから、俺らの大将に挨拶でもしてってくれ」
あれ? 何か敵のまっただ中へ案内されてしまうのだ。見ればホブゴブリンの部隊やら人間のならず者の部隊やら、全部で2~30人はいそうである。先程のオーク達だけでも瀕死だったのに、これらを相手にしては完全に死であろう。
「明日、一緒に村を襲えばいいんだよ」
敬虔なるグエドベが解決策を提示する。
「よし、逃げよう」
高貴なるエラドリンがここまで来といて走って逃げようとするのだ。吾の移動速度は5しかないので、必然的に吾1人置いてかれることになるのだが?
「大丈夫、あのミノタウロスだったら話は通じるはずだ」
「全然別のミノタウロスの人だったりしてな」
懸念を示しつつ次回に続く。




