ーただ貴方を探していたんだー
side 少年
君は今日も泣いている。
暗い部屋の中、聞こえてくるのは微かな泣き声とカチリ、カチリという時計の針の音。
窓には月の光が差し込む。
その光が、少女の髪を静かに照らす。
早く、こっちにおいでよ…。
そしたら僕は
君をそっと抱きしめられるのに。
side少女
今日も、気がつくと涙が零れ落ちた。
「弱すぎ…」
小さく、自分に毒づいた。
ふと、時計の針を見る。
「はっ!」
声をあげた。
「…行かないと」
すっかりと身体に馴染んだ浴衣の姿で
慌てて家を飛び出した。
カラッ、カラッ、
少し小さくなった下駄が心地よいリズムを
奏でる。
遠くから、お囃子の音が聞こえてくる。
時折、浴衣姿の人達とすれ違う。
1人で居るのは私だけだった。
走る…走る…
何かを追いかけるように。
何かに追い抜かされないように。
お囃子の音が近づいてきた。
どっと、人混みに紛れてしまう。
途端に人と食べ物の匂いに襲われる。
「うっ…」
気持ち悪くなって慌てて人混みから抜け出した。
田舎の祭りなだけあって少し離れに向かうとすぐに雑木林の中に入る。
「遠くに来すぎた…。戻らないと、
森に背中を向けると
チャリン…
何かの音が聞こえた。
慌てて振り返って
ドクンッ…
心臓を掴まれたような動悸に襲われた。
「この先に…、貴方は居るの?」
一歩、また一歩。
進んではダメだと分かっているのに、
足が勝手に動き出す。
先を見ると霧がかかってる。
これ以上行ったら危険…そう思った瞬間
ガッ!!
激しい音が立って、足元で何かに引きずり込まれた。
次の瞬間、意識が消えた。