魔法の種類、そして発動
机の上に紙と鉛筆のようなものを用意して、椅子に座るフォノン。
「実際に魔法を習得していく前に説明しておきましょうか。まず、魔法には攻撃魔法、補助魔法、回復魔法、特殊魔法があるの」
そう言って、線でマス目に区切った紙に魔法の種類を書いていく。
「魔法の属性は基本的に、火、水、風、土の四つ。それ以外にも属性はあるけれど、それらは使い手の数が基本の六属性に比べて少ないの。光や闇、聖はその使い手が少ない属性の一つね。ただ、この属性という概念は、補助魔法には適用されないわ」
「ふむ」
「補助魔法は魔力があれば誰でも使える魔法のこと。身体などの能力を向上させる『強化魔法』や生活の中で使用する『活計魔法』はこの部類ね。獣人族は特にそうなんだけれど、魔力がありながら属性適性が皆無って者は少なくないのよ。そういう人間は補助魔法だけ習得出来るの」
話していた内容を紙に反映させながら、目で「ここまでは大丈夫か?」と問うてくるフォノン。
俐陽はそれに頷き返す。
「そして、回復魔法。こちらは光、もしくは聖の属性適性を持つ者しか使えないの。一般の使い手は光属性の適性持ちが殆ど……というか全部だと思っていいわ」
「光と聖では何か違うのか?」
「詳しくは分からないけれど、天人族の起こした奇跡の内容に、『死者を復活させた』『病気や失明、身体の欠損を治した』というものがあるから、聖属性回復魔法だとそれらが実現出来るという可能性はあるかもしれない。光属性回復魔法だとそこまでの回復力はないから」
フォノンの答えに、なるほど、と相づちを打つ。
「最後の特殊魔法っていうのは?」
「それ以外の魔法は全てここ。特に深い属性適性を持つ者が行使出来る魔法を指すことが多いわ。例えば、雷属性という属性があるのだけれど、この属性の使い手には天候次第で自然の雷を狙った対象に落とせる者もいるそうよ。今は置いておくけれど、私も特殊魔法を使える。他には精霊魔法、あとは────」
ひと呼吸置いて、フォノンは続ける。
「アマギ一族が使う特異な魔法もこれに含まれる。奴らは代々『スキル』と呼んでいるみたいだけれど」
間違いなく、天城彰がそう名付けたのだろう。
「スキルというものは一族みな、一人一つ持っているそうよ。内容は千差万別で、一瞬で移動したり、死んでも生き返ったり……範囲や回数の制限はあるみたいだけれど、こういう無茶苦茶なものもあるみたいね」
フォノンが呆れ混じりの声色で言う。
俐陽も両手で頬杖をついて、やれやれといった様子だ。
「そりゃ、アマギ一族ってのが強いわけだ」
「奴らはスキルを抜きにしても、非凡な魔力量に加えて魔法多属性適性だから尚更ね」
さて、と話を区切るフォノン。
俐陽もそれを受けて姿勢を正す。
「ここまでが魔法の種類の話ね。ここからは実際に魔法を使う時の話」
「待ってました!」
「落ち着きなさい。まだしばらくは座学よ」
「はい、フォノン先生」
「よろしい。魔法を使うために必要なものは、使いたい魔法の規模や種類、その行使者の魔力制御の練度や魔力量などによって変わるわ。まずは攻撃魔法」
例えば、と続けてフォノンは部屋の空いている空間を指差す。
そこを見ておけ、ということだろう。
「『炎』」
彼女がそう唱えると、何も無い空間に炎が出現する。
それは空中に正円を二回描くと消失した。
「今、私は『炎』と唱えてから魔法を使ったわね。次、私は何も言わずに魔法を使うわ」
そう言うと、彼女は指でカウントダウンをし始める。
カウントが終わると同時に、先ほどと同じく炎が出現したが、前の炎よりも少し規模が小さい。
それは空中に僅かに歪んだ円を二回描くとかき消える。
フォノンは俐陽に向き直るとこう訊いた。
「何が違ったか、分かった?」
「後者の方が、炎の規模が小さかったのと円の形がいびつだった……かな」
「正解。もちろん使った魔力量はどちらも同じよ。変化の理由は当然、『炎』の発言の有無。この、魔法を使う直前で口に出す言葉を『魔法句』と言うわ。そして、こういった発動形式を『詠唱』と呼ぶの。逆に『魔法句』を口に出さない発動形式が『無詠唱』ね。一般的に、引き起こしたい現象の規模が大きくなるほど『魔法句』は長くなるわ。あと、『無詠唱』での発動は『詠唱』での発動で何度も研鑽を積む必要があるの。まぁ、下級魔法はその限りではないけれど」
俐陽は理解出来ている、と頷く。
それを見て、フォノンも続ける。
「『無詠唱』だと『詠唱』の場合に比べて、同じ消費魔力で発現する魔法の規模が小さくなり、制御が効きにくくなるの。『何故?』と思うでしょうけれど、説明してリオの頭が爆発しても困るから今回は省いておきましょう」
「……助かる」
頭脳労働は苦手では無いが、今までの常識を打ち壊すような知識を詰め込めるかと言われたら自信はない。
素直にフォノンの言葉に甘えておく。
「『詠唱』の方が一般的ね。かなり熟練の魔法使いだと、『詠唱』と『無詠唱』の違いをほぼ無くせるんだけれど、戦闘中の『詠唱』は仲間への意思伝達行為も兼任するから」
「おぉ、確かに」
俐陽は膝を打つ。
「『魔法句』は書物や口伝で知ることが多いわ。ということで、これが攻撃魔法。次は補助魔法だけれど、これは単純。『魔法句』が存在しないから、効力は当人の魔力制御や魔力量次第ね」
「なるほど。回復魔法はどうなんだ?」
「そっちは攻撃魔法と似たようなものよ。『魔法句』とは言わずに『聖句』と言うけれど。特殊魔法については、魔法それぞれで違うから気にしなくていいわ」
つまりはまとめるとこういうことらしい。
攻撃魔法、回復魔法は『魔法句』もしくは『聖句』を用いた『詠唱』が主流。
『無詠唱』での発動も可能だが、その場合、威力や精度が落ちる。
補助魔法には『魔法句』は存在せず、効力は魔法を行使する本人の力量次第。
特殊魔法は統一されておらず、魔法それぞれで発動形式が違う。
「大体分かったよ。それで、特訓は何から始めるんだ?」
「前言ったように、まずは活計魔法から始めましょう。その方が魔力制御と消費魔力の多寡の感覚を掴みやすいわ」
「おお、よろしくお願いします」
こうして俐陽の魔法修練が始まった。