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冒険の始まり~洞窟に潜みし者~前編

吾は武と名誉を重んじるドラゴンボーンの戦士、へカチン。

高貴にして神秘なるエラドリンのレンジャーと神の御業を顕す敬虔なるエルフの僧侶ヨシオと共に旅をしている。

あてどない旅である。


  ◆


そしてあの日、吾等は街道沿いのとある村にいた。

村にある宿屋兼酒場。そこにまるで突然湧いたかのように吾等はいたのだ。

吾等の他にも、酔客が何人かいるようで、酒場はにぎわっていた。

と、突然、その喧噪を破るかのように、酒場の入り口から転がり込んでくる者がいるではないか。

すわ、何事か。と、吾は手にした長剣を握りしめた。

見れば、その者は人間の商人のようであった。薄汚れて、大層慌てている。

そして、高貴にして神秘なるエラドリンのレンジャーの元へ駆け寄ったのだ。

「名のある方とお見受けします。どうかお助けください」

「下賤の者が何か話しかけてきておじゃるぞ。聞いてたも」

高貴なるエラドリンはそう言って、傍らの敬虔なるエルフであるヨシオを見やった。

かのエラドリンはあまりに高貴な存在であるため、その名すら口にするのがはばかられるのだ。

敬虔なるエルフ、ヨシオは慈愛に満ちた笑顔で頷いた。そして、人を安心させるような深い声で商人に告げるのだ。

「ごめん。こいつ、いつもこうなんだ。決して悪いやつじゃないんだけど」

まだキャラが定まっていないのだ、というようなことをヨシオが言うと、商人はさもありなんと納得するのだった。


  ◆


さて、吾等はその商人から詳しく話を聞くこととした。

その者は酒を扱っている行商人であり、街道を行く途中、盗賊どもに襲われ積み荷の酒樽を全部奪われたのだという。

「お得意様へ納めなければならない特別な酒だったのです。どうか取り戻してきてもらえませんか」

商人の話を聞いてヨシオ曰く、

「もう全部飲まれちゃってんじゃね? 手遅れ手遅れ」

終了。冒険は終わった。

「ごめん、こいつ、いつもこうなんだ。決して悪いやつじゃないんだけど」

高貴なるエラドリンがそう言って、冒険を再開させた。


  ◆


哀れな商人はせめて1樽だけでも取り返してきてほしい、と懇願してくる。善良なる我等はその願いを無碍にするわけにはいかない。

「ところで報酬は?」

吾等は善良に値段交渉に入った。

商人は1樽取り返すごとに金貨50枚を支払う、と約束してくる。

「盗まれたのは全部で10樽です。どうかできるだけ多く取り戻してきてください」

「その話、俺達も乗らせてもらうぜ」

と、その話を横で聞いていたらしい見知らぬ2人組が立ち上がる。僧侶と盗賊であるようだ。

「その酒樽を取り返してくればいいんだな? 早い者勝ちだ!」

そう言って、吾等を差し置き酒場から出て行こうとするではないか。

「後ろから二刀流でズバズバと」

「今回の趣旨は戦闘とかのルールの確認だし」

高貴なるエラドリンとヨシオが、通じ合った者の目で頷きあった。

「エラドリンは神秘的なんだから、何やってもいい」

高貴なるエラドリンは神秘的な論理を駆使するのだった。


  ◆


とはいえ、そこは善良なる吾等である。無益な争いは好まない。

「いいんじゃね? あいつら先に行かせて、盗賊どもの露払いさせれば?」

神の使いたるヨシオの言葉は深い。吾等は深く頷く。

「ていうか、その盗賊どもってどこにいるの? どんな連中で、何人くらいいるの?」

ヨシオに促された商人であったが、首を振るばかり。

「襲ってきたのはオークが10人弱だったのですが、奴等が酒樽を抱えてどこへ行ったかまでは……」

ここに吾等は、盗賊オークどもの住処を探し出し、奪われた積み荷を取り戻すことを約するのだった。


  ◆


早速オーク達の居場所を突き止めるために、吾等は様々な手段を講じることとした。

高貴なるエラドリンはそのレンジャーとしての素養を遺憾なく発揮し、盗賊どもの足跡を追った。

その素晴らしい腕前の前に、オークどもの痕跡は欠片も見つからなかった。

ヨシオはその人当たりの良さを生かして話を聞く。

「おら! オークがどこに行ったのか言え!」

そこら辺の人の胸倉掴んで得られた言葉は、お前ら衛兵のところにでも行け! というもののみ。

ふと、誰ともなく言う。

「……どっかから樽持ってきてさあ」

「中に水でも入れとけばいいんじゃね?」

「樽一つで金貨50枚だから」

「今月中に2000樽。来月には樽工場立ちあげて5000万樽用意できるぞ! よかったな、おやじ!」

ヨシオが商人の肩を叩いて祝福する。

そうなのだ。我等は善良なる一党である。酒などという悪徳の極みを世にはびこらせぬために力を尽くすべきなのだ。とんでもなく善良である。吾等一党の中に、止める者はいない。

