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ドラゴン、そして気絶



 ドーム状の洞穴、その中央に陣取るは黒いドラゴン。


 

 岩よりも大きな巨体のそれは四肢を折って鎮座し、丸くなっている。

 寝ているようだが、息は荒々しく、少し開いた口からは太く鋭い歯がいくつも覗く。


 信じられない光景のあまり、俐陽は力が抜けて倒れそうになるが、辛うじて堪える。

 足の震えが止まらない。



(ヤバいヤバいヤバいヤバい…………! なんでこんなもんが現実(リアル)にいるんだよ!)



 焦りで余裕がなくなるも、静かに深呼吸をして、何とか気持ちを切り替える。


 このまま立ち尽くしているといつこのドラゴンに気づかれるかもわからない。

 そう考えた俐陽は、少しずつ後退する。


 しかし、ドラゴンを目の前にした緊張(プレッシャー)で身体が上手く動かない。

 そのまま足がもつれて転んでしまい、ドスンとひときわ大きな音を立ててしまった。



(終わった────!)



 気づかれた。

 目が、ゆっくりと開く。


 その漆黒の目は俐陽を捉えると、ゆっくりと真紅に染まっていく。

 そして、身体を起こすと翼を広げ、睥睨する。



「こ、こんにちは。え、えっと────」

『ここまで追って来たのね、アマギ一族』



 通じるのかもわからないまま弁解しようとした俐陽の言葉を遮るようにして、ドラゴンの言葉が脳内に直接響く。


 女性の声だ。


 ドラゴンの表情など分かりようがないが、その語気は何かを不愉快に思って、噛んで吐き出しているようなものであった。



「あ、あまぎ? だ、誰?」

(とぼ)けても無駄。その黒髪黒眼が何よりもそれを物語っているの。竜狩りに来たんでしょうけれど、この命、ただでくれてあげるつもりは────グッ!』



 言葉とともに俐陽にかかる威圧感が強まっていたが、突如、痛みに耐えているような様子を見せるドラゴン。


 よく観察してみると、その胴体には大きな一文字の裂傷が走っており、足元には赤黒い海が広がっている。

 呼吸が荒いのもおそらくはこの傷のせいか。


 痛みに耐えきれず、倒れ伏すドラゴン。



(に、逃げるか……? でも……)



 ドラゴンの視線は俐陽から外れている。

 逃げようと思えば、来た道を戻って逃げられる。



 しかし、俐陽にはこのドラゴンがどうしても敵だとは思えなかった。



 ここから逃げたとして何処へ行こうというのか。

 意思の疎通は図れるのだから、事情を話せば敵ではないとわかってもらえるのではないか。


 そして何より、目の前で今にも死にそうになっている者を放っておくのか。


 普段の自分であれば、こんな状況でやれることは何もない。



 だが、もう薄々気がついている。

 ここは今まで自分が生きてきた世界ではない。



 だったら、今の自分には何かやってあげられることがあるんじゃないか。


 目の前の命を救えるんじゃないか。


 憧れた『主人公』ってヤツに、なれるんじゃないか。



 ────やってやろうじゃないか。



 俐陽は覚悟を決める。


 荷物を全てその場に置き、ドラゴンに向かって少しずつ歩み寄る。

 向こうもそのことに気づいているようだが、もはや身体を動かすことも出来ていない。


 血溜まりに足を踏み入れる。

 踏み出す度に音が鳴るほど、地面に血が溢れている。

 これほどの出血量だともう長くはないだろう。



 ついに、ドラゴンの目の前に立つ。

 俐陽はその頭に手を添える。



 ここからは分の悪い賭け。

 この世界にあるのかも、あったとして使い方も知らない『魔法』で治す。

 ここが『これまでの世界』でないということだけを根拠にした、妄想の産物。

 しかし、それしかない。



 ただただ、「治れ」と。

 歯を食いしばり、それだけを念じる。



 身体の奥底から何かが溢れ出る感覚。

 ()()は黒い靄のような形で現出し、傷口を覆っていく。

 そして、淡く光る粒子が傷を流れるように埋めていく。



 靄が晴れた時、そこに残ったのは力強さすら感じさせる規則的に並んだ黒い鱗だけ。

 血肉の一つ一滴すら残っていない。



()()やったぜ」



 俐陽は気絶し、後ろに倒れ込んだ。



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