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咒言鬼神の転生譚 ~神に請われる神殺し~  作者: TAIRA
第1章 地球から異世界へ
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第6話 魔力と気力の鍛錬法


 優しく柔らかな感触を頬に得て、目が覚めた。

 そこには、柔和な微笑みを湛えた、美しい女性がいた。


「おはよう、キルアス。貴方に神のご加護があらんことを」


「あぁうぁ…(母上…)」


「私を呼んでくれているのね?愛しているわ、キルアス。でも、あまりクリスタを心配させないでね?」


 母上などという言葉を、俺は使ったことも、使おうと考えたこともない。

 しかし、俺は終生、この女性を母上と呼んでしまうに違いない。


 陽光に煌めくサファイアブルーの髪、視線を惹き付けて止まないアーモンドのようなバイオレットの目、ぷっくりとした涙袋が、美しさと愛らしさ同居させている。

 見惚れるとは、こういう状態を言うのだろう。



『綺麗な人よね。神さえも嫉妬する美貌だわ』


『うむ!神々に祝福されし血統に相応しき美しさである!!』


(あ、ディア先生とマル…マルティネス?)


『マルティアドであるが故に!!』


 マルティアドね、マルティアド。憶えられないのは外見のせいだろうか。


(いや、驚いたよ。青い髪も紫の瞳も初めて見た。俺の髪も青いの?)


『あら、キルは青みがかった銀髪よ。鏡を見たことがないのよね。イメージを送ってあげる』


 おぉ、不思議な感覚。

 ディア先生から見た角度の俺が、脳内に映し出されている。


 なにこの美乳児。乳児って、もっと猿っぽいんじゃないの?

 これは、人生イージーモード確定じゃないですか。

 ん?目の色が左右で違うな。オッドアイってやつか、初めて見た。

 うむ、母親似、僥倖である。


(ありがとディア先生。ところで、今日は二人なの?)


『私はキルと二人きりが良かったのだけど、この脳筋が言うこと聞かないのよ』


『脳筋ではないのである!そもそも、吾輩は脳を持たぬ故に!!』


『ホントうるさいわね。まあ、魔力と気力は並行して鍛錬する方が、効率的なのは事実だけど』


(気力の鍛錬?)


 マルティアドが大声で説明を始めた。ボリュームのコントロールは出来ないらしい。

 気力とは、体内を不断に流れる生命エネルギーの源である。

 魔素と同様に、質量をもつ物質として宇宙や地上に存在し、体内器官を循環させることで濃縮・活性化され、物理的なエネルギーに変換することも可能になる。

 エネルギー変換した気を勁と呼び、勁を爆発的な物理攻撃力とする技術を発勁という。

 気力の鍛錬に際しては精神の安定が重要であり、精神の安定は揺るがぬ心を育てる。

 武術の根幹にして極地は、心・技・体・魂の統合的調和だが、心・技・体を修めなければ、魂の鍛錬は不可能である。


 あー、うん、気功なかんじでしょ?

 実は俺、出来るんだよね。気功じゃなくて咒だけど。

 咒で使うのが魂力ってことは、気力も類似品だろ?もしくは下位互換?

 金剛の咒式を起動する要領でやれば、気力も感じられるはず。


 しかし、魔力の鍛錬と並行する方が効率的、ってのは解んないな。

 魂の鍛錬なんて、もっと解んないけど。


(並行で鍛錬すると効率的な理由ってなに?)


『魔力と気力の鍛錬が、体内器官を使って、細胞レベルで循環・濃縮・活性化をする点で同一だからよ。練達すれば、魔力循環は体内に魔力路を実感できるし、気力は体表に纏ったり、視覚的に捉えたりも出来るようになるわ』


 なるほどね。

 金剛を使う時に見える黒い螺旋の渦が、俺の魂力だろうな。部分的でも全身でも纏えるし、気力はすぐ出来そうだな。

 魔力も同じなら、体内だろうが体外だろうが感じるのは…ん?体内?


(ディア先生、魔力は擬似器官を使うんだろ?体内で実感するってムリじゃね?)


『キルはそういう事、凄く気にするわよね?とても良いことだけど』


 ディア先生によると、擬似器官って言うのは、現界の魔術師が提唱した説らしい。

 実際の魔術器官は、膨大なエネルギーを許容する虚無空間に在る。

 虚無空間は神ならざるものにとって、不可視・不可侵の領域だが、そこは歴とした空間宇宙で、四つのベクトルが張る四次元だという。

 虚無空間と現実空間の位相を合せることで、魔術器官を実感しつつ、魔力を制御することができる。


 …また謎きたよ。

 むしろ『教えない』とか『知らなくていい』とか言ってくれる方がいいな。

 じゃあ聞くなって?

