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ここはやり直された世界

 吾は武と名誉を重んじるドラゴンボーンの戦士、へカチン。

 アローハー。

 ハワイへ行ってきたのであった。

 あてどない旅である。


  ◆


 さて、前回の続きを描こうと思っていたのだが。




 なかったこととしたい。




 前回のシナリオを、全員揃った形でやり直すこととする。決して、ハワイに行って帰ってきたばかりで、とてもゲームの方の準備が間に合わなかったから、というわけではない。苦肉の策でこうせざるを得なかった、とか全然違うのである。本当です。


  ◆


 本当は前回、高貴なるエラドリンだけでもっと(別の方向に)話が進んでいたのだがその歴史は改変される。

 とりあえず、吾等一党が白き竜を倒してから街に戻り、英雄クロムの店で一杯おごってもらったあたりから始めた。

 さて、

「まず、自分達のドラゴン殺しを全否定する。本当にドラゴンをやったのはカランバ」

 高貴なるエラドリンはいきなりシナリオの根幹をぶっ壊すようなことを言い始めるのだ。

「だって、厄介事に巻き込まれたら嫌じゃん」

「お前がそうじゃん」

 敬虔なるグエドベは、吾等が一党における高貴なるエラドリンの立場をそう説明するのだ。然るにエラドリンは微笑みを返す。それはそれは慈愛に満ちた笑みであった。その姿は、何を言われても全てを許そう、という神の如し。そして、言うのだ。

「ここにも愛を与えてしまったか」

「いらねえ」

 セイハニーンの僧侶であるグエドベには届かなかったようである。

 さて、高貴なるエラドリンがどう覆さんとしても、すでに吾等の名はドラゴン殺しの異名と共に語られている。英雄クロムの店の中でも、吾等善なる一党は目を引く存在であろう。そんな吾等を見る目の中に、商人スリルのそれがある。

「どうも皆さん、改めて助けていただいたお礼を述べたいのですが……」

 ティーフリングの商人はそう吾等に話しかけてきた。

「言葉はいいから、これからのお前の利益、恒常的に50パーセントよこせ。命助けてやっただろ」

 吾等は善なる一党である。

「まあ、私はそのようなことは言わないが」

 高貴なるエラドリンが良識のあるところを見せるではないか。

「自分、善ですから。善として、自分は言わないけれど、誰かがそう言うのを止めはしない。その誰かが、パーティの皆にお金を回してくれるのを拒否したりもしない」

 これこそ、善として筋の通った態度であろう。善を為すにもお金が必要なのだから。

「はっはっは、御冗談を」

 スリルは朗らかに笑うのだ。そして、続ける。

「ともかくありがとうございました。ただ、ご忠告を……。これからしばらく暗がり森には近づかぬ方がよろしいかと。ドラゴンは同族を殺した者を決して許さぬとか。どうも、わたしらが捕まっていたコボルド達の話ですと、あの白きドラゴンには兄弟分がいたようですので……。仇を討とうと仲間のドラゴンがあの森に現れるやもしれません」

「じゃ、暗がり森に行こう。あえて危険を求めて。冒険とは何かね?」

「なんと心強い」

 高貴なるエラドリンの言葉に、スリルは感嘆す。吾等も感嘆するが、できるならば1人で行っていただきたい。


  ◆


 それはともかく。吾等は前回倒した白き竜の躯を売り払わんと、酒場の主人である英雄クロムに問いかけるのだ。

「この店でドラゴンの死体買え。酒場、抵当に入れて来いよ」

「いらねえよ」

「じゃあ、誰ならドラゴンの死体とか買ってくれる? 肉屋?」

 ドラゴンの肉とは食することのできるものなのか。そのような疑問への答えを得るために、高貴なるエラドリンはクロムに迫るのだ。

「料理に使ってみろ。そして、食え」

「そんなに言うなら自分で食え!」

 英雄クロムの言葉に高貴なるエラドリンは微笑むのだ。

「自分、ベジタリアンですから」

「ああ、でもドラゴンって野菜だよ」

 神の御使いである僧侶が嘘をつくはずもない。グエドベの言うとおり、ドラゴンとは野菜なのであろう。では、そんな野菜を欲しがる奇特な者はいるだろうか?

