表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第1章 地球から異世界へ
9/76

第8話 Side:神木刻斗の記憶② 覚醒の咒鬼


「任務とは言えやってられないわ。車が通れる道すらないなんて、よくもこんな山奥に住めるわね」


「気持ちは解るが、そうぼやくな。この子供たちは、俺たちが出張るほどの素材だということだ。女児の方は特A級の能力者なのだから、逃亡でもされたら大事だぞ」


「そういう意味だと、世間を知らない純朴さは好都合ね。だからって山道を歩くのが楽になるわけじゃないけど」


 村を出た俺と色葉は、男たちが囲む中央を、スーツ姿の男女に付いて歩いた。

 男女は英語を話していたので言葉は理解できなかったが、女が不機嫌なのは一目瞭然だった。


 山の麓まで下りると、そこには大型のヘリコプターがあった。

 村の上空を飛ぶヘリを見かけたことはあったが、こんなに大きくて黒塗りのヘリは見たことがなかった。


 ヘリに乗せられた俺たちは、景色を見ることも許されず、ただ座って一時間ほど移動した。

 その時の俺は、この先に残酷で非人道的な生活が待っている事など知る由もなく、ただ村から出られた喜びに浸っていた。


 ヘリが降りたの場所は基地だった。

 俺と色葉は、スーツ姿の男女と共に小型ジェットに乗り換えて飛び立った。

 飛び立つとすぐに、食事として焼いた肉と野菜、そしてパンが出された。

 パンを知ってはいたが、食べたことはなかった。肉の味も醤油や味噌ではなく、食べたことがない味だった。

 俺は嬉々として食べたが、色葉はずっと悲しい顔をしたまま、食事に手を付けずにいた。


「これ美味しいよ。色葉も食べなよ」


「刻斗、この食べ物には…。ううん、何でもない。いただきます…」


 俺たちの向かいに座っていた男女は、色葉が食事に手を付けるのを満足そうに見ていた。



 俺は飛行機で眠ってしまい、目が覚めた時は、殺風景な部屋に置かれたベッドの上だった。

 一瞬不安になったが、隣のベッドで寝ている色葉に気付き、すぐに落ち着いた。

 色葉を起こそうと思い立ち上がると、部屋のドアが開いて人が入って来た。

 白衣を着た男が二人、そして俺たちを連れてきたスーツ姿の男女だった。


 白衣を着た男が色葉に注射器を向けるのを見た俺は、咄嗟に身を割って入れた。


「これは覚醒剤だから心配いらない。彼女の目を覚ます薬だ」


 白衣の男が話したのは日本語だった。


「薬なんか使わなくても、色葉はもうすぐ起きると思う」


「そうかもしれないが、こちらにも都合があってね。君も彼女と一緒の方がいいだろ?」


 スーツ姿の男が俺の肩を強引に掴み、白衣の男が色葉に薬を射った。


「ぅん…刻斗?」


「そうだよ色葉。大丈夫?」


 色葉が起きると、すぐさま俺たちは別の部屋へ連れて行かれた。

 連れて行かれた部屋には沢山の機械があり、壁一面がモニターになっていた。

 モニターには意味の解らないグラフが映され、数字以外は全て英語だった。

 俺と色葉は椅子に座らされ、日本語を話す白衣の男がモニターの前に立った。


「リヴァームズへようこそ。君たち二人は、被験体としてここで生活することになる。神前色葉は被験体番号76、神木刻斗は被験体番号77と呼称される。君たち二人が従順であることを望む。まあ、従順にならざるを得ないのだがね」


 白衣の男は、酷く歪んだ気味の悪い顔でそう告げた。



 それからの生活は、只々悲惨だった。

 俺と色葉は得体の知れない薬物を投与され続け、様々な機械に繋がれてデータを取られた。

 気絶すれば薬剤で無理矢理に覚醒させられ、時には手術台に拘束されて、無麻酔で体を開かれたりもした。


 食事は栄養剤を点滴され、三日に一度だけ、栄養補助固形物を経口摂取するだけだった。

 眠いからといって寝れるわけでもなかった。

 強引に覚醒され続け、実験が終わったら睡眠薬を投与されて眠らされる。

 時間の感覚などすぐに失われ、逃げ出したいと思考することすら不可能になっていった。


 安らぎを感じたのは、稀に色葉と一緒に実験を受ける時だけだった。

 お互いに力なく微笑むだけだったが、その時だけは自分が生きていることを感じられた。

 時間の感覚は失せていたが、実験室のモニターに写り込んだ自分の姿を見れば、身長が成長しているは判った。

 色葉も身長が伸び、胸も女性らしく膨らんでいた。


 ある日、『今日は自由時間を与える』と言われ、いつもと違う部屋へ連れて行かれた。

 自由時間の意味を解することすら出来なかった。

 窓もない部屋にはベッドがあるだけで、俺はベッドに座って膝を抱えていた。


 暫くすると、その部屋に色葉が連れて来られた。

 色葉も無言で俺の隣に座り、俺と同じ様に膝を抱えた。

 俺も色葉も会話をする事すら思いつかず、時間だけが無為に過ぎていった。

 すると突然、天井に埋め込まれたスピーカーから男の声が流れた。


「76番、77番、折角の自由時間だ、会話の一つも楽しみたまえ。76番は、77番に告白すべき事があるのではないのか?」


 俺と色葉は天井に視線を向けた後、徐にお互いの顔を見詰めた。


「刻斗…ごめんなさい。私は、こうなる事がわかってた…」


 しゃがれた声でそう言われたが、俺には意味が解らなかった。

 俺は久しぶりに思考した。

 こうなる事がわかってた? …え?


「被験体にされるのを…知ってた?」


「ごめんなさい…」


 瞬く間に脳が覚醒し、怒りとも悲しみとも判別できない感情が、俺に内に湧き上がった。


「何で!?誰から聞いたの!?なんで知ってたのに何で村を出たの!?」


「聞いたんじゃないの。夢見じゃない私のもう一つの異能、“悟り”で知ったの。私の悟りは、人の考えが見えるの。ここの人たちが村へ来たあの日、スーツ姿の二人の考えが見えたの。それでも村を出たのは…私を好きでいてくれる刻斗が、独りで酷い目に合うのが嫌だったから…」


 愕然とした。

 色葉の異能にじゃなく、色葉が俺と一緒に残酷な生活を送る道を選んだ事に、只々愕然とした。


 俺は馬鹿だ。俺は糞だ。

 唯一無二の大好きな色葉に、こんな残酷な未来を選ばせてしまった。

 そんな自分に激怒した。

 そんな自分に殺意を覚えた。

 そんな自分と世界を、心の底から呪った。


―――ドクンッ!


 激情と共に、俺の魂が叫びを上げた。

 俺の中で目覚めたモノを、一瞬で理解した。

 俺の中で、鬼の呪いと新たな能力が生まれた。


 瞬間、これをリヴァームズに知られてはいけないと考えた。

 鬼の力を高め、千載一遇の機会を待ち、色葉と共に脱出すると誓った。


 俺はまたしても、目先の状況に踊らされていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