 New児で乳児な俺には、神との会話しかする事ないんです!

 今朝もやる事ないから、窓から見える太陽をボーっと眺めてたら『キルアス様はお泣きになりませんね…少し心配になります』ってクリスタに言われたし。

 あ…母上が俺に言ったのは、この事だわ。

 たまには泣いとかないとマズイか?


(ディア先生、マルティアド、聞いた俺が悪かった。理屈は終わりだ、鍛錬方法を教えてくれ)


『吾輩のことは先生と呼ばないのであるか!?』


(あのなぁ、そういうのは、呼ばせるんじゃなく、呼ばれるものなんだよ。だから脳がないのに脳筋って呼ばれるんじゃねーの?)


『ふふ。キルの方が二~三枚上手ね』


『ぐぬぬぬぬぬぅ…』



 斯くして、俺は鍛錬を始める事となった。

 先ずは魔力と気力を感じることから始め、次に循環、そして包括的な制御の鍛錬へと至るのだ。


『キルは、既に大きな魔力を体に内包しているわ。魔力にも気力にも波動があるの。キルにはキルの、私には私の波動があって、一つとして同じものは無いわ。お臍の少し下辺りに意識を集中してみて。静かな水面のような場所からエネルギーを感じるはずよ』


 集中する為に目を閉じると、クリスタは俺が眠ったと思い、部屋を出ていった。

 臍の少し下…臍下丹田のことだろうか。

 集中が高まるにつれ、窓を叩く風音や、暖炉の薪が小さく爆ぜる音が消え、静寂の世界が広がる。

 恰も、意識が宇宙空間をゆっくりと歩いているような感覚だ。


 あれ…か?

 色のない水を湛えた、広大な湖が見えてきた。

 闇夜の湖を見ているようではあるが、視界は至ってクリアだ。

 広大な湖の全容を見渡すことが出来る。


 すると、色のない静かな水面の中央から、白銀に輝く雫が一つ、浮かび上がる。

 瞬間、水面が白銀に輝く無数の雫で覆われた。

 浮かび上がった無数の雫は、重力を無視して天へと還る雨粒の如く昇る。

 次々と浮かび上がる雫で水面は埋め尽くされ、視界は輝く白銀に染められた。

 輝く白銀は螺旋を描く渦となり、凄まじい勢いを以て遡る。


――うおぉおおっ!?


 下から上へと全身を突き抜けるような、膨大なエネルギーを感じた。


 ふーん、これが俺の魔力か…って考えてる場合じゃねーか?

 ちょっと勢いが激し過ぎじゃね?

 もちっと、こう、ゆっくりな感じで…そうそう、そんな感じ。


 白銀に輝く螺旋の渦は、俺の意思と共鳴するように勢いを減じ、やがて、天へと通じる一本の柱が如く聳え立った。

 宛ら巨大な白銀の石柱だが、実際には魔力が湖から天に向かって、静かにゆっくりと流れているのを感じる。

 逆に、湖の深底からは、魔力が同じように湧き上がっているのも感じる。


 天を仰ぐように白銀の柱を見上げていると、遠くで俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

 俺の意識は、来た道を戻るように歩き出した。


『キル!キル!聞こえる!?』


(んぁ…あ?ああ、ディア先生)


『良かった…。もう、驚かさないでよ!魔力暴走を起こしたかと思ったわ!』


(いや、俺も驚いた。やたらデカイ湖から白銀の粒がいっぱい浮かんでさ、螺旋の渦になってスゲー勢いで昇って、最後はデカイ柱みたいになった)


『え?湖に引き摺り込まれそうになったんじゃなくて?遡る雫の色が見えたの?』


(キレイな白銀だったね。引き摺り込まれそうには、なってないな)


『…呆れちゃうわ。魔力の色が判った上に、あれほど膨大な魔力を柱にしたなんて。それはね、キルが魔力を制御した証拠よ。この部屋の魔力遮蔽が消し飛ぶところだったのよ?私が結界を張ったから持ち堪えたけど』


 そんなこと言われてもな…

 でも、まあ、あれが俺の魔力なら、悟り級の術式でも乱発できそうだな。

 うん、魔力が多くて困る事はないだいろう。


(ディア先生、あの柱みたいなのが、もしかして魔力路?)


『そうよ。但し、柱は魔力の放出経路よ。供給経路は別にあるの』


(ああ、池の底から湧いてる方だろ?)