 クロムの話によれば、この街の4名家の内の1つ、ウェスト家の当主が錬金術関連に興味を持っているとのこと。そこでなら売れるのではないか、という話であった。

「じゃあ、東に住む南の英雄と呼ばれたウェストさんのところに会いに行こう」

 敬虔なるグエドベがわざわざややこしく言い添えるのだ。

「ただし、王都から見て東であってこの街にあってはまた別の方角に住んでいます」

 さらにややこしい。

 吾等は教えられた通りにウェスト家への道を辿る。その道すがらも、吾等は不穏な気配が街を覆っているのに気付くのであった。街の者達が興奮したように、町長や執政者達への憤りを口にしているのを耳にする。吾等の見知った顔もその中にあった。この街の衛兵であるドワーフの軍曹、グリムウェルだ。そんな名前だったのだ。初めて知った。

「おお、お前達か。わしらはこれから町長を引きずり降ろしに行く。町長を辞めさせるんじゃ。そして今までの無策の責任を取らせ、蔑にされてきた領主様をお助けする! お前達も良かったらついてくるがいい」

 ドワーフ軍曹は群衆と一緒になって町長の屋敷へと急いで行ってしまう。まさに暴動前夜といったところか。奇妙に浮ついた雰囲気が漂う。

「いえー! べいべーいえー!」

 敬虔なるグエドベも興奮したように道行く者達とハイタッチを繰り返すのだった。

「おお、あの竜殺しもオラ達の味方だぞ!」

「ありがてえ! 味方は多い方がいい」

 街の者達の吾等を見る目は期待に満ちたものだ。だが、高貴なるエラドリンはそのような狂熱にも焙られぬ。

「世俗の問題だ。私には関わりないこと」

「いやいや、一番世俗に生きてんじゃん。目の前の現実にしか目がないじゃん」

 敬虔なるグエドベの言葉に、高貴なるエラドリンは首を振る。

「どうやら誤解があるようですね」

 そうして吾等はウェスト家へと辿り着く。閑散とした屋敷の玄関を叩きつつ、

「ウェストに用がある。正確にはその金に用がある」

 高貴なるエラドリンは世俗的に率直なところを述べるのだった。

「私に何用かね?」

 現れたるは陰気そうな痩せ男。これがウェストであるらしい。

「あなたならドラゴンの躯を適正な値段で買い取ってくれると聞いたのだが?」

「……ほう、君達が竜殺しか」

 痩せた当主は感心したように声の調子を上げる。

「いや、あれはカランバという男がやったのだ。そのカランバという男は血風党員で……」

「何を言っている?」

 聞いてもいないのに語り出した高貴なるエラドリンを前にして、ウェストは首を捻りつつ、

「……ところで、先程から君達の話を聞いていると、どうやら君達は金さえ払えば何でも引き受ける類の冒険者という奴なのかね?」

「吾等は善による永世中立者です」

 また変なこと言いだしたよこの人。

「つまり、正当な報酬を渡せば引き受けないことはない。正しい仕事に正しい報酬ということ」

「ならば、これは正しい仕事だ。ぜひ頼みたいことがある」

 ウェストは吾等にずいと顔を寄せるのだ。

「……この街の町長は悪党だ。奴をのさばらせてはおけない。そのために、君達には奴の評判を落として欲しい。たとえば、町長は血風党と繋がっていてこの街を売り渡すつもりだ、というような噂を流して欲しい」

 んん~? 妙にきな臭い話を持ちかけられるではないか。

「ほう? それはまた何故? なんでそんなことを?」

 怜悧なるペンテルが疑問を発する。

「奴をこのままにしていては街が危ない。一刻も早くこの街から追い出さなければならないからだ。どうかね? やってくれれば、1人につき金貨160枚支払おう」

 吾等はひそひそと心の中の声で囁き合うのだ。

「ちょっとこれは……」

「そういう話もあったけど……」

「むしろ、こいつが血風党員じゃね?」

 高貴なるエラドリンが代表してウェストへ言う。

「まずはドラゴンを買ってくれ。その話はまた別だ」

「いや、この話を引き受けてくれるならドラゴンも買い取ろう。受けてくれないのなら、買うことはできない」

「そんなことわざわざしなくても、町長は街の連中に引きずり降ろされかけてますよ?」

 敬虔なるグエドベの指摘にもウェストは首肯せぬ。

「ドラゴンを買って欲しいなら、私の願いも聞いてくれということだ。……まあいい。もし引き受ける気になったらその時また来たまえ」

 吾等は体よく追い払われるのであった。

 吾等は街路に出て顔を突き合わせる。

「なんかあるな。町長への不満がこんなに大きくなるのに、なんか手際が良すぎるみたいな。それに前、血風党の奴がもうすぐこの街が手に入るみたいなこと言ってたし……。血風党の連中が街の中で色々工作してるんじゃないか?」

