第70話 帝国への対処:終結とカルト教誕生
あと3~4話で帝国の話は纏めるつもりです。
終盤で冥王召喚します。
楽しんで頂ければ幸いです。
三卿を順次拉致した俺は公都の屋敷へ瞬間移動し、三階の会議室で腰を下ろした。
当初は会戦場から帝都方面へ少し後退した場所にテントを出すつもりだったが、戦場から帝都へ走るグリムが『予想以上に暗部の斥候と後方連絡員の数が多いにゃ』と報告してきた。
出したテントが斥候の偵察に引っ掛かってしまったら、それは違和感以外の何物でもない。それを嫌って公都へ飛んだ。
「このカイラン、西部領主貴族家を代表し、アレイトス皇太子殿下にお詫びを申し上げます」
「カイラン、モーズリー、ペリドン、三人とも頭を上げよ。帝国の現状は皇族である我らに最大の責があるのだ。それに今は互いの不明を嘆いている場合ではない。天王山はこれからぞ」
「畏まりました。我ら西部三卿、帝国への忠誠を改めて誓う所存にございます」
俺が『忠誠なんて言葉で誓うもんじゃないだろう』と思いつつ眺めていたら、三卿が俺の横へ来て膝を突いた。
「キル殿より受けた此度の温情、我ら終生忘れる事はありませぬ。心底より感謝を」
「俺に感謝する必要はないさ。俺は己の利益の為に働く傭兵だ。全ては雇い主である皇帝の意向に沿ったまでの事だ」
「キル殿には敵いませぬな…。あの筆舌に尽くし難い業を以て挙げた戦功を、さも些事の如く投げ打たれるとは」
「そう評価してくれるのは嬉しいが、殿下が言った通り佳境に入るのはこれからだ。この場は三卿が殿下と言葉を交わしたいだろうと設けたに過ぎない。これで帝国主従の蟠りも解けた事だし、公爵軍の始末に向かうとするか」
「「「承った」」」
グリムから『斥候と本隊周辺の暗部は始末したにゃ』との報告を受けた俺は、公爵軍の背後500m地点にジェイドとフェリを配置した後、公爵軍の前方300m地点に横並びで立ち塞がった。
この場に立つのは俺とルル、アレイスト、レイティア、ブラッド、三卿の八名だ。
忽然と姿を現した俺たちを見て、公爵軍の前衛が騒めきと共に行軍を止めた。
公爵軍の停止を確認して歩み出るアレイストに拡声術式をかける。
「我はアレイトス・ガルドニア・ヴァン・ガルダインである!指揮官は前へ進み出よ!」
増していく騒めきの中、一騎の将官を先頭に二十人の歩兵が進み出た。
将官がアレイストから10m程の距離で下乗し、更に5m程の距離まで進んで片膝を突くと、後方の歩兵二十名も膝を突いた。
「…これはアレイトス皇太子殿下、もしや敗走の途中でございましょうか。いやいや、敗走にしては早すぎますな。まさかとは存じますが…敵前逃亡をなされた?」
「アザトス伯爵よ、我は逃亡も敗走もしてはおらぬ。後ろに立つ西部三卿を見ても判らぬのか?卿に伯爵の位は過ぎた物の様であるな」
アザトスなる伯爵は一瞬だけ顔を歪めたものの、現状を理解できずに逡巡している。
それもそうだろう。アレイストは逃げてないとは言ったが、反乱軍を殲滅したとは言ってない。
ここで歩兵二十人の内、十人に動きがあった。
正確には動きではなく、僅かな殺気を漏らした。
俺はアレイストの前へ出て口を開く。
「そこの暗部十人、一筋でも動けば斬る」
俺はそう告げて、収納庫から刀を帯刀状態で出した。
アザトスと歩兵二十名が驚愕と共に体を僅かに退いた。
「で、殿下!この輩は何者にございますか!?あ、暗部などと埒も無い言い掛かりをつけるとわ!」
「アザトス、白々しい演技など止めよ。我らは既に反乱軍の殲滅を成したのだ。キルよ、殲滅数は幾らだったか?」
「皇帝陛下の勅旨に従った西部三卿の軍を除く258475人です。これには暗部二百と部隊長二名も含まれます」
―――斬ッ!!!!!!!!!!