こうして吾等の冒険は終わった。


  ◆


終わってなかった。

どういうわけか、衛兵達のところへ赴いていた吾等は、そこでオークの盗賊どもが潜んでいそうな場所を三か所知ることができた。

そのうちの一か所、洞窟が怪しいと睨んだ吾等は早速向かう。途中、放棄された酒樽を見つけ、いよいよ敵が近いことに意を強くする。


  ◆


件の洞窟に辿り着いた。

耳を澄ませば、洞窟の奥からオーク達のものらしい豚のような鳴き声が聞こえてくる。

「じゃあ、ぶひぶひ言いながら忍び足」

高貴なるエラドリンがまたもや神秘的な論理を展開し、吾は幻惑される。

ぶひぶひとオークの鳴き真似をするその姿は、とんでもなく高貴であった。


  ◆

 

なぜなのかちっともわからないが、吾等の存在が洞窟内のオークどもに気取られたようだ。

こうなっては仕方がない。吾が武勇を示す時であろう。吾が先頭に立って切り込み、その後ろから高貴なるエラドリンとヨシオが続く。

すぐに開けた場所が見えてきて、果たしてそこにはオークの一団がいるではないか。

下っ端が6人に狂戦士が2人、洞窟の奥では呪術師らしきものが踊り狂っている。

その場に見える酒樽の存在が、彼奴らこそ倒すべき敵であると告げていた。

だが吾等は蛮人ではない。力に訴えるばかりではないのだ。

高貴なるエラドリンは説く。

「下賤で穢れた貴様らの元へ、高貴なる私が来てやったぞ」

そして、なんでか甲高い声で、

「死ニェッ!」

「最初から話しあう気ないだろ、お前ら」

オークの呪術師がもっともなこと言った。


  ◆


吾が最初に火炎の息でもって弱敵どもを一掃する。そして、残った者達を高貴なるエラドリンと共に挟撃して仕留めてくれよう。そのような腹積もりで吾は名乗りを上げた。

「やあやあ吾こそは」

オークどもがものすごい勢いで殺到してきた。

まあ待て。

落ち着け。

下っ端どもでさえ吾等の誰よりも素早かった。ただごとではない。


  ◆


だが、吾とてドラゴンボーンの戦士。そう易々とは通さぬぞ、とばかりに奴等の前に立ちはだかる。

「吾が剣をすり抜けんとする者は手痛い代償を支払うことになろうぞ」

ガン無視される。

すり抜けるも何も、そもそも標的は吾1人だ。吾1人だけ、丁度奴等の手の届く距離に突っ立っていたのだが、それが何か悪かったのだろうか?

オークの狂戦士が初手からとんでもなく素晴らしい一撃を吾の脳天に叩きこんできた。これ以上はないというほどの打撃をこうむる。下っ端どももさらに追い打ち。

吾は何にもしないうちから、もう死にそうである。わらわらとオークどもに寄られて、はて、なぜにこのような危地に陥っているのか理解できない。


  ◆


神の御使いヨシオの奇跡により、吾は戦う力を何とか保っていた。

高貴なるエラドリンが素早く敵の後ろに回り込み、二刀で撫で斬っていく。次々に屠られていくオーク達。

だが、その高貴なるエラドリンも呪術師の魔眼に射竦められては、その動きをぎこちないものせざるを得ない。

その隙を逃すオークどもではなかった。体捌きの鈍った彼をオーク達の大斧が襲う。今度は高貴なるエラドリンが最も死に近い者となる。

そうなっては仕方がない。

彼はエラドリンに伝わる秘術「フェイの一飛び」にて、オークどもの手の届かぬところ(具体的にはヨシオのさらに後方)へと姿を移した。

すると不思議なことに、その場には吾とオークどもしか残らない。簡単な算数です。

答えは死。


  ◆


何とか死なずに凌ぎつつ、一進一退の攻防が続いた。

その戦いも、遂に終わる。

高貴なるエラドリンがオークの呪術師を二刀で切り刻んだのだ。連続で刃を刺し込まれ、さしもの悪漢も絶命す。

呪いの言葉を吐きながら。


  ◆


ようやく戦いは終わった。

ヨシオの奇跡の力も尽き、吾等の戦技も最早使えぬ。そのくらい追い詰められた勝利であった。

吾等は残っていた酒樽を確認する。

5樽。

持ちかえれば金貨250枚になる。問題は、ここから酒樽を吾らだけでえっちらおっちら運ぶのは苦労であろうな、ということのみ。

そういえば、吾らより先に酒樽を探しに出かけた僧侶と盗賊の2人組はどうしたのであろうか?

何でも風の噂によると、吾等が危機に陥った際、救援に駆けつけるよう待機させられていたらしいのだが、そんなことすっかり忘れていたということであった。誰がすっかり忘れていたのかはよくわからない。

「なんだよ、俺ら最初からずーっと危機に陥ってたっていうのに」

じゃあ、せっかくだしもう一回危機に陥ってみますか?

ごうんごうんと音がして、洞窟の奥の隠し扉が開いた。中から現われたるは、酒樽抱えてすっかり酩酊したミノタウロス。ふごーふごーと鼻息荒く、吾等を見下す血走った眼。



以下次回


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