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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第1章 地球から異世界へ
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第7話 Side:神木刻斗の記憶① 不死の忌み子


 俺と同じく不死…不滅だったか?兎に角、俺の同類だと主張するヤツが、俺が生まれてから十八年間分の記憶を補完した。


 俺は呆然としながらも、補完された記憶と、これまでの人生を振り返る。

 …どうやって補完した?考えるだけ無駄だな、解るわけねぇ。

 その記憶が本物なのか、消された期間が本当に十八年間なのか、そこには保証も確証もない。


 俺が持つ記憶は、生体兵器として稼働を始めた後の、十三年間分だ。

 記憶の無い期間が本当に十八年間ならば、俺の実年齢は、三十一歳になる。


 今時、記憶の改竄なんぞは、外科的手術と薬物でどうとでも出来る。

 補完された記憶は酷いものだが、俺と色葉の咒や、直近十三年間の状況に照らせば、妥当なものではある。

 俺がこれ程までに腐った人間性を示すのも、納得できる内容だ。


 記憶が本物なら、色葉はやはり死んでいる。

 復讐の最中に、色葉が死んだであろう事は窺えたからな。

 念の為に行方を調べてはみたが、判ったのは俺と同郷で、俺と同じく死亡届が出されていた事だけだ。

 であれば、やはり俺は死ななきゃならない。そして色葉に謝らなきゃならない。

 まあ、何をやっても死なねぇから、終われなくて困ってるわけだが。


 この世界に、俺の居るべき場所や、するべき事はない。

 故郷の村に戻るもない。

 いや…クソ親父だけは殺っとくべきか?



-------------------------------------



 俺は日本の寒村で、地主であり村長でもある家の、長男として生まれた。

 日本最後の秘境と言われるような山奥にあり、時代に取り残され、惰性で農林業を続けているような村だった。


 おまけに、数千年の昔にこの村を開いたのは鬼人で、俺たちは鬼人の末裔だという荒唐無稽な伝承が、さも真実かの如く語られていた。


 村を捨てた若者で村に戻る者は皆無で、そんな村に移住してくる者がいるはずもなく、村では昔から近親婚が当たり前のように繰り返されていた。

 血は濃くなり、遺伝的リスクも高まり続け、村では奇形児や精神障害児の出産が相次いだ。


 そんな村で産み落とされた俺は、死産だった。

 白い布に包まれた俺は、鬼の祖が姿を変えたと伝えられる、巨岩の傍らに土葬された。


 俺が産まれて土葬された日から七日後、村の婆さんが、経を唱えるために御神岩を訪れた。

 そこで婆さんが見つけたのは、引き千切られた白布と、泥に塗れて泣いている俺だった。


 俺は“黄泉戻り”と呼ばれて忌み嫌われたが、地主の長男であるからとの理由で生かされた。

 俺を生かした当の両親にも、俺は距離を置かれていた。

 あからさまに嫌うような言動はないものの、幼少の時分から仕事をさせられ、食事も風呂も最後で独りだった。


 俺が五歳の頃、俺は馬小屋の掃除をしろと命じられた。

 村では農耕・木材運搬用として馬三頭を飼っていて、馬小屋掃除は、男の子供の仕事だった。

 馬小屋掃除をしていた子供が十二歳になり、山仕事を手伝うことになった為、俺が後釜として掃除を任された。

 掃除のやり方を事細かく俺に教えてくれる人などおらず、俺は毎日ビクビクしながら掃除をしていた。


 俺が掃除にも慣れてきたある日、俺が馬の背後から不用意に近づいた為、驚いた馬が俺を蹴り飛ばした。

 馬の嘶きを聞きつけた母親が駆け付けると、そこには頭半分が陥没して血塗れの俺が倒れていた。

 母親が馬小屋へ入ろうとした時、俺を蹴った馬が、異様な声を出しながら横倒しに倒れた。

 倒れた馬は体内の水分を抜かれるように干乾びたが、俺の陥没した頭は瞬く間に復元し、出血も止まった。

 次の瞬間、俺は何事も無かったように目を開いて立ち上がり、『お母さん、何があったの?』と母親に尋ねた。


 それ以来、俺は両親を含めた皆から“命吸いの忌み子”と呼ばれ、完全に孤立させられた。


 そんな俺にも、変わらず優しく接してくれる人が、一人だけいた。

 それは、村の神事を取り仕切る神前家の長女、神前色葉だった。

 色葉は俺より二歳年上の綺麗な顔立ちの子で、俺を見つけると話しかけてくれたり、仕事を手伝ってくれたりした。


 色葉は、特殊な能力を持って生まれた子供で、村では神子と呼ばれていた。

 その能力は“夢見”だった。

 夢見は、抽象的だったり曖昧だったりしたが、予知夢のような能力だった。

 色葉は夢見で俺の将来が見えたらしく、『刻斗は大義を成す星の下に生まれた、特別な人だよ』と教えてくれた。

 俺は大義の意味すら解らなかったが、いつも笑顔で優しい色葉のことが、大好きだった。


 俺が七歳、色葉が九歳だったある日、村に来訪者があった。

 迷彩服を着た大柄な男たち八人と、黒いスーツを着た男女が二人、全員が外国人だった。


 迷彩服の男たちが俺の家を囲み、俺の両親とスーツ姿の男女が家の中へと入っていった。

 俺は外国人を初めて見たので気になったが、畑の雑草抜きを終わらせないと、食事をさせて貰えないので我慢した。


 一時間くらい経った頃、『家に来い』と母親が俺を呼びに来た。

 家に入って目についたのは、目を閉じて難しい顔をしている色葉の父親と、悲壮な表情で俯く色葉の姿だった。


 父親に促されて俺が座ると、父親は俺と色葉にこう告げた。


『刻斗と色葉を村から出して、寮のある学校へ通わせることにした。これはお前たち二人と、この村の将来のためだ。先生方の指示に従って、精一杯努めろ』


 俺の村には学校がなかった。

 村の子供は通信教育で義務教育を終わらせると、そのまま村で農林業をするのが普通だった。

 村で嫌われている俺は、単純に『村を出て学校へ行ける』と内心で喜んだが、前々から『学校に通ってみたい』と言っていた色葉が、悲しそうにしている理由は解らなかった。


 俺と色葉は、『直ぐに荷物を纏めて出発しろ』と言われた。

 俯いたまま出て行く色葉のことは気になったが、俺がもっと気になっていたのは、家に入った時からずっと父親が手を添えて離さない、黒いブリーフケースだった。


 この日、俺と色葉は、兵器開発機関リヴァームズ(Livarms)に売り渡された。


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