一つの斬撃音を残して歩兵に扮した暗部十名の首が宙を舞った。
俺は既に元の位置に納刀状態で立っている。
アザトスは最前列で膝を突いている為に見えていないが、頭部が地面に落ちる音を聞いて背後を振り向いた。
「…呆れたな。キルは剣術と体術まで非常識なのだな」
「動けば斬ると警告はしただろう?動いた暗部が悪い。俺は悪くない」
「いや、良し悪しの話ではないのだが…。キルはちと被害妄想の気が強いぞ?」
手で顎を支え『ナンテコッタ』と省みる俺を他所に、アザトスは『ヒィッ!?』と慄いて尻餅を突き、残った歩兵十名は転がった首や噴き上がる血液を避けようと後退った。
俺はアレイストの頷きを確認し、拡声術式で降伏勧告を行う。
これだけは必須だとアレイストから言われたからだ。
「公爵軍と暗部九十名に告ぐ!反乱軍三十万人はアレイトス殿下により殲滅された!死を望まぬ者は武装を解除し、うつ伏せになって両手を頭の後ろで組め!それ以外の者は一人と残さずに殲滅する!逃走を計る者も殲滅対象になると心せよ!以上だ!」
アザトスと歩兵十名が這う這うの体で本隊へと逃げ戻って行く。
それを見るアレイストの目は哀れみに満ちていた。
「全軍狼狽えるな!あれはアレイスト殿下などではない!偽物の世迷言などに惑わされるな!弓兵は矢を放て!魔術師隊は補助術式の詠唱を開始しろ!騎馬隊は前へ!知れ者どもを斬り捨てよ!我が隊は左右から押し囲め!不逞の輩どもを一人たりとも逃すな!」
この拡声された声は部隊長Aだ。
軍隊指揮も執れるんだな…元々は軍人か?
が、一人も逃がさないとはこっちの台詞だな。
「境地合式―【攻性牢壁】」
公爵軍五万人を半透明の黄土色をしたドーム型結界が覆った。
この結界壁は1m以内に接近した生物に向けて岩槍が突出する攻撃特性を備えた牢獄型結界だ。
接近する生物の大きさに合わせた岩槍が突出する為、軍馬には太い円錐が壁から突出する。
しかも境界魔術の空間反転術式との複合である為、放たれた矢や攻撃魔術は漏れなく放った本人に返ってくる仕様だ。
断末魔を上げて次々と串刺しになる公爵軍を見たアレイストが呟く。
「な…なんて物を現出させるのだ…」
「合理的だろ?相手が戦意喪失するのを待つだけでいい」
「戦意を失わない者はどうなる?」
「岩槍が止まったら俺とフェリが中に入って敵性者だけを始末する。フェリは精神干渉系の魔術では俺よりエグイから、降伏した振りをしている潜在敵性者は、どんな拷問よりも非道い悪夢と苦痛を味わって死ぬ。俺に斬られて死ぬヤツは万倍も幸せだろうよ」
「あの見目麗しいフェリ殿が…」
「お前なぁ、フェリは俺でも敵に回したくないと思う程の真性サディストだからな?フェリが悪夢を植え付けて殺したクィーンサキュバスの死に様を見せてやりたい」
「なんと…今後は言動に気を付けねば。それで、降伏した者はどうするのだ?我らだけでは管理できまい?」
「降伏した者には、反乱軍を殲滅した映像を記憶として植え付けた後にこの場で解放する。『アレイスト殿下に逆らった者は惨殺される』と盛大に喧伝して貰う必要があるからな」
「な…なんと悪辣な…」
「三大公爵の手勢から選抜された精鋭なんだろ?喧伝効果は絶大だ」
「私が悪魔の如く思われるではないか…」
「宿命だと諦めろ。将来は独裁的な凶皇帝にもなれるぞ?」
「馬鹿を言うな。そんな事をしたらキルが殺しに来るだろうに」
「良く解ってるじゃないか。これで帝国もテスラも当分は安泰だな」
「ああ、私は賢帝と呼ばれるべく精進していくのだ」
