相棒、そして特訓
耳に付けた黒水晶のイヤリングを揺らしながら、フォノンが言う。
「話を戻しましょうか。とりあえず、リオの修練はここを拠点にするわ。ここなら誰も来ないし、多少好き勝手に暴れても気づかれにくいはずよ」
「それはいいけど、食べ物とかどうすんの?」
「私がローブで身を隠して街まで買いに行くわ。確かここら辺に……あったわ」
本棚を漁りに行ったフォノンが皮袋を持って戻って来る。
机の上にそれを置いて口を開くと、中には金貨が沢山入っていた。
「すげえな。これ結構な量なんじゃないか?」
「そうね。平民の一家族が半年暮らせるくらいかしら」
「でもなんでこんな大金を持ってんの?」
「ちょっと前にたまたま盗賊団の根城を見つけてね。気分転換に壊滅させたら、貯め込んであったこれを見つけたのよ。私はよく人間の街に忍び込むから、お金はいくらあっても困らないということで持って帰ってきたの」
「気分転換のために壊滅させられる盗賊団……」
因果応報とはこのことか。
「水浴びは近くに泉があるから、そこでするといいわ。凶獣種も時々来るから、食べられちゃわないようにね」
「不安しかねえ…………」
笑いながらフォノンは言うが、俐陽はこれからの苦労を想像するだけで生気が抜けている。
「あと貴方の服も数着買っておかないとね。目が痛くなるほど派手な色づかいの服の人と並んで歩くのは悪目立ちするから避けたいわ」
「……あー、流石の俺も『魔法少女プリティ☆カウ』のオタT着て、異世界を闊歩する勇気はないな」
オタクTシャツとジーンズの状態でこちらへ飛ばされてきたのだった。
これをずっと着続けるわけにはいかないだろう。
「とりあえず、今決めるべきことはそれくらいかしら? もう夜遅いし、疲れているだろうから今日は寝た方がいいわ、リオ」
「フォノンは寝ないのか?」
「竜はそこまで睡眠が必要ないの。一週間に二時間くらい取れれば十分ね。趣味で寝る者もいるけれど。私は今から貴方の修練計画を立てることにするわ。添い寝はしてあげられないけれど、許してね。────『灑掃』」
フォノンはベッドに近づき、魔法を使った。
おそらくはベッドを清潔にする魔法だろう。
(便利だな……魔法)
それを自分も使えるようになると思うと、期待に胸が膨らむ。
しかし、それは力を手にするということ。
同時に怖くもなる。
天城彰のように堕ちてしまうのではないか、と。
ふと、ベッドを整えているフォノンの横顔を眺める。
(いや、俺にはフォノンがいる────)
堕ちそうになっても自分を諌めてくれる。
自らで自らを、より律することが出来る。
相棒というのはそういうものだろう。
「なぁ」
「ん、どうかした?」
「これからよろしくな、フォノン」
「ふふ、こちらこそよろしく、リオ」
◇◇◇
「……もうやだぁ、泣きたい……お家帰るぅ」
「弱音吐いてないであと一〇周よ!」
フォノンの課した特訓はそれはもう厳しいものだった。
始めはランニングによる基礎体力づくりから始まり、徒手空拳での組手や刃を潰したロングソードでの打ち合い。
運動とは長らく疎遠だった俐陽は涙が止まらない。
それと並行して、ボロボロの身体に鞭を打ちながら体内の魔力制御の訓練。
また、元々から俐陽の魔力量は膨大なものであったが、フォノンは「もっと魔力量が増えるか試してみましょう」と提案。
その悪魔のような提案により、体内の魔力を放出して枯渇させ、魔力欠乏で倒れて一日を終える。
そんな日々が続いたある日。
「今日は魔法適性を調べましょう」
「ついにきた! 魔法きた! これで勝つる!」
「……何その変な喋り方。それもオタク語録ってものなの?」
「そう。まぁ、反射的に出ちゃう持病みたいなもんだから気にするな」
そ、そう、と戸惑いながら、フォノンはあるものを取り出す。
それは無色透明の石だった。
「これは魔輝石と呼ばれているもの。魔力を込めると変色する性質を持っているから、それを利用して魔法属性適性を調べることが出来るの」
「へえ。便利だな」
「例えば────」
フォノンが魔力を込め始めると、魔輝石が赤くなった後黒く変色する。
魔力の充填を中断すると、次第に無色透明へと戻った。
「こういう風にね。私は火属性と闇属性が使えるから赤と黒に変色したの。分かりやすいでしょ?」
「そうだな。それじゃあ早速……」
「待って。多量の魔力を一気に込めると炸裂するからゆっくりね」
「はいよ」
フォノンから魔輝石を受け取ると、俐陽はゆっくりと魔力を込める。
色は、青色、薄緑色、黒色、そして白色。
「水属性、風属性、闇属性……し、白って、聖属性!? ……貴方って本当にデタラメよね」
「え、なんか凄いの?」
「聖属性魔法って、天人族にしか使えないって言われている魔法よ。変態ね」
「待て、なんで変態扱いされないといけないんだ」
「……魔法属性適性はわかったし、活計魔法から覚えていきましょうか」
「また聞いてないし」