『…普通はね、雫を作るのに数ヶ月、上への流すのに数ヶ月、細い柱を作るには数年間の鍛錬をするのよ?それだけじゃないわ。流れの速さを安定させて、柱を徐々に太くしていくの。そこまで出来て初めて、供給経路を感じることが出来て、上へ流れる量と速さ、湧き出す量と速さを同調させる鍛錬を始めるのよ』


 え?なに?そんなジットリした目を向けられるのは…なぜ?


『キルアスは本物であるが故に!鬼神と成った暁には、吾輩と尋常に勝負をするのである!!』


『この脳筋は放っておいていいわ。キル、今の時点で、私が教えるべき事はもうないわ。今後は魔力路を意識して、魔力を流す速度を変える鍛錬をしてね。注意すべき点は、流す速度を変える時に、淀みや急流を生まないこと。いい?』


(わかった。ディア先生に会えないのは…ちっと惜しいけど、きっちり鍛錬を続けるよ)


『あら?教える事はないけど、私はキルに会いに来るわよ。ダメだったかしら?』


 そう言ったディア先生の笑顔は、悪戯が成功した少女のようだった。

 この世界に転生してからの俺、和んでるなぁ。

 前世で戦いに明け暮れた荒んだ日々が、夢か幻だったみたいだ。


『やっと吾輩の出番が来たのである!キルアスよ!気力の鍛錬を始めるのである!』


(あ、それは出来ると思うから、いいや)


『何故に!?』


 俺は再び目を閉じて金剛の咒式を想起し、気力を感じるべく、体の正中に意識を向けた。

 正中にある、仄かに光る球体から、暖かな流れを感じた。

 球体は光を徐々に増し、暖かな流れが全身へと広がり始める。

 正中だけで感じていた暖かな流れが、全身を包み込んだ。


 気力は…黒くないんだな。むしろ白、か?

 なるほど…気力の流れは、自在に操れるのか。


 気力の流れを様々に変えていると、体を覆う気力が、体外へと流れ出るのを感じた。


 あーこれは、ダメだな。体の力が抜けていく感じだ。

 体の表面を薄く覆ってから…留める。っと…まだ違うな。

 流れを止めるとダメなのか。

 えーと…ああ、血流のイメージか?

 心臓を出て、全身を巡って、毛細血管から…戻ってくる感じで…こう。

 んで、体表に留めずに…皮膚呼吸な感じで…入れ替えて…循環、循環と。


 瞬間、循環する気力が熱を増大させ、噴き上がるような勢いを以て色を変えた。


―――ぅおいっ!!気力もかよっ!?


 輝く青銀の奔流が球体から噴き上がり、熾烈な熱波が全身を覆った。


 おおぅっ!これまた、激しすぎねーか!?

 はいはい、抑えて、抑えて…そうそう、んで漏らさないように…こう、ね。

 循環する量と速さが安定したことを確認し、目を開いた。

 すると、道を極めた本職の方が見せるような、鬼の形相をしたマルティアドが、俺を睨みつけていた。


『…気力を闘気に昇華するとは此れ如何にっ!?有り得ぬが故にっ!!』


(えーと、闘気?スーパー○イヤ人的な?)


『その種族は知らぬであるが、勁力どころか発勁まですっ飛ばして闘気へ至るなど、正気の沙汰ではないが故に!』


『キルったら…やりたい放題ね。でも素敵よ♪』


 素敵なら、いいよね?

 正気の沙汰なら、転生なんかしないでしょ。


(結果オーライでいいだろ。で、今後はどうすりゃいいの?)


『ぐぬぬっ…。これより以降は、出来得る限り少ない量で、闘気を長時間纏う鍛錬をするのである!その後は、闘気を失わぬ状態で体外へと球状に拡げるのである!さすれば、闘気の圏内に入った物理的な現象の全てを、刹那の内に感知することが可能になるのである!以上である!!』


 そう告げたマルティアドは、歯ぎしりをしながら帰って行った。

 何が悔しかったのだろうか?

 俺にガチマッチョと戯れる趣味などない。


『それじゃあ、私も戻るわね。今日は精神的にも肉体的にも大きな負荷がかかったのだから、キルはゆっくり休むこと。いいわね?』


(わかった。ありがとね、ディア先生。暇な時は遊びに来てよ)


『私こそありがとう、キル。たった数日だけど、こんな楽しさと、驚きを感じたのは、初めてよ』


 ディア先生も帰って行った。

 意識レベルには差があるんだろうが、神も人も、楽しいものは楽しい、辛いことは辛いんだろうな。


 さて、やるべきテーマを手に入れたことだし、俺も日々シコシコ頑張ろうかね。

 俺って何気に、努力家なんだよ。


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