「その言葉が聞ければ俺に文句はない。お、岩槍が止まったな。ちっと行ってくるわ」
「うむ、すまんが宜しく頼む」
「任された」
フェリの居場所へ瞬間移動すると、そこには数名の死体が積まれていた。
フェリは爆乳を持ち上げる様に腕を組んで人差し指を顎に当て、ウフフフ…と妖しく嗤っている。
そんなフェリを半眼で見るジェイドの目からは色が消えていた。
「またドSなことしたのか?ジェイドの魂が抜けそうだぞ?」
「えー、だってこのところ暇だったんだもん。キルもあたしを抱いてくれないしぃ?」
「いやいや、それとフェリの真性ドSは関係ないだろ。まあいい、結界内に飛ぶぞ。ジェイドはアレイトスたちの元へ戻ってくれ」
「はーい♪」
「は、はい。承知しました」
俺とフェリが結界内へ姿を現すと、中央に密集した公爵軍が身構えた。
壁際には死体が山積みになっている。
「ん?一人も降伏しないのか?見上げた根性だが、賢いとは言えないぞ?」
「おバカさんは死ななきゃ治らないわね♪」
「ま、待ってくれ!いいえ、待ってください!この中でうつ伏せ状態なんて怖ろしくて出来ませんから!」
む…確かに。これは俺の思慮が足りてなかったな。
安心して降伏できる仕様を追加しなくては。
俺は背後の結界壁に大人一人が通れる程度の穴を開けた。
「降伏する者は武装を捨ててこの穴から外へ出ろ。外へ出たらうつ伏せになれ。言っておくが、外には圧殺熊ガディウスを真正面から秒殺した銀狼の英雄がいるからな?まあ、自殺志願者は挑んでも構わんが」
俺がフェリに目配せをすると、フェリが穴の手前に精神干渉フィールドを形成した。
このフィールドは通過する者の潜在意識を読み取り、敵性者には例の“死後も永遠に続く悪夢”が掛けられる。
俺が最初の犠牲者は誰だろうと考えながら穴への道を譲ると、暗部の部隊長Aが最初の投降者として進み出て来た。
それを見た兵たちが騒めき、後ろから罵声が上がった。
「あんたはさっきまで突撃を命じていた将官だろうが!せめて最後に投降しろよ!」
「「「「「そうだ!卑怯だぞ!」」」」」
部隊長Aは忌々しそうに舌打ちをした後、俺に向かって口を開いた。
「確かに私は将官ですが、半ば無理矢理に公爵様の厳命付きで雇われた傭兵です。私は帝国へ戻った後に公爵様の手で処刑されるでしょう。それでも投降すべきだと判断しました。それは許されない仕儀でしょうか?」
上手い事を言うもんだ。
投降した振りをして最初に外へ出て近傍の暗部へ通信を送り、あわよくば逃走しようって腹積もりだろう。
その証拠に、こいつは懐に暗部の簡易通信機を隠し持っている。
「いや、構わないぞ。穴を通れるのは一人ずつだが、降伏する気持ちに先も後もない。但し、三大公爵をはじめとする文官貴族の命とは言え、お前たちが帝政腐敗に加担した事実は変わらない。俺は皇帝陛下とアレイスト殿下から『反意ある者に容赦は無用』と言われている。お前たちが心底よら悔い改め、今後の帝政を正しい方向へ推し進めると誓うのならば、この穴から外へ出ればいい」
「はい。私は一介の傭兵ですが、正しき帝政の礎としてならば、死して尚本望です」
部隊長Aの殊勝な返答に対し、俺は死力を尽くして慈悲の微笑みを浮かべた。
前世も含めて過去最高の難易度の仏顔だった。
部隊長Aが俺とフェリの間を抜ける様に歩を進める。
フェリが既に恍惚とした表情に変わりつつある…困ったヤツだ。
「うわぁあああああっ!?ひっ!ひぃぃぃっ!?ぎゃぁあああーっ!止めっ!止めてっ!!うぎゃぁぁぁあああああーーーっっ!!!