 敬虔なるグエドベの言葉に、高貴なるエラドリンは頷くのだ。

「よし。もういい。王都へ行こう」

 もうこの街は見捨てて別天地を目指そうというのである。

「ええー? せっかくのお祭りなんだから楽しもうよー」

 敬虔なるグエドベはこの騒動を好機と見たようだ。

「ジャンプしてケツでアタックしあうとか、そういう感じのお祭りなんだからー。楽しいよ? 遊んでいこうよー」

 へーいへーい。ノリノリの黒人みたいな動きをする。

「そうだ! デスメトーのところに行こう! この街の状況とか、寺院なら把握してるかもしれないし。血風党関連の話なら、奴のところに行くのがいい」

 敬虔なるグエドベがそう提言す。吾等はそれを受け入れ、セイハニーンを祀っている月の光寺院へと向かうこととした。

 そうして辿り着いたそこも、やはり騒然としている。これからどうしよう? この街はどうなってしまうのか? と信徒達が不安そうに屯っている。暴動のような有様を恐れているようだ。

 さて、吾等がこの寺院の司祭であるデスメトーを訪ねると、彼は疲れた顔であった。長椅子に身を預け起き上がる気配もない。

「あなた方でしたか……今日はどうされました?」

「情報を持ってきました」

「ほう、どのような?」

「商人助けてぇー、でも血風党の一味のカランバが仲間のふりしててぇー」

 何の効果を狙ったのか吾には全くわからないのだが、高貴なるエラドリンは不貞腐れた女子中学生みたいな口調で説明し始めるのだ。

「ドラゴンを倒したんだけどー、やったのは血風党のカランバでー、両方相討ち。で、平和は守られました」

「……しかし、そうなると話が少しおかしいのではありませんか? カランバなる男が血風党員だとして、その男がなぜドラゴンを? お話によると、ドラゴンは血風党との同盟相手だったはずでは?」

「ドラゴンが邪魔になったか、もう用済みになったかでしょう。それより、この街の今の有様はどういうことですか?」

 敬虔なるグエドベが尋ねると、セイハニーンの司祭デスメトーは肩を落とすのだ。

「……やっと町長がその気になってくれたというのに……。我等が街の中で争っている場合ではありますまい。然るに、このような騒動に……」

「町長がその気に、って?」

「町長が街道沿いを衛兵に巡回させると決めたのです。邪悪に対する備えとして。ようやく気付いてくれたのですよ。……けれど、この騒動でとても衛兵達を街道の警備に回すことはできなくなりました。これでは邪悪の思うつぼだ……」

「……あなたは町長に責任を取らせようとは思っていないんですか?」

「今は一丸となって邪悪と立ち向かうべき時です。遅きに失したなどと責任を問うている場合ではありますまい」

「たまには良いこと言うねー、デスメトー。まるでセイハニーンの司祭みたい。よし! マネしよう。ちょっと外出てくるわ。それで騒いでる街の連中に向かって言う。今こそ皆が一丸とならねば!」

「良いこと言うねー! まるでセイハニーンの僧侶みたい」

 怜悧なるペンテルは感服したように言うのだ。それはともかく、

「4名家の1つのウェスト家ってどうなの? 町長の評判落とそうとか怪しいんだけど。血風党に関係してんじゃない?」

「そんなまさか……確かに、ウェスト家は古くからこの街にある家で、成り上がってきた町長のことを苦々しく思っていたようですが……。けれど……けれど、私は彼を疑いたくはありません。今は街の者皆が目の前の危機に一丸となって当たるべきなのです……。でも……わかりません……あなた方の言う通りだとしたら、見過ごしてはいけない問題なのかもしれない。何が正解なのか、どうすれば正解なのか……私は邪悪の脅威を訴え続けて、ただいたずらにこの街に不和をもたらしただけなのか……」

「そんなお前の問題なんか知ったこっちゃねえんだよ、とグエドベが言ってました」

 高貴なるエラドリンがそう告げると、セイハニーンの司祭は首を振る。

「……そうですね。今は悔やむよりも、できることをしなければ……。邪悪の動向をお知らせくださりありがとうございました。これは些少ですが」

 と、差し出してきたのは革袋に入れられた金貨である。100枚はあろう。

「今のお話し、町長にもお伝えください。きっと善後策を講じてくださるはずです。私は疲れました……」

 そう言って長椅子の上で目を瞑ってしまう。

「いや、一緒に町長のところに行こう。それであなたが説得して、ついでに我々と一緒に邪悪を倒しに行こう」

「やだ。寝る!」

 デスメトーは聞き分けのないこと言うのだった。


  ◆


 とりあえず続く。

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