絶叫を上げて冗談みたいに転げまわった部隊長Aが、顔を掻き毟り、自分の手指を食い千切り始めた。
骨が剥き出しになった指を両眼に突き刺して掻き回す様にして抉り出す。
あーあ…兵士の死体を食い始めちゃったよ…
俺は抜刀して部隊長Aの首を刎ねた。
ゴロリと転がって上を向いた部隊長Aの顔は、未だに表情筋をピクつかせて苦悶の表情を露わにしている。
血を吹き出しながら跳ねる様に痙攣する胴体が、徐々にその動きを弱めていった。
フェリはすげぇイイ顔してる…
禁術に指定するべきか?でも効果は抜群なんだよな…
うん、深く考えるのはよそう。
俺は戦慄の声を漏らしている兵たちに向き直って告げる。
「見たとおり投降の偽装は不可能だ。皇族をはじめとする帝国に潜在的反意を持つ者は、極めて悲惨な末路を辿る事になる。このフェリは暗黒魔術の達人だ。大魔女フェリカの名は帝国でも知られているだろ?掛け値なしの親切心で言うんだが、この悪夢は死んで尚続く。こうして首を落としても、こいつの悪夢は未来永劫の時を刻む。皇族や帝国への反意を捨てられない者には自害を勧める。少なくとも死後の安寧は得られるだろう。たぶん?」
―――ガラン、ガシャ、ガシャン、ガラッ…
兵たちが一斉に武器を捨て防具を脱ぎ捨てた。
暗部も同様に武装を捨て、簡易通信機も投げ捨てる。
数名の暗部は服毒自殺をした様だ。
俺は結界の穴を拡げ、フェリは精神干渉フィールドを拡張した。
最終的には四十六名が果てない悪夢を見ながら絶命したが、四万人弱の兵が投降する結果となった。
うつ伏せを解除して整列させた投降兵たちは、アレイストが前に立った瞬間、額を地面に擦り付けて平伏した。
結構な人数が号泣しながら懺悔の言葉を吐き続けている。
俺が死体を収納し結界を解除してアレイストの側へ行くと、アレイストが頬を引き攣らせながら問いかけてきた。
「キル…何をどうすればこんな状態になるのだ?子羊より従順なのだが…」
「だから言っただろ?フェリは敵に回したくないって。俺の殺しとフェリのそれとでは精神的負荷が段違いだ」
「先程の人のものとは思えない阿鼻叫喚の原因はフェリ殿なのか…」
「あの爆乳には死神が各一匹ずつ宿っていると考えろ」
「き、肝に銘じよう…」
俺はモーズリー伯爵とペリドン伯爵、そしてフェリの三人に投降兵を任せる事にした。
当初はブラッドに任せるつもりだったが、モーズリーとペリドンから『我らの意はカイラン卿と共に在りますので、次代のエスタシオン公爵殿をお連れください』と言われた。
流石に二人だけではリスクが高いので、完璧に恐怖の象徴と化したフェリを付ける事にした。
俺がそれを投降兵たちに伝えると、投降兵たちが一斉に跪き『大魔女様!我ら愚者を正道へお導きくださいませ!!』と絶叫していた。
魔女教が誕生してしまった。間違いなくカルトだ。
何故かジェイドだけは感慨深そうにうんうんと頷いていた。
可哀想なジェイド…既にサキュバス戦でフェリの黒い艶に精神汚染されていたらしい。
哀れみの視線をジェイドに向ける皆を連れ、俺は帝城へと瞬間移動した。




